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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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58 無職の少年、不出来

 魔装化まそうかの訓練内容に、武器の具現化が加わった。


 けど、実際に持っているわけじゃないので、どうにも上手くいかない。


 棒はともかく、剣は酷い出来栄え。



「それが剣のつもりか」



 浴びせられるのは声だけに留まらない。


 グノーシスさんの剣が、不出来な剣を容赦なく打ち砕く。



「脆い。硬さもまるで土塊のそれだな」



 手の中のモノが崩れてゆく。


 グノーシスさんは魔装化まそうかすらしてないのに。


 それでも敵いはしない。


 更に言えば、砕いて見せた相手の剣は金属ですらない。


 即席で作り出された石製なのだ。



「そんなモノで幾ら技を繰り出そうが、どのような相手にも通じまい」



 返す言葉もない。


 今までだったら、思うままに力をふるえば良かった。


 意思に応じて、形を成してもくれていたはず。


 けど、明確に再現しようとするのが、こんなにも難しいなんて。



「武器を手にすれば、おのずと攻撃の手を読まれ易くもなる。今のままでは、精々が囮に使えるぐらいか」


「ちょっと! 弟君を追い詰めるようなこと言わないでよ!」



 姉さんが口だけでなく、身体ごと割って入ってきた。


 僕を背に庇い、グノーシスさんと対峙する。



「最初っからできるものでもないでしょ」


「いつであろうとも、失敗は失敗だ。使えぬものに縋るほど、愚かしいこともあるまい」


「考え方が極端過ぎるのよ。どうやったらできるようになるか、少しは考えてあげてよ」


「打ち合いで事足りよう。折れず砕けぬモノができるまで、何度でもな」


「もう!」



 一際大きな声を張り上げ、姉さんがこちらに向き直る。


 膝を曲げ、目線を同じ高さに合わせてくれる。



「いきなり剣は難しかったかな。もっと別の……そう、集落で借りた短剣とかならどうかしら?」


「短剣じゃあ、剣と戦うなんて……」


「焦らないで。まずは再現し易いモノから試してみましょう? 実際に持ったことがあるモノの方が、再現もし易いと思うわ」



 手が伸ばされて、頬を優しく撫でられる。


 不思議と気持ちが落ち着いてゆく。


 知らず知らずのうちに、焦燥感が募っていたらしい。


 こちらの表情が変わったのを見て取ったのか、手を放し離れていった。



「もたもたするな。敵は準備が整うのを律儀に待ちはせん」



 言葉と同時に、剣が目の前まで迫ってきていた。


 咄嗟に短剣らしきモノを形成し、剣に対抗する。


 ぶつかり合う。


 だが、僅かの拮抗すら望めない。


 抵抗など無いとばかりに一息で粉砕し、石剣が身体に当たる。


 まるで紙切れの如く、軽々と吹き飛ばされてしまう。


 悲鳴すら上げられず、壁へと激突した。






 魔装化まそうかの次は身体作り。


 腕立て、腹筋、背筋などなど。


 地味で苦しい時間が続く。



「どうせ身体は癒せるのだ。壊れるまで動け」


「言い方!」


「今やっておかねば、後悔するだけだ」


「休憩だって大事なんだから。精神的に参っちゃうわよ」


「惰弱なことだ」


「みんながみんな、同じように強くなんてなれないわよ」



 グノーシスさんと姉さんの声。


 聞こえはするけど、内容までは入ってこない。


 余裕はおろか、余分すらもなく。


 こなした回数だけを数え続ける。


 終わるまで、倒れるまで。


 ずっと。


 何日も続けているのに、少しも楽にならない。


 最初こそ動きは軽快だけど、徐々に動きは鈍くなる。


 100回が10回に、10回が1回に。


 身体が痛い。


 息が苦しい。


 できたことができなくなる。


 そうして自重すら支えられずに、地面へと倒れ込む。



「休憩にしましょう。さ、膝枕してあげるわね」


「ハァッ……回数もたいして伸びぬか」


「そんな風に言わないでよ。こんなになるまで頑張ってるじゃない」


「努力を褒めるな。それは目的どころか目標ですらあるまい」


「やる気を削いでどうするのよ」


「言葉に左右される程度ならば、どの道、意味を成さぬ」



 魔装化まそうかも上達しないし、筋肉も付かない。


 雑念を振り払おうとしても、すぐさま纏わりついてきてしまう。


 少しも強くなっていない。


 全然強くなれない。


 積み重なっていくのは、疲労と焦りばかり。


 実感が得られない。


 こんなに辛い思いをしてるのに。


 こんなに頑張ってるのに。


 何で、どうして。


 思い当たるのは、どうしようもない事実。


 生まれながらに天職が備わっていないということ。


 全てはその所為なんじゃ……。



「誰だって、いきなり強くなんてなれないわ」



 頭、ではなく、目を覆うように手が乗せられる。



「みんな努力してる。お姉ちゃんだって、最初から強かったわけじゃないもの」



 ひんやりとした手の平。


 火照った身体に心地よい。



魔装化まそうかは強力よ。でもだからこそ、使い方は慎重にしないと」



 天職を持たない僕が、唯一敵い得るすべ



「制御を誤れば、身近な誰かを傷つけてしまうわ」



 いつかの狩りでのこと。


 襲われる動物たちを見て、暴走してしまった。


 姉さんが止めてくれなかったら……。



「強くなることばかりに囚われないで。力に呑まれては駄目よ」



 ならどうすればいいんだろう。


 ずっとずっと同じことを繰り返していれば、いつかは暴走せずに強くなれるの?


 でも、それっていつのこと?


 あと何十日、何年掛かるの?


 いつまでもは待てないよ。


 だって、強くなる前に、こんなにも気が狂いそうなんだもの。






本日は本編60話までと、SSを2話投稿します


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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