41 無職の少年、雨は上がり
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
姉がケンタウロスの狩りに参加しようと計画する
少年の思いが天に通じたか、長雨により一旦は中止となったが……
世界樹の上では、変わらずの晴天。
しかし、ケンタウロスの集落近辺では、雨が数日降り続いた。
その間、スライムやコロポックルたちと遊んで過ごす。
賢姉さんに診て貰ったけど、結局のところ、病気には罹っていなかったらしい。
だろうとは思ったんだけどね。
期間が空いたからか、もしくは遊んでいたからか。
外への恐怖や不安は随分と薄らいだ気がする。
どうせならずっと雨が降り続けばいいのに。
「――ふむ。ようやっと止んだ様じゃのう」
当然のように雨は止み。
憂鬱な気分がぶり返す。
「随分と長雨だったわね」
最近の日課のように、昼前にこうして精霊の住処に訪れると、そんな有難くもない情報が齎された。
「それで、今日はどうするの?」
「もちろん、集落に行くわよ。雨が上がったら行くって伝えてもおいたしね」
「やったー! やっと出掛けられる!」
『お出掛けポー!』
アルラウネさんと姉さんの会話を聞き、妹ちゃんとコロポックルがはしゃぐ。
嫌がってるのは僕だけみたい。
「一度、家に戻って準備しましょう。妹ちゃんは弓矢を取りに戻りなさい」
「そーだった!」
「――くれぐれも油断せぬようにな」
「ええ。無事にみんなで帰って来るわ」
「しっかり見張っておくから」
「ハイハイ。保護者役、お疲れ様~」
妹ちゃんとは一旦別れ、家へと戻る。
二階から戻った姉さんの装いが、普段とは異なっていた。
肩や太腿が剥き出しの、上下繋がった服はいつも通り。
前回、身に付けていた腰のポーチも健在だ。
けど、革製の手甲と脚甲、背には以前見た六角鉄棒を装備していた。
「あら珍しい。防具に関しては異論が無くもないけど、アンタにしては着込んだ方かしらね」
「動きやすさ重視よ。魔力も節約しないと、いざってときに困るしね」
「最初っから、それぐらいの備えはして然るべきとは思うけどね」
「そう言う割には、そっちの装備は全く見当たらないようだけど?」
「アタシにも何か装備しろって?」
「せめて薬類は持ってるべきじゃない?」
「まぁ、それぐらいならいいけど」
手渡されるのは、お揃いのポーチ。
緑一色のアルラウネさんだと、結構違いが際立つ。
「魔法が使えないからこそ、装備で補った方がいいと思うけどね」
「皮革も金属も苦手なのよね」
「無理強いはしないけどね」
「ボウヤたちはどうするの?」
「皮鎧や短剣は、また向こうで借りるわ」
「なら、集落以外に行く場合が問題そうね」
「頼めば譲って貰えるかもだけど、どうせ下半身分が足りてないしね」
姉さんとアルラウネさんに見つめられ、何だかむず痒い。
トントントントン。
玄関の扉が軽快に叩かれる。
「どうぞ」
「持って来たよー!」
今回はノックと応答を待つことを覚えていたらしい妹ちゃんが姿を現した。
背から覗くのは、見慣れぬ弓と矢の束。
「あら、結構しっかりした弓なのね。お手製の物を想像してたんだけど」
「そっかな? 他の見たこと無いから分かんない」
くるりと背を向け、弓をこちらに見せてくれる。
確かに、枝に弦を張ったような代物じゃない。
上下に同じ長さで反りかえった弓だけど、中央部分が金属っぽい。
「人族の品かしらね。ケンタウロスの使ってる物よりも、よっぽど良い代物よ」
「ホント⁉ 父ちゃん、母ちゃん、ウチのために手に入れてくれたのかな」
ズキリと胸が痛む。
妹ちゃんに対しては、どちらも甘々だった気がする。
「なら、父親の方だと思うわ。確か、武器集めが趣味だったはずだし」
「ほえ? 父ちゃんが?」
「矢も特殊なつくりっぽいわね。矢だけは借りましょうか。練習で使うのは勿体無いから」
「矢だって無料じゃないんだし、無駄遣いしたら駄目よ」
姉さんと妹ちゃんの会話に、アルラウネさんが口を挟んだ。
「でもでも、練習してもいいんだよね?」
「ケンタウロスに教わって、だけどね」
「わくわく」
随分と楽しげな様子だ。
よっぽど使ってみたかったのかも。
けど、前に家を壊したとか言ってたような。
弓矢ってそんな危ないモノなのかな。
「防具は相変わらず無しなわけね。こっちも借りるしか無さそうね」
「裸のアンタに言われちゃ、形無しだけどね」
「裸って言うな! アルラウネはみんな、こういうモノなのよ!」
さて、取り敢えずはこれで、みんな揃ったかな。
またこれから、外に行くんだ。
じわじわと緊張が広がっていく感覚。
手足が冷たく感じる。
「今回はケンタウロスの狩りの見学だから、邪魔しないように気を付けましょう」
「彼らだって、生きる糧を得なければいけないものね。遊び感覚で行くのは邪魔だし失礼だわ」
「あと、前にも言ったけど、アタシたちから離れないようにね。動物だって油断すれば危険だし、魔物と遭遇する可能性もあるんだから」
「はい」
「はーい」
「じゃ、行きましょうか」
≪門≫
姉さんが伸ばした手の先で、空間が歪む。
これもまた、最近見慣れて来た光景。
緊張が強まってゆく。
手をギュッと握り締める。
今日はただ見てるだけで済むはず。
一刻も早く、家に戻って来ることだけを願う。
本日は本編45話、SSを1話投稿します。
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