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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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54 無職の少年、話し合い

 背中を中心に激痛が走ると、姉さんの顔がより近付く。


 どうやら、背中を支えられて、上体を起こされたみたい。



「やっぱりどこか怪我してるの⁉」


「いえ――ゲホッ、ケホッ」



 先程、大声を出した所為か、喉が渇いてしまい咳込んでしまう。


 痛みと苦しさで、涙が滲む。


 いや、それだけじゃない。


 姉さんだ。


 本物の姉さんが居る。


 その安堵も相まって、涙が押し出されていく。



「取り敢えずポーションを飲んで。怪我があるなら治るはずよ」



 口に当てられるのは、青色の液体が入った細長い瓶。


 流し込まれた箇所から、徐々に痛みが引いていく感覚がある。



「これ、もしかして魔装化まそうかした状態? 余計に消耗しちゃうから解除して」



 指摘されて思い出す。


 そう言えば、魔装化まそうかしたままだったっけ。


 念じると、すぐさま黒い霧が身体から分離してゆく。


 姉さんとは反対側に、ブラックドッグが形を成す。



「弟君を守ってくれたのね。ありがと」


『無論』



 何だか、ブラックドッグが誇らしげにしているように見える。






「――随分な有様じゃな」



 視界の奥、壁際に見知った姿があった。


 緑の女性。


 アルラウネさんかと思ったけど、体を覆っているのはつたじゃなく葉っぱ。


 精霊のドリアードさんだ。



「招かれざる客が、どうやって侵入して来た?」


「――答えるのはやぶさかではないが、まずは下りて来るが良かろう。話し辛いわい」



 まだ壁にめり込んだままのグノーシスさんに、そう声をかける。



『ドリアード様ポー!』


『良かったポー!』


『来てくれたポー!』



 今度は違う方向から複数の声。


 緑の球体が浮きながら、ドリアードさんの元へと集ってゆく。



「――おぉ、久方ぶりじゃな。みな、元気にしておったか?」


『大変だったポー!』


『止められないし、繋がらないし、困ってたポー!』


『子供は無事コロ?』



 ドリアードさんの腕に抱かれるコロポックルたち。


 そのすぐそばに、グノーシスさんが降り立った。



「成り行きとは言え、精霊たちはとうの昔に受け入れたモノたちだ。危害など加えておらん」


「――そうかそうか。もし僅かなりとも怪我を負っておったなら、仕置きの一つもくれてやるところじゃったわ」


母様かあさまの件での恩義、仇で返すような真似はせん」


「――良い心掛けじゃな。さて、落ち着いて話すならば、一席設けて貰おうか」


「歓迎はしておらん。期待はするな」


「待って」



 割り込んだ声は、すぐそばから。



「弟君が怪我したり泣いたりしてるのよ⁉ 和やかに話し合いなんかしないわ!」


「――わらわは長居できぬと言うたじゃろうが。後にせい」


「でも!」


「――そう逸るな。何があったか把握もしておらん。話を聞いた後、まだ許せぬとあらば好きにせい」


「許せないことは、もう決定事項だけどね」


「――やれやれ、誰に似たのやら。のう?」


「さてな」



 示し合わせたかのように、広間の地面から複数の石が生えて来る。


 大きい石を中心に、等間隔に小さい石が4つ。


 見る間に机と椅子が形成された。






「何であんな真似したのよ!」



 ダン!


 座ったと思ったら、いきなり立ち上がり、石机を思いっきり叩く姉さん。


 対面に座るグノーシスさんへと身を乗り出す。



「――待て待て。先にわらわの問いに答えて貰おうか」


「どちらが先だろうと構わん」


「――ほれ、座っておれ。問いは一つじゃ。如何にしてゲートを拒みおった?」


「異なことを。こうして侵入を果たしておるではないか」


「――れるでない。答えよ」


「この住処が何処にあるか、分かるか?」


「地中でしょ。何よ今更」


「そう、地中だ。ただし、想像しているよりも数倍は深いだろうがな」


「――そうか……地上から離れおった所為か」


「どういうことよ?」


「――つまりじゃ。わらわは植物の力を用いる。そして、植物は地上に最も多く生息しておるじゃろう」


「地上に近い方が、力も強まるってこと?」


「――じゃろうな。物理的な距離が、斯様に作用しようとは」


「次はこちらの問いに答えて貰おうか。どうやって侵入した?」


「――其方そなたの力が弱まるのを待っておっただけのことよ」


「僅かな可能性に賭けた、と? 酔狂なことだな」



 眼前で繰り広げられる会話を、石の背に身体を預けながらボーっと眺める。


 痛みはだいぶ引いたが、気怠さが全身を覆っている。


 激痛で寝付けなかったし、眠気もあるのかもしれない。



「――さて。わらわの用事は半分済んだ。もう半分の用事も済ませて仕舞おうかのう」



 そう言って、ドリアードさんが立ち上がる。



「――他の同胞たちは何処におる?」



 答えは言葉じゃなく、最小限の行動で示された。


 頭上を指さしている。


 つられるように仰ぎ見るが、天井は見当たらない。


 どこまでも続く長い長い壁。


 その先は光で満たされており、何があるのかは見通せない。



「――不便な造りじゃのう」


「客を招く気もない」


「――ならば足場をこさえてくれ」


「帰りの面倒までは見ぬぞ」


「――構わん。様子を見たらそのまま戻るつもりじゃ」



 ドリアードさんが席から離れる。



「あ、その、色々と協力してくれて、ありがとね」


「――良い。無事再会が叶って何よりじゃった」



 優しい笑みを浮かべている。


 と、その足元から石柱が伸びていく。


 どんどんと上に。


 すぐに姿が見えなくなってしまった。







「次はアタシの番よ」


 ドリアードさんを見送った後、すぐに姉さんが口を開いた。


 グノーシスさんを睨み付けている。



「何だ?」


「何でアタシを追い出したのよ!」


「そのことか。理由が分からぬとは、愚かしいほどに鈍いな」


「別に、こっちは話し合いじゃなくても構わないのよ」


「二度も不覚を取っておいて、まだその物言いか」



 ドリアードさんが居なくなった途端に、険悪な雰囲気になってしまった。


 それはともかく、できれば眠りたい。






本日は、本編55話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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