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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
92/230

63 無職の少年、実戦訓練

 変化は劇的とは行かなかった。


 相変わらず、魔装化まそうかで生成した短剣は砕かれる。


 けれど、その頻度が減った。


 型稽古で実物に触れる時間を重ねることで、再現性が向上しているらしい。


 当然、型稽古そのものも、影響を及ぼしているわけで。


 多少は攻撃を凌げるようになった……気がする。


 何せ今まさに、初めて3回連続で攻撃を凌いでみせたのだから。



「容易く集中を切らすな」



 攻撃のタイミングがズラされる。


 構えてから攻撃するまでの間隔が長い。


 気付くのが遅すぎた。


 こちらは既に、先程と同じように短剣を振るってしまっている。


 弾くはずの石剣は来ず、短剣が空を斬った。


 生じる隙。


 見逃されるはずもなく、短剣を石剣が砕き、身体は回し蹴りで吹き飛ばされてしまった。






 痛みに顔をしかめながらも、ヨロヨロと立ち上がる。


 倒れていては、更に攻撃を見舞われるだけ。


 視線も相手から逸らさない。


 …………あれ?


 何だか、グノーシスさんの表情が違う?


 普段は鋭い目付きだけど、今は姉さんそっくりな優しい眼差しに見えた。


 いつだったかも、そう思ったような気がする。


 意外なモノを目にして、動きが止まる。


 と、不審に思ったのか、怪訝な表情に変わってしまった。



「構えも取らず棒立ちするとは」



 ――来る!


 距離が一気に詰められる。


 短剣を生成して、正面に構える。


 振るのは相手が攻撃して来てから。


 石剣の位置は脚の横。


 予想される軌道は、斜め下からの斬り上げ。


 だけど、それ以外の行動もあり得る。


 視点を石剣のみに集中し過ぎないように。


 視野を広く取り、全体像を見据える。


 膝を曲げて、咄嗟に移動できるようにしておく。


 相手の攻撃範囲に入った。


 攻撃は――まだ来ない⁉


 さっきと同じように、タイミングがズラされている。


 動きそうになる身体を留めおく。


 相手の足が一際強く踏みしめられる。


 攻撃の前兆。


 次に動いたのは脚。


 ――蹴りだ!


 横からではなく正面から。


 足裏が迫る。


 僅かに遅れて、身体を動かす。


 回避を選択。


 石剣とは反対方向へと飛び退く。


 離れる間際、視線がかち合った。


 瞬間、全身を悪寒が駆け巡る。


 相手の体が突き出した脚を軸に横回転してみせた。


 反対側にあった石剣が、頭上から降ってくる。


 身体はまだ横跳びの体勢のまま、中空にある。


 避け切れない!


 反射的に腕を伸ばし、短剣を盾代わりに身体の前へと翳す。


 石剣と短剣が激突する。


 ピシピシッ。


 短剣から異音が生じる。


 既に表面に罅が入っている。


 けどまだ砕けない。


 肘を曲げながら、衝撃を少しでも吸収しようと努める。


 短剣が砕かれる間際、再び地面に足をつき、更に跳び退く。


 パリーン。


 破砕する短剣。


 しかし、どうにか石剣を身体に受けることは無かった。



「ほう、上手く対処してみせたな」



 地面に触れる寸前で石剣を止め、相手の姿勢が戻された。


 攻撃を受け止めた掌や腕が、ジンジンと痺れている。


 この状態だと、次の攻撃は受けきれない。


 相手の動きを待たず、距離を取るため駆け出す。



「思考が単純過ぎる。離れれば安全などと決めつけるな」



 不穏な言葉に、視線を相手から逸らす。


 それはいつかと同じ光景。


 いつの間にか、鋭く伸びた鉱石が周りと取り囲んでいた。



「ッ⁉」



 思わず息を呑む。


 早く対処しないと。


 破壊か防御か。


 咄嗟過ぎて、声が出せない。


 以前と同じ要領での破壊は無理そう。


 なら防御を固めるしかない。


 頭から爪先までを鎧で覆い尽くす。


 硬く幅広に。


 衝突に備える。


 パリーン。


 甲高い破砕音が響き渡った。






 が、予想した衝撃は訪れなかった。


 視線がその要因を見つける。


 すぐそば。


 姉さんに抱きとめられていた。



「やり過ぎ! 下手すれば怪我どころじゃ済まなかったでしょ!」


「娘よ、手を出すな」



 周囲を見渡せば、鉱石は全て砕かれていた。


 やっぱり、姉さんが助けてくれたらしい。



「何でそう、搦め手ばっかり使うのよ! もっと普通に戦ってあげてよ!」


「己ではやらぬ癖に、口出しばかり達者だな」


「石剣でだけ戦って! 他は禁止!」


「攻撃が限定された状況を繰り返すなど、愚かの極みだろう」


「最初っから全部詰め込むなってことよ! 慣れて来てからでもいいでしょ!」


「全く……口喧くちやかましいことだな」


「もう、油断も隙もあったもんじゃないわ。……けど安心してね。危なくなったらお姉ちゃんが助けてあげるから」


「有難うございます」



 あのまま衝突していたら、どうなっていたのだろう。


 やっぱり怪我したのかな。


 姉さんが助けてくれなかったら……。


 けど、いつもいつも姉さんに助けて貰うわけにはいかない。


 今はまだ、助けられてばかりいるけど。


 独りでだって、戦わなきゃならない。



「邪魔が入ったが再開するぞ。しばらくは剣だけで、な」


「また危ないことを仕出かしたら、割って入るからね」


「邪魔が過ぎれば、排除するがな」


「フンだ。じゃあ弟君、続きも頑張ってね。応援してるから」


「はい」



 一度強く抱きしめられてから、姉さんが離れてゆく。


 攻撃が限定されるのは有難いけど、だからって油断なんかできやしない。


 まだまだ対処が追い付かないことの方が多い。


 それに何より、グノーシスさんはまだ魔装化まそうかを使っていないんだから。






本日は本編65話までと、SSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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