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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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SS-21 団長の危惧

「んで、何用だい?」


「許可なく口を開くな」



 やれやれ。


 会うのはしばらく振りだってのに。


 堅苦しいのは相変わらずかい。


 先々代の副団長だった男で、かつての相棒。



「規則やらが苦手なのは知ってるだろ? 他の連中が居るでも無し、別に構いやしねぇじゃねぇか」


「ハァ……相変わらずですね」



 今度は別の声。


 嬢ちゃんの姉貴分で、先代の副団長でもあった。



「そりゃあ、そうそう変わることはねぇさ」



 呼び出されて来た場所は、聖都の象徴とも言える塔。


 バカでかい空間の中央には、階段状に積まれた四角錐しかくすいの石段。


 その頂上に光の柱が伸びている。


 猊下が、いや、いつもどおりに聖騎士たちが何やら用があるらしい。


 相棒やら元部下やらの顔ぶれの所為で、どうにも畏まる気が起きやしねぇ。


 変わらず跪くことなく、立ったままで応じる。



「オッサンよぉ、オレらは上役なんだぜ? いつまでも昔の付き合い方されちゃあ堪らねぇ。いい加減、弁えてくれや」


「オイ、小僧。他の連中と同格になったと、本気で思ってるわけか? そりゃあ随分と弁えてねぇな」


「んだとぉ⁉」


「弱さを自覚しろ。でなきゃ、いずれ自滅するぜ」



 こいつに関しちゃ、昔っからいけ好かねぇ。


 オレや嬢ちゃんよりも劣っているはず。


 性格なんざ劣悪だ。


 過去のやらかしもある。


 何故、聖騎士に選ばれたのか、サッパリ分からねぇ。



「無駄口は終いじゃ。全く……聞き分けが無いのは治らぬか」


「最初に問いは終えたぜ? こちとら、答えをずっと待ってるんだがねぇ」


「許可もしておらんのに、べらべらと喋りおってからに」


「悪いな爺さん。こういう性分なんでね」


「敬いも足りぬ」



 最後に爺さんか。


 オレが騎士になったころには、もう聖騎士だった化け物だ。


 60はとうに超えてるだろうに、元気なもんだぜ。



「話を進めましょう」


「……仕方あるまい」


「ケッ」


「大人しゅう聞け。オヌシには宿願たる世界樹の破壊を担って貰う」


「……何だって? アレは壊せねぇって結論じゃなかったか?」


然様さよう。魔法でも無くば破壊不可能じゃろうて」


「遂に耄碌もうろくしちまったのか? 魔法が封じられてるってのに、魔法じゃないと壊せねえって……」


「大人しゅう聞けと言うたじゃろう。策は当然ある。精々が倒せて一本といったところかのう」



 どういうことだ?


 ……そういやぁ、最近やけに塔への物資が届いていたように思ったが。



「何を運び込んでやがったんだ?」


「フォッフォッフォッ。流石に察しが良いようじゃな。採掘された品に、少し手を加えた物じゃて」



 魔法を実際に見たことのある者など、今の世に生きてるわけがない。


 200年以上も昔のことなのだ。


 その妄想の中にしかない魔法とやらにする力があるってのか。



「ちと扱いが難しい品でな。扱える者を同行させるゆえ、その護衛を頼みたいわけじゃ」


「お守りをしろってか」


「楽な仕事じゃろう?」


「聖都の守護はどうすんだ? そのために呼び戻されたんじゃなかったのかよ」


「オッサンが居ないぐらいで、ここを突破されるわきゃねぇだろうが」


「ワシらがその間、守りを請け負う。10名ほどを選出し、事に当たれ」



 世界樹の破壊は、教会の悲願でもある。


 神ならぬ存在を、教会が容赦するはずもない。


 しかし、猊下の警護を疎かにしてまで、事を成そうとするとは。



「余程に自信があるってわけかい」


「実際に目にしてみれば分かるというものじゃ」


「失敗した場合は?」


「二度目は警戒もされよう。初撃で保有しておる物を全投入するつもりじゃ」


「次善作の用意もねぇのかい?」


「心配性じゃな」


「世界樹を壊せるって品だ。こっちも安全とはいくまいよ」


「ゆえにオヌシに任せるのじゃ。守りに関しては得意じゃろう?」



 つまり、刻印武装まで使わせる腹か。


 相当に物騒な品らしい。



「壁の連中はどうする」


「どういう意味でしょうか?」


「嬢ちゃん――いや、副団長や騎士たち、何より住民も居るだろうが。世界樹を破壊っつったって、木っ端微塵ってわけにゃいかねぇだろう」


「それは……」


「壁を放棄して逃がせと? 世界樹が無くなればこそ、壁の意味もあるのじゃぞ」


「その壁が無事に済むって保証も無しにか」


「お待ちを。せめて一番近い壁からは退去させるべきでは? いたずらに人命を損なうのは如何なものかと」


「何事にも犠牲は付き纏う。が、犠牲をいる場面でもあるまい」


「下手に動いてみせれば、相手に気取られるかもだぜ?」


「…………」


「おいおい爺さん。いつから教会は狂信者の集まりになっちまったんだい? 守るべきモノを、履き違えてやしねぇか?」


「……避難はギリギリまで待て。気取られる懸念は拭いきれぬ」


「やれやれ、強情なこったぜ」


「良いな? 先触れなど以ての外じゃぞ」


「いきなり避難してみせろって言われても、即応なんざ誰もできねぇぜ?」


「同意を得る必要もあるまい。救えれば手段など選ばぬことじゃ」



 雲の上まで届く世界樹だ。


 もしこちら側に倒れて来れば、被害は甚大。


 ましてや、事前の知らせなく避難することなど叶うまい。



「ようやくじゃ。ようやく、あの忌々しい樹を取り除くことができる」



 爺さんの妄執か?


 巻き添えになる連中が不憫過ぎるだろうに。



「近日中にこちらの準備は整う。場所の選定も含め、用意を怠るでないぞ」


「フゥ。やるしかないってわけか」


「頼みます。どうか――」



 そう心配そうな顔しなさんなって。


 嬢ちゃんには、どうにかして知らせてやるさ。



「ああ、まぁ、やれるだけやってみるさ」


たわけが! 悲願成就は目前じゃ。世界樹に通用せん場合は致し方ないが、それ以外の失敗は許さんわい!」



 肩をすくめることで応じてやる。


 さて、急がねえと、色々間に合わなそうだぞこりゃあ。


 まずは壁に向け、早馬の用意か。






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

第二章、開幕!

人族が世界樹の破壊に向け動き出す中、主人公たちは未だ知る由もない


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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