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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
65/230

50 無職の少年、問答

 場所は変わらず。


 広い空間には、構造物の類いは一切ない。


 ドリアードさんの住処と同じなのかな。


 違うのは、所々から覗く鉱石の存在と、吹き抜けの天井か。


 ただし、光こそ差し込んでいるものの、空は見えない。


 芝生の地面にみんなで腰を下ろす。


 ブラックドッグは元の大きさに戻り、すぐそばで身を伏せている。



「御免なさい、姉さん。助けようと思ったんですけど」


「分かってるわ。大丈夫よ、咄嗟に鎧に魔力を込めて防御したしね」



 すぐ隣で、と言うかくっついて座る姉さん。


 手甲を付けた手で頭を撫でつけてくる。


 感触はあまり良いとは言えない。



「でも、さっきので弟君にも分かったでしょ? とっても危ないって」



 危ないっていうか、事態が急展開過ぎて何が何やら。



「油断が過ぎるから、あの程度の事態に狼狽えるのだ。魔装化まそうかを使ったからといって、それ以外の攻撃が来ないとは限らん」


「……見て分かるでしょ? 今は弟君と話してるんだから、話に入って来ないで」


「そも、弟とは何だ? 産んだ覚えなぞ無い」


「うっさい!」



 姉さんが睨み付けている。


 と同時に、力の込められた手が、頭を鷲掴みにしてくる。


 とても痛い。



「痛いです」


「あ、御免ね。ヨシヨシ」



 元の力加減に戻り、頭を撫でられる。



「……難儀な娘だ」



 溜息と共に、そんな言葉が漏れた。


 再び反応する姉さん。



「全部、アンタの所為でしょうがーーー!」



 僕の頭を支えとして、姉さんが叫びながら立ち上がる。


 さっきから頭の扱いが酷い。



「親をそのように呼ばうな」


「なら、もっと親らしく振舞ってくれない⁉ いっつもいっつも戦ってばっかりじゃない!」


「子のためを思えばこそ。強さは選択肢を増やす」



 ドクン。


 不意の言葉に心臓が跳ねる。


 何か、どっかで聞いたような気がする台詞だった。


 同じことを思ったのか、姉さんの叫びが止んだ。



「して、何用だ? その子供と関係があるのか?」


「フゥ……えぇ、そうよ」



 座り直してから、改めて話し始める。



「さっき見たと思うけど、弟君はブラックドッグと一緒に魔装化まそうかが使えるのよ」


「であろうな。もしやと思ったが、あのときの獣か」


「知ってるの?」


「夫と最初に会ったときにな」


「へぇ……。そっか、そのときにはもう一緒に行動してたのね」



 伏せているブラックドッグに視線が注がれる。


 当のブラックドッグは我関せずとばかりに、欠伸を漏らしていた。



「コホン。それで、弟君の――」


「待て。そこな子供の用向きなれば、当人が説明するのが筋。娘に語らせず、自分の口で述べるが良い」


「む……弟君、どう? 説明できる?」


「はい、大丈夫です」



 改めて相手を見る。


 姉さんとそっくり。


 だけど、こうしてそばで相対すると、違いが見えても来る。


 体格は、姉さんより一回りほども大きい。


 顔付はより厳しく、向けられる視線は射抜くように鋭く強い。


 どうにも緊張をいられる。



「僕に魔装化まそうかの訓練をして欲しいんです」


「他にも相手は居よう。それとも、他ではならぬ理由でもあるのか?」


「それは……えっと……」


「アタシが――ッ⁉」



 姉さんが何かを言おうとしたみたいだけど、視線だけで制されてしまった。


 姉さんに頼ってばかりじゃ駄目だ。


 僕が答えないと。



「最初は姉さんにお願いしたんです。けど、姉さんはアナタを推薦したので」


「ふむ……娘よ、何故、自分でやらぬ?」


「アタシじゃ、どうしたって手加減しちゃうもの」


「”弟”とやらだからか?」


「そうよ」


「理解できんな。が、人の手には余る力。知った以上、放置もできぬか」


「引き受けてくれるの?」


「意味合いは違うだろうがな」


「? どういう意味よ?」


「危険だからだ。力を過信し、扱い切れず、考え違いもしている様子。そうは思わんか?」



 どうしてか、姉さんは答えない。


 視線がこちらに向き直される。



「強さを求めるか?」


「はい」



 視線を逸らさず答える。



「ならば、強さとは何だ?」



 え……?


 強さって、強いってことじゃないの?


 視線が下がる。


 なら、強いってことは、どうやったら説明できるんだろう。


 うーん。


 えっと、だから、強いってことは、何かよりも強いってことだよね。


 これが答えになるのかな?


 探るように視線を向け、口を開く。



「相手よりも勝っているってことだと思います」


「望みは攻めの力か」



 せめのちから?


 攻撃って意味かな。


 倒したい相手は決まっている。


 なら、間違ってはいないのかも。



「そうだと思います」


「危ういな」


「え」



 予想外の答えを返され、戸惑ってしまう。



「余程に甘やかされて育ったか」


「うぐッ」



 今度声を漏らしたのは、隣の姉さんだった。



「どのような関係かは知らぬが、良い影響は与えておらんらしい」


「そ、そんなことないわよ!」


「分かっておろう? 危うさを」


「まだ子供なだけよ」


「その子供相手に力を与えよと?」


「それは……」


「まぁ良い。叩き直すまでのこと」


「くれぐれも怪我させないでよ」


「阿呆めが。怪我を負わねば、怪我をせぬようになど躾けられまい」



 それってつまり、確実に怪我はするってことだよね。


 痛いのも苦しいのも、好きなわけがない。


 けど、強くなるため。


 何の才能も持たず生まれたんだ。


 唯一、可能性のある力を伸ばすしかない。



「覚悟せよ。来たことをすぐにも後悔するだろう」


「ちょっと! アタシのときとは状況が違うのよ⁉」


「フゥ……どうにも娘は邪魔か。当分、ここには来るな」


「そんなわけにいかないわよ!」


「自ら手を放しておいて、何を今更。――ね」



ゲート



 有無を言わさず。


 驚く姉さんの足元に、歪みが生じる。


 抗うこともできず、姉さんの姿が消えてしまった。






本日はあと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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