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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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SS-15 姉と母の語らい

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 土の上位精霊グノーシスのところで訓練することになった

 一度は姉と離れ離れになったものの、どうにか合流を果たす

 弟君は泉に入っている最中に寝入ってしまった。


 よっぽど眠かったらしい。


 もしくは、アタシと一緒に居たことで安心してくれたのか。


 そうなら嬉しいのだけれども。


 弟君を寝所に横たえる。


 流石に母の住処内で危険は無いとは思う。


 が、念の為、ブラックドッグに護衛を任せ、母と話すために広間に戻った。






 母は先程までと変わらず、即席の椅子に腰掛けたままだった。


 目をつぶってはいるが、眠っていないのは気配で分かる。



「まだ何か用か? 部屋は用意してやっただろう」


「弟君のこと、話しておこうと思ってね」



 再び母の対面の席へと腰掛ける。


 そこでようやく、母の目が開かれた。



「あの子供か。結局、何者だ?」


「本当に気が付いてないの? 勇者様の子孫よ」


「あの獣……やはりそういうことだったか。ならば、弟とやらはどういうことだ」


「弟君は家族を欲しているのよ」


「その物言い、本来の家族は」


「ええ。何の因果か、今代の勇者によって、ね」


「魔法の使えぬ勇者など、取るに足らぬ相手に思えるが」


「その場にアタシは居合わせなかった。そばに居てあげられなかった」



 ずっとずっと後悔が残っている。


 弟君の両親を覚えている。


 優しい人たちだった。


【意思疎通】以外、勇者の力なんて何も引き継いでやしない、普通の人たちだったのに。


 もっと強く反対しておくべきだったのだ。


 世界樹を離れ、地上に住むことを。


 そうしておけば、あんなことにはならなかったはずなのに。



「しかし、姉弟と言うには歳が離れ過ぎ――」


「些末事よ」


「そう、か……?」


「それに、親代わりなんて、なってはあげられないわよ。きっと誰にもね」


「ゆえに母ではなく姉、か」



 姉としては振舞えているはず。


 それでいい。



「夫の言葉が要因か?」


「切っ掛けはそうだけど。でも、今はアタシ自身の意志よ」


「アイツらを頼む、か。ドリアードといい、物好きな連中ばかりだな」


「世界樹に力を貸してるくせに、良く言うわよ」


母様かあさまが居るのだ。当然だろう」



 母様かあさま、ね。


 小さかった頃は、この場所に大きな水晶と、それを内包するように育った大樹がそびえ立っていた。


 母様かあさまとは、その大きな水晶のこと。


 魔力を多く宿した自然や生き物が、精霊を生み出す。


 ドリアードが大樹から生まれたように、母は水晶から生まれた。


 今、その水晶は、大樹と共に地上へ。


 つまり、世界樹の一つとして在る。



「弟君はどう? 見込みはありそう?」


「無いな。少なくとも今のままでは、大した成長は見込めんだろう」


「そう……」


「覚悟、意志、努力。そう言った精神的なモノが、まるで足りておらん」


「勇者様と比べたら、どう? 少しは似てたりする?」


「……どうだかな。あまり接する機会は無かった。が、まぁ、迷いこそあれ、成そうという意志の強さはあったように思う」


「弟君は?」


「言わずもがな、だ」



 弟君は精神的に、酷く脆い。


 勇者とご両親、どちらに対しても、未だ癒えぬ傷を抱えている。


 この間のように、かつての勇者様の話にも過剰に反応を示してしまう有様だ。


 色々と話をしてあげたいのに。


 もっと自分自身を誇って欲しい。


 ご両親を、ご先祖様を、誇りに思って欲しいのだけれども。



「奇縁だな。またの血族と巡り合うことになろうとは」


「もう、弟君を残すのみだけどね」


「これがせめてもの報いになれば良いがな」


「強くなって欲しい。傷つくことなく、決して死なないように。けど……」



 けれども。


 強くなれば、アタシの庇護も不要になってしまうかもしれない。


 いつか拒絶されるか、置き去りにされてしまう。


 そんな恐怖が常に巣食っている。



「どちらも分不相応な願いだ。誰もが傷つき死にゆく。抗うことなどできん」


「そうなのかな」


「精霊とて、無限に生きることは叶わぬだろう」



 母を見返す。


 純粋な精霊である母は、きっと人との混血であるアタシよりも長く生きられるに違いあるまい。


 アタシが先に死ぬのだ。



「もし、もし子供ができたら、面倒見てくれる?」


「……つがいの見当でもあるのか?」


「無・い・け・ど!」


「子の面倒は、親が見るべきだろう。が、それが叶わぬ事態が訪れたならば」


「ありがと」


「気の早いことだ。……まさかとは思うが、あの子供、そのために面倒を見ているわけではあるまいな?」


「そんなわけないでしょ!」


「ならば良いがな」



 弟君は弟君だ。


 異性として見たりはしていない。


 まだまだ甘えたがりな子供。


 できれば、今のまま可愛い姿で居続けて欲しい。


 アタシよりも先に老いてゆく姿は、想像などできないほどに苦しく切なくて悲しいもの。



「帰る前に、夫の墓を参っておけ」


「ええ、そうするわ」






本日はSSをあと6話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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