SS-22 オーガ妹の危ない訓練
ケンタウロスの集落に住まわせて貰い始めてから数日。
感じたのは、世界樹よりもお腹が空くってことだった。
「健啖なのは良いことだけど、それにしてもよく食べるわね」
「モグモグモグ……えっと、けんたんって何?」
「沢山食べるって意味よ」
「そっかぁー、モグモグモグ」
「コラッ、少しは遠慮ってものを覚えなさい」
「うえぇー、だってだって、お腹が空くんだもん」
「あらあら、アルラウネちゃんたら。子供は沢山食べて大きくなるものでしょ? 遠慮せず、お腹いっぱい食べて頂戴」
「いえあの、見た目こそ幼いけど、子供って歳でもないのだけど……あと、ちゃん付けは止めて。これでも大分年上なので」
アルラウネさんが一緒に付いて来てくれたのは有難いんだけど、ちょっと口煩いなぁ。
オネーチャンの方が、まだマシ…………かどうかは分からないか。
沢山食べるのは、この後、沢山動くからだし。
仕方ないよね。
集会場を借りて寝泊まりしてるけど、誰かしら面倒を見にきてくれる。
何でか、女口調の男ばっかりだけど。
悪い魔族じゃないけど、変な魔族ではあるよね。
見ていて気付いたのは、低所の作業が苦手ってことかな。
下半身が馬だから、上手にしゃがめないみたい。
だから、暇なときはその辺の手伝いをしたりしてる。
「ねぇねぇ、今日は狩りに行く?」
「昨日行ったばかりだから、今日は行かないわね。そう頻繁に狩りをしちゃうと、獲物が枯渇しちゃうもの」
「そっかー」
「弓矢の訓練がしたいのかしら?」
「うん。だから、ごーれむちゃんのところに相手して貰いに行って来るよ」
「一応断っておくけど、あの門番様は集落の守り神様なのよ。だから、乱暴な真似は控えて頂戴ね」
「分かったー」
「見張っておくから、心配いらないわ」
「お願いね」
ケンタウロスもアルラウネさんも酷いよぉ。
少しは信用してくれてもいいのにさー。
大体、ごーれむちゃんってめちゃくちゃ強いし、ウチがどうこうできるわけないと思う。
矢なんか刺さらないし。
「出掛けるときは声を掛けなさいよ? 一人で勝手に行かないようにね」
「分かってるってば―」
退屈はしなくて済むけど、自由って感じじゃないのがなぁー。
前みたいに、いきなり魔物に襲われても困っちゃうけどね。
即応できない分、弓矢って不便過ぎ。
ま、さっさと食事を済ませて、門に行こっと。
「おはよー、ごーれむちゃん」
「おはようデス」
果樹園を両側に備えた並木道を歩き終え、ゴーレムちゃんと挨拶を交わす。
今日もフリフリ衣装が可愛い。
声も可愛い。
「ハァ、ハァッ。あ、歩くの速いってば」
と、息を切らたアルラウネさんが、フラフラしながら少し遅れて到着した。
「そんなこと言われても……アルラウネさんが運動不足なだけじゃんかぁー」
「ハァッ、そんな、ハァッ、急ぐこと、ハァッ、ないでしょ」
「食後のウンドーだよ!」
「ウプッ…………消化する前に、出てきかねないわよ」
『大丈夫コロ?』
「コロポックルも心配してるよー」
「だ、大丈夫。無様は晒さないから」
アルラウネさんの腕の中からコロポックルが抜け出し、心配そうに周囲を飛び回っている。
小さくて丸くて可愛い。
偶に抱っこさせて貰うけど、フワフワした不思議な感触がする。
それもまた良き。
「今日も遊びに来たデス?」
「遊びじゃないよー! 弓矢の訓練だってばー」
「ごーれむちゃんは、的ではないのデス」
「どぉーせ当たってくれない癖にぃー」
「当たったら服に穴が空いちゃうデス」
「およ、それもそっか」
フリフリ衣装が穴だらけになったら悲しいもんね。
けど、何だかんだ言って、付き合ってはくれるんだよねぇー。
「危ないので、門の内側に向かって撃ったら駄目デス」
「だいじょぶ」
「あと、外から誰か来るかもしれないので、撃つ前に要確認デス」
「はーい」
門を横側に置いて、ごーれむちゃんから大股で10歩離れた位置まで移動して向き直る。
最初はこんなものかな?
言われた通りに、前方だけじゃなく左右と背後も確認。
護衛のためか、横にアルラウネさんとコロポックルが居る以外、他には誰も来ていない。
安全確認、かんりょー。
「いっくよー」
「バッチコイ、デス」
矢を番えて、弦を引き搾る。
呼吸を整え、息を止め……。
――射る!
ヒュン。
小気味よい風切り音。
一瞬で彼我の距離を食い尽くす。
「お見事デス!」
けれども矢が当たることはない。
当たる寸前、素早く指先で掴み取られているのだから。
位置は大体、胸の辺りかな。
「くっそぉー! また取られたぁー!」
「コラッ、汚い言葉遣いしないの」
「ぶーぶー」
アルラウネさんから注意を受ける。
悔しい。
もっと近くから放っても、当たる気がしない。
トボトボと、更に距離を空ける。
追加で10歩。
「同じ位置を狙うデス」
「おっけぇー」
さっきと同じ位置を狙うには、射角を少し上げないと。
素早く周囲の確認を済ませ、構え始める。
矢を番えて、弦を引き搾る。
このぐらい……かな?
呼吸を整え、息を止め……。
――射る!
ヒュン。
「ちょっと上気味だったデス」
「そっかぁー」
射角を上げ過ぎたらしい。
距離を変えずに、もう一度試す。
同じ位置に当たったら、また距離を取る。
そうやって、当たらなくなるまで続ける。
ケンタウロスたちみたいに、動きながら射るなんて真似はまだできそうにない。
つまり、まだ上達する先が存在しているわけで。
何だかムズムズしてくる。
オネーチャンもオトートクンも、ウチよりも強い。
遊び相手として、ウチは物足りないだろう。
もっともっと強くならないと。
思わず口元がにやける。
当分は退屈せずに済みそう。
本日はあと、SSを1話投稿します
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
 




