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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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64 無職の少年、明日に備えて

「明日、一度帰るわ」



 食事の席で、前置きなく姉さんが告げた。


 何事かと思い、食事の手を止めて姉さんを見つめる。



「ん? どうかした、弟君?」


「え、いえ、いきなり帰るって言われたので……」


「結論だけでなく理由も話せ。混乱の原因はそれだ」


「あー、そういうこと? 持って来た分の薬が底をつきそうなのよ。だから補充しに世界樹に戻ろうかなってね」



 なんだ、びっくりしたぁ。


 居なくなってしまうのかと思い、不安になってしまった。


 普通に過ごせているのも、姉さんが一緒に居てくれればこそなんだし。



「ついでに食料も用立ておけ」


「言われなくても分かってるわよ」



 食事に同席してはいるものの、グノーシスさんは食事を取ってはいない。


 ブラックドッグと同じく純粋な精霊なので、魔力しか摂取しないのだ。


 ちなみに、食事は僕が作っているわけだが。


 姉さんに任せても、焼くことしかできないし。



「弟君も一緒に帰りましょうね。一日、のんびり休みにしましょ」


「えっと……」



 勝手に決めて良いものか、判断に困る。


 尋ねるようにグノーシスさんを窺う。



「構わん……が、明日休むというなら、今日の遠慮はいらぬな」


「いるわよ! いるに決まってるでしょうが!」



 どうやら、今日は一段と疲れることになりそう。


 あーでも、明日休みって聞いたからか、気持ちが軽くなったかも。


 ここに居ると、夜が訪れないから、日付の間隔が狂って来るし。


 ずっとここに居るような、そんな錯覚に陥る。


 家が妙に懐かしい感じ。


 みんな、元気にしてるかな。



「どうやら、弟君のお気に召したみたいね」


「え?」



 声に意識を戻せば、姉さんが嬉しそうにこちらを見つめていた。


 視線を移せば、グノーシスさんもこちらを見つめている。


 何だか急に恥ずかしくなってくる。



「な、何で見てるんですか」


「だって、弟君があんまりにも嬉しそうにしてるんだもの」


「そ、そんなこと……」



 手で顔に触れてみるけど、良く分からない。



「そうやって確かめてるようじゃ、バレバレよ」



 姉さんの腕が伸びてきて、頭をサワサワ撫で始めた。


 むー。


 どうやら揶揄からかわれたらしい。


 できるだけ不機嫌そうな顔を作って抗議する。



「あらあら、むくれないで。折角の可愛い顔が台無しよ」


「そんなこと言われても、嬉しくありません」


「ほら! すっごく可愛いでしょ⁉」


「同意を求めるな。理解が及ばん」


「この可愛さを理解できないなんて……残念過ぎる性格よね」


「残念なのは娘の方だろうがな」



 激しく同意。


 姉さんの可愛いは、いまいち信用ならない。


 あと、嬉しくないし。


 可愛くないって言われるよりかは、マシかもだけど。



「食事が済んだのなら、始めるぞ」


「剣だけで相手してよね」


「ああ。分かっている」



 さぁ、今日も頑張らないと。






 魔装化まそうかで生成した短剣での訓練。


 魔力が切れたら緑の泉に入り。


 その次は筋力付けの運動。


 回復にポーションを飲んで。


 最後は型稽古。


 いつもどおりに。


 もしくは、いつもよりも少し多めに。


 終われば地面に倒れ込むほど疲れてしまう。



「地面に寝そべると髪に土が付いちゃうでしょ。ほら、膝枕してあげるから、頭を上げて」



 荒い呼吸を繰り返しながら、ヨロヨロと上体を起こす。


 と、頭の後ろを数度払われる感触。



「ほら、やっぱり。綺麗な髪なんだから、汚さないようにしないと勿体無いわよ」



 ポスッ。


 頭を柔らかい感触が迎えてくれる。


 まだ息が整わず、返事ができない。



「少し髪が伸びてきたかな。偶にはバッサリ短くしてみる?」



 フルフルフルフル。


 声の代わりに頭を左右に振って意思を示す。


 短髪には良い思い出が無い。


 と言うか、妹ちゃんに笑われたのが、未だに尾を引いている。


 だから絶対に短髪にはしない!



「そんなに嫌? まぁ、短くしちゃうと、女の子っぽくは無くなっちゃうけどね」



 いや、そんなことで嫌がってるわけじゃないよ⁉


 そんな風に見られてたの⁉



「ならいっそのこと、もっと伸ばしてみる? きっと美人さんになるわよ」



 ブルブルブルブル。


 頭を左右に激しく振る。


 あ、クラッと来た。



「えー、お姉ちゃん、見てみたいけどなー」


「……嫌ですよ」



 ようやく息が整ってきたので、そう抗議しておく。



「じゃあ、どんな髪型にしたい?」


「いつもどおりでいいです」


「紐で結んでみてもいいけど」


「女性化はしなくていいですから」


「そういうつもりじゃないわよ? 短くしないなら、結んでやれば涼しくなるかなってね」


「別に、暑いわけじゃありませんし」


「いっつも同じ髪型じゃあ、つまんなーい」



 それが本音か!



「僕の髪で遊ぼうとしないでください」


「お姉ちゃん特権よ」



 いや、意味が分からないですし。



「何なら、お姉ちゃんとお揃いの髪型にしてみる?」



 姉さんの髪は長い。


 いつもはポニーテールにしてるけど、お風呂とかだと腰ぐらいまである。


 水を含んだ髪は、傍から見ていても重そうだ。



「そんなに伸ばすのはちょっと……」


「大丈夫よ。ちょっと後ろを伸ばせば、結べるぐらいにはなるわよ」


「……いつまでここに居るつもりだ。邪魔だ。さっさと寝ろ」


「何よ、ちょっとイチャイチャしてただけじゃない」


「妄言はいらん。さっさとね」


「はいはい、分かったわよ。じゃあ弟君、一緒に寝ましょ」



 膝から頭を退ける。


 先に立ち上がった姉さんに手を引かれて、僕も立ち上がる。


 移動する背に、グノーシスさんの溜息が聞こえた気がした。






本日は本編65話までと、SSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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