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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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SS-12 姉の闘い④

 弟君の叫び声。


 応じる間も与えてはくれず、事態は進行する。


 魔装化まそうかが発動した。


 ブラックドッグが黒い霧状に。


 そのまま弟君へと纏わりつく。


 黒が次第に赤黒く、そして真紅に染まってゆき。


 周囲の木の高さまで大きさを増す。


 そうして、四つ足の獣が現出した。






「GWAAAAA!!!」



 発するのは人語に非ず。


 聖都と同じく、暴走状態にあるらしい。


 身体よりもなお太い前足が振るわれる。


 狙いは――ケンタウロス?


 皆を庇うべく、移動しながら背の六角鉄棒を素早く構え、衝撃に備える。


 激突。


 衝撃を腕から足へと逃がす。


 足が前方へと溝を作ってゆく。


 いや、自分が後ろへと押されているのだ。



「お、オトートクン?」


「ちょ、ちょっと、何よ、何なの⁉」


「ギャー、ば、化け物よぉ⁉」


「みんなは全速力でここから離れて!」


「アンタはどうすんのよ⁉」


「魔力切れになれば強制的に解除されるわ。こっちも魔装化まそうかすれば、魔力を吸収できるから」



 一体、何が切っ掛けとなったのか。


 ただ狩りの様子を見学していただけだというのに。


 でも、考えるのは後回し。


 今は弟君を止めないと。


 チラリと背後を見やり、皆が避難してゆくのを確認する。



魔装化まそうか



 全身を黒の鎧で覆う。


 手にした鉄棒はそのままに、魔力で形状を上書きしてゆく。


 相手は姿こそ変われども、弟君。


 傷つけるわけにはいかない。


 防御を重視するなら、より表面積が欲しいところ。


 鉄棒の中央はそのままに、両側がみるみる肥大化する。


 出来上がるのは、つちの先端のような形状。



「GWAAAAA!!!」



 こちらを標的として認識したのか、大きく振りかぶった前足が叩きつけられる。


 今度は応じず、胴体へと一気に接近する。


 背後で衝撃。


 構わず変形した鉄棒で胴を突く。


 目的は攻撃ではなく、魔力の吸収。


 が、吸収し始める前に、相手が新たな動きを見せた。


 胴の表面は赤い体毛で覆われている。


 その体毛が円錐形の棘状へと変化したのだ。


 防御の構え……だけじゃない!


 次の動きを察し、待避を選択。


 背後に逃げれば、避難した皆の側へ近づくことになる。


 前方は相手の下半身部分。


 空間が狭い。


 脱出口として選んだのは横側。


 こちらの身体よりも太い、前脚と後脚の間を素早く通り抜ける。


 先程まで居た空間が伸びた棘により隙間無く埋め尽くされていた。


 固定観念にとらわれないからか、それとも想像力が豊かということなのか。


 アタシには思いもつかない、魔装化まそうかの使い方をしてくる。


 アレは全身が武器も同然らしい。


 大きさも、長さも、形状も、思いのままというわけか。


 赤い獣がこうべめぐらし、再び獲物を視認する。


 交差する視線。


 片方は殺意を宿し、もう片方は悲哀を宿して。


 こちらに向け大きく口が開かれる。


 口内にびっしりと生えた牙。


 それが連続して射出されて来た。


 想定外の動きを前に、初動が遅れる。


 待避は諦め、防御を選択。


 鉄棒を回転させ、飛来する牙の群れを弾き飛ばしてゆく。


 と、不意に光が陰る。


 ――上から何か来る⁉


 即座に頭上へと鉄棒を翳す。


 迫って来たのは両の前足。


 体重を乗せた一撃が見舞われる。


 両腕を伝い、足元を数十センチ陥没させた。






 耐える、耐える、耐える。


 いや、そうじゃない。


 体が接している今こそ好機。


 魔力を吸収する。


 よりも早く、こちらの狙いを察したのか、すぐさま体が離れてゆく。


 軽い跳躍からの着地。


 それだけで地面が大きく揺れる。


 そばの木をなぎ倒す。


 だけではなかった。


 倒れた木が即座に投擲されて来たのだ。


 背後を確認している余裕は無い。


 避けた先に誰かが居るかもしれない。


 迎撃を選択。


 鉄棒を縦に回転させ、飛来した木を上から叩き付ける。


 地面へと突き刺さる木。


 今度は鉄棒を横回転。


 初撃で木をへし折り、二撃目で浮いた方をそのまま相手へと撃ち出す。


 質量を減らした木は、飛来したつぶてにより粉々に粉砕されてゆく。


 再び牙を飛ばして来たらしい。


 視界一面を埋め尽くす牙の大群。


 範囲が広い。


 このままだと、背後へ大量にばら撒かれてしまう。


 魔力消費が気になるが、致し方無し。


 精霊の力を行使する。


 眼前に土壁が形成されてゆく。


 時間は僅かもかからない。


 しかし、即席の土壁は強度不足だったらしい。


 次々に穴が空いてゆく。


 結末を見届けず、駆ける。


 地上ではなく地中を。


 先程の土壁は防御だけでなく、相手の視界を遮るための物。


 これで決める。


 更に干渉を加える。


 周囲の土の構成を変化。


 薄く脆く。


 陥没させてやる。


 轟音と振動により、地中に生えるのは赤い足。


 すかさず地面を硬化。


 抜け出す前に足に触れ、一気に魔力を吸収する。






 ようやく弟君が元の姿に戻ってくれた。


 ブラックドッグ共々、既に気を失っている。


 改めて確認した地上は、訪れたときとは様変わりしていた。



「治まったの?」


「ええ。もう大丈夫よ」



 背後から恐る恐る声を掛けてきたのはアルラウネ。



『酷いポー。木が沢山倒れてるポー』



 コロポックルの悲し気な意思も伝わって来た。


 でも、そちらに気持ちを向けることはできそうもない。


 腕の中で微かな呼吸だけを繰り返す弟君。


 今はただ、弟君のことだけしか考えられない。



「お蔭で、こっちの被害はなかったわ」


「そう」


「ケンタウロスたちも怯えているし、一度、世界樹へ戻った方が良いと思うわ」


「そうね」


「とにかく、色々と考えるのは戻ってからにしましょう」



 アルラウネに促され、帰ることに。


 誰もが不安そうな様子のまま。


 コロポックル経由でドリアードがゲートを開いてくれた。






本日は本編45話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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