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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
59/230

44 無職の少年、悪夢

 頭を身体を、圧倒的な怒りの感情が支配してゆく。


 燃えるような激流が全身を駆けめぐる。


 熱に浮かされるままに動き続ける。


 赦せない、と。


 ただ一つ残された思考に縋りつく。


 ■い世界。


 そこでナニカと戦っている。


 強い。


 相手が強い。


 酷く小さい、その相手に。


 潰せるほどに大きな自分が、どうしてだか敵わない。


 何で何で何で何で何で。


 腕をふるい、棘を伸ばし、牙を放つ。


 そのどれもが届かない。


 いや、当たってはいる。


 そのはずなのに。


 倒せない。


 倒しきれない。


 防がれ、避けられ、あまつさえ反撃してくる。


 何もかもが上手くいかない。


 焦りが動きを鈍らせる。


 いつから戦っているのか。


 どうして戦っているのか。


 分からないまま、それでもなお戦い続ける。


 早く終わって欲しい。


 ■いのは嫌いなんだ。


 この相手を倒せば、■い世界が終わってくれる。


 そんな気がする。


 ああ、そうか。


 だから、戦っているのかもしれない。


 そんな思考もすぐに熱で溶けて消える。


 終われ。


 終わってよ。


 何もかも、全部。






 そうして終わりは訪れる。


 唐突に。


 あっけなく。


 身体が沈む。


 と、同時に力が抜けてゆく。


 全身の熱が失われて。


 やっと、■い世界が消えてくれた。






 夢を見た。


 そんな気がする。


 けど、何を見たのか、もう思い出せやしない。


 嫌な感覚だけが僅かに残るのみ。


 ならきっと、悪夢だったのだろう。


 当然、目覚めは爽やかとはいかなくて。


 仰ぎ見る吹き抜けの空は、既に明るかった。



「目が覚めた? 気分はどう? 身体がどこか痛かったりしない?」



 質問が連続する。


 視線を上から横にすれば、椅子に座った姉さんの姿があった。



「ねえ――」



 姉さん、と。


 声を出そうとしたら、喉が痛くて言葉が続かなかった。


 たまらず咳込んでしまう。



「弟君⁉ 苦しいの⁉ ちょ、ちょっと待ってて! 今すぐ、お水持って来てあげるから!」


「聞こえてるわよー。今、持って行ってあげるわ」


「なら早くして! 弟君が!」


「もぅ、ならこれでいい?」



 涙が滲む視界の端。


 吹き抜けの階下から、緑のつたが伸びてくる。



「ありがと! さ、弟君。お水よ」



 背とベッドの間に腕を差し込まれ、上体が起こされる。


 手渡されるコップを受け取り、中身を煽る。


 喉を冷たい水が通過していく。


 同時に、ひりつく痛みが走る。



「ゴホッ、ケホッ⁉」



 痛みに驚き、せてしまう。



「慌てないで、ゆっくり飲んで」



 背をさすられる。


 数度咳込みつつ、ようやく落ち着きを取り戻す。



「姉さん」



 喉はまだ痛むけど、話すぐらいはできそう。



「僕はどうしたんですか?」



 起きる前、より正確には、眠りにつく前の出来事が思い出せない。


 ベッドにいつ入ったのだったか。


 その前には何をしていた?


 すっかり記憶が抜け落ちている。



「何を覚えてる?」



 質問に質問で返されてしまった。


 見返す表情は真剣そのもの。


 ふざけている様子は見受けられない。


 記憶を手繰る。


 視線は遠く。


 空を見続けていると、何となく連想されるものがあった。


 雨。


 そう、雨が降り続いていたような気がする。



「雨が降ってたんでしたっけ」


「数日は降り続いてたわね。でも、昨日止んだのよ」



 昨日……。


 今日の記憶も定かではないのに、昨日のことも覚えてないのか。


 雨の間中、スライムやコロポックルと遊んでいたのを思い出す。


 雨が止んだなら、どうする予定だったんだっけ。



「外に行った……?」


「ええ。ケンタウロスの狩りを見学しにね」



 あ。


 何か、思い出し掛けた。


 地面のぬかるみ。


 変なニオイ。


 それで、みんなでどこかへ向かって歩いていたような。


 でも、そこから先は思い出せなかった。



「多分、移動してるところまでは覚えてると思います。ただ、その先はちょっと」


「そう……。なら、その先に関しては、また後で話しましょうか。もう少し横になって休んでなさい」


「あ、はい。分かりました」



 再び身体が横たえられる。


 褐色の手が何度も何度も頭を撫でつける。


 次第に瞼が重くなってきて。


 眠気がぶり返してくる。



「ふあぁ~」


「眠くなった? お姉ちゃんがそばに居てあげるから、安心して眠りなさい」



 声が次第に遠のいていく。


 眠りに落ちる間際。


 また悪夢を見るような予感がした。






本日は本編45話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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