SS-13 姉の焦燥①
いきなり景色が変わる。
壁が消え去り、頭上には空が広がっている。
明らかに外。
強制的に移動させられた⁉
またしても油断した!
そばに弟君の姿が無い。
当然、母の元に置き去りにされたのだ。
≪門≫
慌てて、母の元へと戻ろうと試みる。
が、繋がらない。
母の住処へ、一向に繋がらないのだ。
「な、何で……? 何で繋がらないのよ⁉」
何度試そうとも、結果は変わらなかった。
恐らくは、精霊の力を使って、空間を閉じているのだろう。
混血のアタシでは純粋な精霊たる母の力には敵わない。
ならばと、別の手段を頼る。
植物の上位精霊ドリアード。
彼女ならば、干渉も可能なはず。
≪門≫
まずは世界樹を目指す。
土や鉱石の無い世界樹の上には辿り着けない。
ゆえに、根本まで移動し、樹に触れる。
そうしてドリアードへと呼びかける。
『――何じゃ? 何ぞ忘れ物でもしおったのか?』
『違うわよ! むしろ盗られたのよ!』
『――ふむ? よう分からんが、つまりどうしろと?』
「アタシを母の元に移動させて!」
焦るあまり、口に出していた。
『――何じゃ。また性懲りもなく喧嘩しおったのか』
『だから違うってば! 弟君がまだ向こうに残ってるのよ!』
『――やれやれ、追い出されおったか。仕方のない娘御じゃのう』
手で触れていた世界樹の表面に歪みが生じてゆく。
『――ほれ、これでどうじゃ』
『…………駄目。移動できないわ』
歪みに触れているのに、一向に向こう側へ移動できない。
『――はて、どうやっておるのじゃ? 妾を拒めるはずは無いのじゃが』
『知らないわよ! どうにかして!』
『――向こうの世界樹に繋いでもおるのじゃが……どういうわけか、住処にだけは繋がらぬ』
『そんな……どうしよう……』
ドリアードならば、どうにかできると思っていた。
何せ、世界樹を統べる存在なのだ。
母よりも確実に力は上のはず。
なのに、どうしてなの。
『――シルフの力も借りねば、突破は敵わぬな』
『シルフって、そんなの……』
『――難しいじゃろうな。最近では姿どころか声すらも寄越さん。ピクシーならば、おるじゃろうがな』
『ピクシーなら、賢者に一体付いてるはず。連れて来たら行ける?』
『――無茶を言うでないわ。下位精霊は、上位精霊の力を経由しておるだけじゃ。本体でなくば、力に耐えられぬ』
じゃあ、手詰まりってこと?
アタシでさえ、母との戦闘は苦行だったのに。
例えブラックドッグが一緒にいても、弟君だけで耐えられるはずがない。
一人にするつもりなど無かったのだ。
母がやり過ぎないよう、止めるつもりで一緒に付いて行ったのに。
それがこんなことになるなんて。
『――何か手を考えるか。まずはこちらに戻って参れ』
『弟君……アタシが、アタシがもっと』
『――詳しい事情もこちらで聞こう。ほれ、時を無駄にするでない』
手で触れていた歪みの中へと、身体が引き込まれてゆく。
どうか、どうか無事でいて。
今はただ、祈ることしかできない。
本日の投稿は以上となります。
次回更新は来週土曜日。
お楽しみに。
【次回予告】
グノーシスの住処に取り残された少年。
訓練の内容は壮絶なものだった。
果たして、無事に姉と再会することはできるのか。
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