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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
68/230

52 無職の少年、癒されない

 横倒しの地面。


 もう僅かも身体は動きはしない。



「あ……う……ぁ……」



 ただただ呼吸を繰り返すのみ。



「終いか……誰かある!」



 声に応じて変化が生じる。


 草が背を伸ばしてゆく。


 いや違う。


 地面が盛り上がっているのか。


 それも無数に。


 草を乗せた、頭と同じぐらいの茶色い毛玉。


 まるで髪を全方向に伸ばしたように、一部を除き覆われている。


 覗くのは鼻のみ。


 目も口も毛に覆われている。


 毛むくじゃらの顔だけっぽい生き物。



『ちゃんと草を元に戻すポー!』


『いつもいつも、酷いポー!』



 視界の端。


 地面とは反対側から、緑の球体がいくつも降って来る。


 こちらは見慣れた姿。


 コロポックルだ。



「んだ」



 短い応答は毛玉から。


 毛玉から腕が伸びてゆき、頭上に乗った草を、地面へと戻していく。


 けど、おかしい。


 僕が唯一持っているスキル。


 【意思疎通 《全》】があるはずなのに、それらしい意思は伝わって来ない。



『大丈夫コロ?』



 コロポックルが眼前まで降りて来て、こちらに呼びかける。


 でも、まともに声も出せやしない。



「連れて行け。世話は任せる」


「んだ」



 視界から地面が遠ざかる。


 フワリと、何かによって身体が持ち上げられたらしい。


 そのまま勝手に視界が移動してゆく。


 すぐそこまで壁に迫ると、つたの奥に空間が見えた。


 つたをかき分け進む。


 そこは小さな空間。


 居間よりも狭い。


 感じる湿気から、お風呂場を連想した。



『お疲れコロ? でもすぐ元気になるポー』



 視界には変わらず、コロポックルの姿もあった。


 何となく励ましてくれている気がする。


 視界の向きが変わってゆく。


 横から縦へ。


 更には下がってゆく。


 と、眼下にあったのは、少し緑がかった液体。


 円形に満たされたそこに、身体が沈められてゆく。


 靴、ズボン、上着と。


 順々に濡れてゆき、最後に首だけ水面から出ている状態で固定された。


 頭の両側を手で保持されているみたい。


 この緑の液体、冷たくはないけど、熱くもない。


 言うなればぬるい。


 普通の水に比べて、何となく触感が違う気がする。


 ただ、できれば服を脱ぎたかったな。



『これですっかり元気になるポー』


『こっちのワンちゃんもポー』



 言われて思い出す。


 あまりに必死過ぎて、ブラックドッグのことをすっかり忘れていた。


 視線を動かすと、毛玉の腕に支えられて、すぐそばに入れられている。


 ぐったりとしていて、意識は無いみたい。


 あ、でも、体が薄ぼんやりと光っているような?



『ワンちゃんは大丈夫そうポ―』


『コロ? 子供は光らないコロ?』


『おかしいポー。もしかして、精霊じゃないコロ?』



 頭上をフヨフヨ浮かぶコロポックルたちが、ザワザワし始めた。


 声は…………まだ出せそうにないや。


 全身が気怠い。


 指先を動かそうとするだけで、激痛が襲い来る。



『こ、困ったポー』


『この水は魔力しか回復できないポー』


『急いでグノーシス様に伝えて来て欲しいポー!』


「んだ」



 手すきっぽい毛玉が視界から移動してゆく。


 会話は成立していないのに、不思議と意味は伝わっているみたい。



『お、落ち着くポー』


『ドリアード様なら、治せるかもポー』


『んーーー、繋がらないコロ⁉』


『どうしてコロ⁉』


『分からないポー』



 慌てふためく様子を、ただ眺め続ける。


 どうして、そんなに慌てているのか。


 ここに居るコロポックルたちは、僕の友達でもないのに。



「面倒なことだ」


『グノーシス様ポー!』


『大変だポー!』


「黙れ。どうせ言葉は通じん。ノームから話は聞いた」



 姉さんの似姿。


 グノーシスさんが、視界に入って来た。



「長らく人とは暮らしておらんから失念しておった。さて、どうしたものか」


「んでね」


「ん? いやしかし、外を頼るのはな……」


「だべ」


「……何? 薬だと? そう言えば、以前にそんな物があると聞いたような気もするが」


「んだ」


「まさか、取りに行けと言うつもりか?」



 違和感しかない。


 毛玉に向かい、姉さんが話し掛けている。


 いや、姉さんにそっくりなグノーシスさんが、か。


 会話をしているらしいが、毛玉の方の言葉が分からないため、どうにも変な光景にしか見受けられない。


 そう、まるで一人芝居でもしているようにしか。



「却下だ。ここを離れるわけにはゆかぬ。気力でなんとでもなろう」


「んでね」


「くどい。人の子などより、母様かあさまの御身こそが大事であろう」



 グノーシスさんがこちらに向き直る。


 姉さんそっくりの顔で、姉さんとは違う冷たい目がこちらを見つめてくる。



「キサマに迎えなど来ぬ。他者への期待など捨てることだ」



 え……?


 どういう意味だろうか。


 姉さんが、迎えに来てくれないはずなんてない。



「獣が回復すれば、魔装化まそうかはできよう。それまで、精々回復に努めることだな」



 言うだけ言って、グノーシスさんは去って行く。



『大変なことになったポー!』


『ドリアード様に助けて貰わないとポー!』


『でも、繋がらないポー!』


『困ったポー!』



 不安。


 ただただ不安しか残らない。


 僕はこの先、どうなってしまうのだろう。






本日は、本編55話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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