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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
61/230

46 無職の少年、夜明け

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 ようやく長雨が止み、ケンタウロスの狩りに同行する

 しかしそこで、少年は魔装化で暴走してしまう

 何とか姉により、誰も傷つけずに済んだものの……

 泣き崩れて、そのまま気絶するように眠ってしまった姉さん。


 僕ではベッドまで連れて行くことも叶わず、ベッドから毛布を持って来て、掛けることしかできなかった。


 姉さんを泣かせてしまった。


 僕が強ければ、こうはならずに済んだのだろうか。


 弱い自分が嫌になる。


 ずぐに誰かに頼ってしまって。


 今回だってそう。


 ブラックドッグの力を無意識とは言え借りてしまった。


 挙句、みんなを、姉さんを襲ってしまう有様だ。


 ダンジョンでは、ちゃんと制御できてたはずなのに。


 ■い記憶。


 あれが絡むと、途端に駄目になってしまう。


 消せない記憶。


 癒えない傷。


 赦せない相手。


 そう。


 全部全部全部全部全部。


 全部、アイツが悪いんだ。


 昏い感情が渦巻いている。


 出口を求めて。


 捌け口を求めて。


 夜闇の中、据わった目で虚空を睨む。






 長かった夜が明けてゆく。


 眠気はついぞ訪れぬままに、ずっと一人で考え続けた。


 僕にはどうにも戦いやら争いやらは向いてない。


 当事者としても傍観者としても。


 けど、倒すべき相手がいる。


 天職も備わっておらず、鍛えているわけでもなくて。


 その途方もない隔たりを、埋め得る力が魔装化まそうかなのだ。


 自身の力ですら無いけれど。


 唯一無二の手段に思える。


 結局は、自分以外の何かを頼ってしまう。


 当てにしてしまう。


 弱い自分。


 そう、弱いのだ。


 弱いのだから、仕方がないじゃないか。


 簡単に強くなんてなれやしない。


 例え努力をしたとしても、その努力が実を結ぶこともない。


 天職が無い僕は、何にも成れやしなくて。


 どうしたって誰よりも劣っているのだから。






 そう言えば、朝になったんだったか。


 ならば、すべきことは決まっている。


 そうでなくとも、しきりにお腹が食事を要求してくる。


 眠り続けていたとは言え、丸一日ほど何も食べてない。


 姉さんの眠りを妨げぬよう、静かに台所へと向かう。


 食事の用意に取り掛かる。


 素早く手を洗い、食糧庫からお肉を多めに取り出す。


 と、その手が止まる。


 この肉も、元々は生きた動物。


 畜産か、狩りか。


 そう、狩り。


 思い出すのは、つい最近の光景。


 とてもではないが、お肉を食べようとは思えなくなってしまう。


 きっと、これは無意味な感傷に過ぎないけど。


 既に奪われた命。


 元に戻らないことなど、嫌と言うほどに良く知っている。


 怒りも悲しみも、見当違いなのだろう。


 でもだからと言って、今は口にする気が起きない。


 お肉を再び仕舞い込み、代わりに野菜と果物を多めに取り出す。


 生野菜とは別に、野菜スープを作ろう。


 少しでもお腹の足しになるよう工夫せねば。


 後は、乾燥したパン。


 食べ易いように、少し水を含ませてから軽く火にかける。


 これで、多少は柔らかくなったはず。


 スープに浸して食べれば、十分柔らかくなるだろう。


 料理を居間へ運ぶ。



「ん~」



 匂いに釣られてか、姉さんがモゾモゾと動きだしていた。



「姉さん、起きましたか?」


「うぅ~?」



 いや、まだ駄目らしい。


 朝に弱い姉さんが夜遅くまで起きてたんだから、仕方がないのかも。


 毛布から頭だけ覗かせている姿は、別の生き物にも見えてくる。


 さてと、どうしようかな。


 自然に起きるのを待ってあげたいけど、スープはともかく、パンは温め直すにも限度があるし。


 申し訳ないけど、起きて貰うか。



「姉さん。朝ですよ。食事にしましょう?」



 ユサユサ。


 毛布越しに身体を揺する。



「んむぅ~」



 この程度で起きるほど、容易い相手ではない、か。


 ならばと、毛布を引っぺがしにかかる。


 ガバッ。


 とはいかなかった。


 毛布を引っ張る手が途中で止まる。


 よくよく見ると、姉さんが毛布を掴んでくるまっていた。


 姉さんと力比べしたって、僕じゃ敵いっこない。


 はぁ、これだけはやりたくなかったけど。


 屈みこんで、耳元に口を寄せる。



「お姉ちゃん、起きて」



 声量はほんの僅か。


 囁き声。


 が、効果は覿面だった。


 ガバッと。


 毛布を跳ねのけ、こちらに抱きついて来た。



「お姉ちゃん呼び、キタアァーーーーーッ!!!!!」



 本当に寝ていたのか疑わしいほどに、元気いっぱいにこちらを揺さぶる。



「ね、姉さん。お、落ち着い、て」


「もう一回。ね、もう一回、呼んでぇ~」



 ガクガク揺さぶられ。


 お腹の減った身体には、ちょっと耐えられなかった。



「ちょ、気持ち、悪い、です」


「弟君? え、大丈夫⁉」



 大丈夫じゃないです。


 空腹と揺さぶりで消耗しきった身体を、椅子に下ろされる。



「お姉ちゃん、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたい。御免ね」


「取り敢えず、食事を、取りま、しょう」


「そ、そうね。そうしましょうか」



 姉さんが台所で手洗いを済ませて、席に戻る。



「「いただきます」」



 こうしてようやく、いつもの食事風景を迎えた。


 けれども、姉さんの顔を見て身体を硬くする。


 姉さんの目元には、まだ赤みが残っていることに気付いてしまった。


 泣き腫らした痕。


 たちまち気まずさが蘇って来る。


 目を合わせられず、俯き気味に食事を取るのだった。






本日は本編50話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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