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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
72/230

55 無職の少年、一緒なら

 眠りを妨げるようにして、諍いは続けられる。



「何が不覚よ! 卑怯な真似しておいて、開き直るんじゃないわよ!」


「戦いに於いて、卑怯など惰弱な言い訳に過ぎん。負けぬように戦い、勝ち得ても油断せぬ。そう心掛けよと教えたはずだが?」


「帰って来た娘に襲い掛かるのが戦いってわけ? ハッ、ふざけないでよ!」


「敵はこちらの準備が整うのを待ちはすまい」


「戦いだの敵だの、いっつもそればっかりじゃない!」



 姉さんが声を張り上げる。


 いや、ずっと大声を出して抗議し続けているのか。


 丸一日もここで過ごしてないと思うけど、それでも凄く疲弊してしまった。


 姉さんがどれぐらいこの場所で過ごしたのかは分からないけど、同じ目に遭っていたのだとしたら、やっぱり辛かったに違いあるまい。



「何が不満だ。凌げるほどに強くなれたではないか」


「望んでこうなったわけじゃないわ」


「だが、そこの子供を鍛えるために、連れて来たのだろう?」


「弟君は普通の人族なのよ。アタシと同じようには行かないわよ」



 グノーシスさんの視線がこちらに向けられる。


 その目に、さっき見えたと思った優しさは宿ってはいない。


 鋭く冷たい眼差しが刺さる。



「普通かどうかは、疑問の余地がありそうだが」


「動けなくなるまでやる? 弟君は痛がってたし、泣いてたのよ!」


「その子供の怠慢ゆえだ。特別、厳しくなどしておらん」


「だから、その規準自体がズレてるって言ってるのよ!」


「つまり、どうしろと言うのだ?」



 姉さんが一度こちらを見て、目をつぶる。


 少し間を置いてから、再び正面へと向き直った。



「強くなりたいっていうのは、弟君の願い。なら、叶えてはあげたいわ」


「自らはその役を担わぬのだろう」


「アタシじゃ加減をし過ぎるし、任せっぱなしにすれば、弟君が壊れちゃうわ」


「ならばどうする」


「アタシもここに残るわ。無理だと判断したら、都度止めるために」


「娘よ。いったい何様のつもりでいるのだ」


「弟君のお姉ちゃんよ」



 グノーシスさんから、何かが発せられた。


 凄く怖くて息苦しい感じがする。


 でも、それに対抗するように、姉さんからも何かが発せられる。


 すぐさま変な感じは消えてゆく。



「そう、それだ。幾度か口にしている、その”弟”とは何のつもりだ?」


「えっと、それは……」



 再び姉さんがこちらに視線を向けて来る。


 今度はすぐに視線が戻された。



「今はちょっと、ね。詳しくはまた今度話すわ」


「フゥ……どこまでも自分勝手なことだ」


「そっくりそのまま、お返しするわよ」



 また戦い始めそうな空気だったけど、どうにか落ち着いたみたい。


 なら、そろそろ寝てもいいのかな。


 眠気が、けっこう辛い。


 油断すると、今にも意識が落ちてしまいそうになる。



「ふわぁっ」


「弟君、眠いの?」


「えっと、その、寝れなかったので」



 ギロリ。


 こちらに向き直った姉さんが、凄い勢いでグノーシスさんを睨み付けた。



「む。泉に入れれば治ると思っておったのだ」


「人族だって言ったでしょ」


「故意ではない。人を招いたのは、夫以来なのだ」


「原因も元凶も変わってないと思うけど」


「解決はした。先程用いた薬があれば、問題あるまい」


「ポーションを使わなきゃいけないぐらい、厳しくするつもり?」


「治せるなら良かろう。それぐらいせねば、魔装化まそうかはまだしも、生身では戦いにすらならん」


「それはそうかもしれないけど」


「本人の覚悟次第。どうだ? 早々に諦めて逃げ帰るか?」



 視線が集まる。


 欠伸を噛み殺し、一旦眠気を押しやる。


 ここには強くなるために来た。


 アイツを倒せる強さを。


 けど、その覚悟も決意も、一日も持たず崩された。


 辛かった。


 苦しかった。


 涙が溢れて零れるほどに。


 全ては、僕が弱いから。


 それでも、一人では耐え切れなかっただろう。


 今は違う。


 姉さんが一緒に居てくれる。


 なら、頑張れる。


 頑張ってみようと、そう思える。



「訓練を続けてください。お願いします」


「言うたな。撤回は聞かぬぞ」


「やり過ぎないで」


「成果次第だ。当分は苦行だろうがな」


「今度こそ、お姉ちゃんが一緒に居てあげるからね」


「はい。ありがとうございます」


「泉に入るときも、寝るときも、いつも通りに一緒ね」


「おい娘よ。今、妄言が聞こえた気がしたが」


「何がよ。あ、そうそう、弟君と一緒の部屋、用意しておいてよね」


「待て。赤子相手でもあるまいに」


「じゃ、弟君。泉で身体を綺麗にしましょう」



 姉さんに手を引かれ、立ち上がる。


 グノーシスさんがまだ話してる途中だけど、良いのかな。



「好き勝手振舞うな。こら待て!」



 声に背を向け、姉さんが歩き出す。


 手を引かれるままに、付いて行く。


 今まで足元に伏せていたブラックドッグも立ち上がり、一緒に付いて来る。



「子供相手に変な真似をするでないぞ!」


「しないわよ!」






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

SSのみの投稿となります。

次回更新で第一章完結。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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