SS-19 女騎士のダンジョン探索
次の壁に現着後、早々にダンジョンの調査を開始した。
近場はやはり、演習場所と化しているらしい。
が、朗報もあった。
2日ほどの距離に、演習では使われていない中規模のモノがあるとのこと。
そこだ。
目指す場所は定まった。
問題は人選か。
単独では、何かあった場合に詰む。
かと言って、余り戦力を投入してしまえば、壁が手薄になってしまう。
もし素行の悪い者たちを連れて行けば、返って足手まといの可能性もある。
逆に、その者たちを残して行けば、壁の治安悪化が懸念される始末。
適当な人選に悩むこと1日。
ワタシを含めた、計10名で向かうことにした。
移動に片道2日、探索に1日を想定。
物資を2倍分を用意し、万一の場合に備えておく。
件のダンジョンは、過去に騎士団が探索を終えており、その後も数年おきに討伐隊が組まれたようだ。
残念ながら、ワタシは参加したことがない。
幸いにして、ダンジョン内の地図が残されていた。
情報は地図だけではない。
巣食う魔物についてもあった。
スパイダー。
蜘蛛型の魔物が大繁殖していたとのこと。
粘着性の糸がとにかく厄介だが、火に弱いらしい。
母体の討伐に加え、トラップや転移魔法陣の破壊を行ったそうだが。
ダンジョンには独自に修復する力が備わっている。
魔物が再び蔓延っているとの想定で動くべきだろう。
道中、魔物に襲われることもなく、無事に到着を果たす。
2名と馬を残し、残りの8名で突入する。
壁、床、天井、どれも溝の部分から緑色の淡い光が照らしている。
光源はこれでも十分そうだが、糸対策として松明も灯して進む。
通路は広い。
小規模に比べて、2倍ほどもあろうか。
大人4人が余裕で通過できる。
4名ずつ2組に別れて行動する。
地上1階、地下3階層からなる内部を、上から順に隈なく探索してゆく。
地上階に魔物の姿は無い。
が、トラップが既に復元されていた。
とはいえ、地図に記されていたのと同じ箇所。
どこにあるか分かっていれば、対処も容易い。
避けるのではなく、帰りのことも考え、都度破壊しておく。
地下から魔物に追われる可能性もあるのだ。
落ち着いて対処できる、今の内に処理するに限る。
天井こそ調べきれないが、床や壁は隅々まで念入りに調べていく。
叩いて反響音に耳を澄ませる。
特に注意すべきは隠し部屋の有無。
以前の探索が、どの程度の精度かまでは分からない。
未発見の部屋だけでなく、トラップの存在すら懸念される。
普通に探索する数倍の時間を掛け、地上1階を調べ上げた。
新たな発見は無い。
2組が合流を果たし、小休憩を取る。
地下一階。
ここにも魔物の姿は無い。
しかし、転移魔法陣は最奥に存在するのが常。
地図によると、このダンジョンも同様で、地下3階の最奥にあるらしい。
つまり、地下に行くほどに、魔物に遭遇する可能性が高まるわけだ。
上階よりも慎重に探索を進める。
広さは上階と同じ規模感。
構造も似たようなものだ。
小規模に比べ、部屋数が多いぐらい。
部屋にしろ、精々トラップがある程度のもの。
次第に同行している騎士たちの気が緩んでゆくのを感じる。
トラップがこれだけ復元されているのだ。
必然的に、転移魔法陣も復元されている可能性が高い。
ならば何故、内部に魔物の姿が無いのか。
こちらの想定とは違う様相を呈している。
つまりは、油断する要素には成り得ぬのだ。
騎士たちに気を引き締めるよう促し、更に探索を続ける。
地下二階。
いよいよ以て、不信感が強まってきた。
ここにすら魔物の姿が無い。
それどころか、痕跡たる蜘蛛の巣も見受けられない。
何か、想定外の事態が起きているのかも。
頭の奥で、警鐘が鳴り響いている。
魔物を屠る存在がいる気がしてならない。
だが、それならばなおのこと、調べぬわけにはいかない。
もしかしたら、ここが当たりなのかもしれないのだ。
魔族が潜伏しているからこそ、邪魔になった魔物が狩り尽くされている可能性がある。
その上で違和感もまたある。
今の今まで、魔物の残骸はおろか、戦闘の痕跡すらも見掛けてはいない。
素直に状況を受け入れるならば、この階層から上に魔物は発生しなかった、ということになる。
魔物が既に発生済みとの前提で考えた場合。
最下層、地下三階から、魔物が出られない何らかの理由が存在しているのではなかろうか。
通路の先の闇が増したような感覚。
騎士たちの軽口も自然と止み、挙動もどこかぎこちない。
息苦しさを覚えるのは、呼吸が上手く行えていないからか。
トラップの破壊にも苦労しつつ、落ち着きを取り戻すため、長めの休憩を取る。
地下三階。
嫌な予感は的中し、階下は魔物で溢れ返っていた。
本日はSSをあと2話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




