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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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42 無職の少年、狩りの準備

 最早、恒例となった集落の門へ出現する。


 出迎えるのは、見慣れてきたフリフリ衣装の石像。


 可愛らしい声が挨拶をしてくれる。



「みなさん、こんにちはデス」


「こんにちはー!」


「こんにちは」


「こんにちは。あら、雨が降ってた割に、服が濡れてないわね」


「服は幾つか予備があるデス。濡れちゃったのは、ケンタウロスさんたちが洗濯してくれてるデス」


「なるほどね」



 長雨の影響で、地面は酷くぬかるんでいる。


 けど、石像のフリフリ衣装が濡れていないのは、そういう理由だったみたい。



「今日は集落に御用デス?」


「ええ。狩りに同行させて貰うつもりよ」


「雨上がりなので、動物や魔物が活発になりそうデス。気を付けて欲しいデス」


「ありがと。じゃ、また後でね」


「はいデス」



 みな、それぞれに軽く挨拶を交し、果樹に挟まれた並木道を進む。


 道もやっぱり、ぬかるんでいて歩き辛い。


 後、何だか変なニオイもする。






 並木道を抜けると、装備を整えた人馬たちが集まっていた。



「あら、来たわね」


「ええ、約束通りにね。今日は狩りにお邪魔させて貰うわ」


「聞いてるわ。準備はもう済んでいるかしら?」


「いえ、幾つかまた借りたい装備があるんだけど」


「構わないわよ。じゃあ、倉庫に案内するわ。付いて来てねん」



 相変わらず女性口調の男性の人馬。


 動作も何だかクネクネしてる。



「えっとえっと、ウチに弓矢を教えて欲しい、です!」


「あらまぁ、可愛らしいお嬢ちゃんね。確か、オーガちゃんだったかしら?」


「そだよー!」


「それに関しても聞いてるから、任せておいて頂戴」


「やったー!」



 よっぽど嬉しいのか、移動しながら跳びはねてる。


 泥が跳ねるから止めて欲しい。


 たまらず声を掛ける。



「跳びはねると泥が飛び散るから、普通に歩いて」


「およ。気付かなかった。ごめんね」


「分ってくれればいいよ」


「うずうず、うずうず」



 身体を動かす代わりに、口に出すことにしたらしい。


 これは洗濯が大変そうだな。


 世界樹に雨は降らない。


 正確には、世界樹上にある集落には、かな。


 地面そのものが珍しくもあるけど、雨が降った後の地面の感触は、より新鮮で珍しく感じられる。


 ずっと昔には、これが普通だったのに。


 ズキリ。


 そこまで思考が及ぶと、軽い頭痛が襲い来る。


 あまり考えちゃ駄目だ。






 倉庫で装備を整える。


 以前身に着けた、皮鎧と短剣。


 妹ちゃんには、皮鎧と矢の束。



「随分と良さげな弓ね。羨ましいぐらいだわ」


「そかな!」


「ええ。ただ、普通の弓より、弦を引く力が必要になるかもしれないわね」


「それはまぁ、大丈夫じゃないかしら。オーガは力が強い種族みたいだし」


「あら、それは頼もしい限りね」


「ウチ、ちゃんと引っ張れるよ」


「なら大丈夫そうかしら。でも危険だから、勝手に撃ったりしちゃ駄目よ?」


「わかった!」



 楽しげな妹ちゃんとは、気持ちが全然違っていて。


 装備を整えたことで、ジワジワと実感が湧いて来る。


 緊張と恐怖。


 狩りに行くということはつまり、危険な場所へ行くのと同義。


 思い出すのは、最近目にした二種類の魔物の姿。


 地面から跳び出してきたモノと、ダンジョン内で周囲を覆い尽くした大量の黒いモノ。


 どちらも意思疎通ができない魔物だった。


 なら、これから行く先は?


 獲物となった動物でも魔物でも。


 意思疎通が可能だったなら、果たしてどうするのだろうか。


 相手の声を聞いてもなお、狩りなんて続けられるものなのか。


 日々、当たり前に食事を取っている癖に、いざその元となる現場に赴けば、迷いが生じてしまう。



「弟君? もしかして、また体調が悪くなっちゃった?」



 褐色の肌が間近に迫る。


 しゃがみ込んで、こちらの頬を温かい手が包む。



「我慢なんかせずに、ちゃんと言ってね?」


「そうよ、ボウヤ。自己判断は正確に行わないと、いざってときに困ることになるわ」


「大丈夫です。ちょっと、こないだのことを思い出して、怖くなっただけで」


「そう? 今回は見学だから、お姉ちゃんがずっとそばに居てあげるからね」


「アタシもブラックドッグも居るし、ケンタウロスたちも一緒よ。魔物の方が逃げ出すぐらいでしょうね」



 姉さんとアルラウネさんが声を掛けてくれる。


 でも、正直な気持ちは伝えられない。


 何となくだけど、考え方そのものが、みんなとは違ってる気がする。


 透明な壁でもあるみたいに。


 隔たりを感じる。


 見えているものは同じはずなのに、感じ方も考え方もまるで違っているようで。


 おかしいのはきっと僕の方。


 だから、それを知られるのが怖い。


 みんなに見放されてしまうのが、どうしようもなく恐ろしくてたまらない、


 気持ちを奥へ奥へと押し込める。


 見つからないように。


 見られてしまわないように。


 そして、自分でも見なくて済むように。


 平気なフリをしていないと。






本編中の変なニオイとは、雨上がり特有の青臭いのを指しています。

ピンと来なかったら済みません。



本日は本編45話、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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