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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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40 無職の少年、変調

 一日ぶりの温もりに包まれながらも、憂鬱な朝を迎える。


 今日もまた、外へ出掛けねばならない。


 未だ成果らしいものは得られてなくて。


 怖い思いばかりしている。


 倒したいのは一人だけ。


 魔物となんて戦いたいわけじゃないのに。


 気持ちに引きずられているのか、身体も重く感じる。


 ここは雲より高い場所。


 覗く空は忌々しい程に晴れやかだ。






 思えば、久々に来客が滞在していない。


 作る食事は二人分で済む。


 元より左程手間は掛からない。


 ただ、連日外出している所為か、普段よりもお腹が空いている気がする。


 食材は昨日、姉さんが補充してくれたばかりだし。


 気持ち、食事の量を増やしておこうかな。


 いつもより多少時間が掛かりつつも、姉さんが起き出す前に用意を終える。



「弟君、おっはよぉ~」


「おはよう、姉さん。じゃあ、また二階に戻ってくださいね」



 例によって下着姿で現れた姉さんに服を着てくるように促し居間へ。


 相も変わらず、階段を使用しない移動によって、すぐに戻って来る姉さん。



「今日も弟君の愛情を頂きましょうか」


「返し辛いことを言わないでください」



 僕とは違って元気な姉さん。


 改めて食事を取る。



「「いただきます」」



 数日ぶりの二人きりの食卓。


 反応したのは姉さんの方が先だった。



「んんん?」



 困惑顔の姉さんに続き、遅れて僕も困惑した。


 咀嚼が緩やかになる。


 味がおかしい。



「味付け、間違えちゃった?」


「……みたいです。済みません」


「別に責めてるわけじゃないわよ。もしかして、調子悪い?」



 答えに窮する。


 出掛けたくないという思いが、体調を損なっているのだろう。


 どうにも子供じみた言い訳で、口にはし辛い。



「そんなことはありません」


「本当? 外に出たときに病気に掛かったのかもしれないわ」


「大丈夫ですから。調理中に他事を考えてたかで、失敗しちゃっただけです」



 こちらの言い分を聞く気もないのか、席を立ち顔を寄せてくる。


 距離は零に。


 おでこ同士がくっつく。



「ん~、熱っぽくはないみたいだけど」


「ホントに何でもないですから」



 おでこは離れたものの、至近からジッと見つめられる。



「おっはよぉー!」



 ノックの音もさせず、玄関の扉が勢いよく開かれた。



「って、二人とも何してるのぉーーー⁉」



 声の方を向けば、桃色の人影。


 妹ちゃんが口を手で覆い、こちらを凝視していた。



「何って……診察?」


「顔をくっつけて、変なことしようとしてたでしょ!」


「それはただのアンタの妄想だから。ちょっと弟君の調子が悪いみたいだから、具合を確かめてたのよ」


「やっぱりえっちぃヤツだ!」


「馬鹿なこと言ってないで、少しは落ち着きなさい」



 姉さんはふざけることもせず、真剣な様子。


 妹ちゃんもその様子に気が付いたのか、ようやく落ち着きを取り戻す。



「オトートクン、病気?」


「かもしれないけど、アタシじゃ判別できないわね。賢者ってば、昨日じゃなく今日来ればいいものを」


「およ? ケンネェ、来てたの?」


「昨日ね。妹ちゃんが来る前のことよ」



 何だか騒ぎが大きくなってきた気がする。


 仮病みたいで、居心地が悪い。



「聞いてください。僕は大丈夫ですってば」


「どうせアルラウネとコロポックルを迎えに行こうと思ってたところだし、ドリアードに相談してみましょうか」



 聞いてくれない。


 食事もそこそこに、姉さんに連れられ、精霊の住処へ。






「――わらわを何か別の存在と勘違いしておらぬか?」



 偶々居合わせたドリアードさんに事情を説明した姉さん。


 その返答がこれだった。



「こう、精霊の力でパーッと治したりできないの⁉」


「――可能ならば、其方そなたにもできたじゃろうよ」


「むぅ」


「――人の病ならば、人に診せる方が良かろう」


「やっぱり、賢者を頼らないと駄目かしら」


「――丁度良いではないか。今日、集落へは出向かぬ方が良いじゃろうしな」


「? どうしてよ?」


「――雨じゃ。数日は降り続くやもしれぬ」


「何でこう、予定が裏目裏目にばっかり……」


「――天もゆるりと休めと言うておるのじゃろうて」



 雨……?


 そっか、ここは雲の上だから、絶対に雨なんて降らない。


 だから、そんな些細なことで中止になるなんて思わなかった。


 そもそも出掛けなくて済んだのかな。


 なんだ、そうかぁ。



「? オトートクン、笑ってる?」


「そ、そんなことないよ」


「ちょっと元気になったかも?」



 確かに、出掛けなくていいと分かって、調子が戻って来た気がする。



「あら、もう迎えに来てたの?」


『おはようポー』



 つたの壁が通路に変わり、アルラウネさんとコロポックルが出て来た。



「ちょっと事情が変わってね。しかも何度も」


「意味が分からないんだけど」


「――外は生憎の雨なのじゃよ」


「で、弟君の調子も悪そうでってわけ」


「ボウヤが?」



 近づいてくる緑の女性。


 屈みこんで、こちらの首に手を当ててくる。


 人肌とは違う、ひんやりとした感触。



「……熱は無さそうだけど。ボウヤ、気分はどう?」


「あ、こら、弟君に気安く触れるな!」


「えっと、特には」


「? どこをどう見て、調子が悪そうって判断したわけ?」



 手を離し、姉さんに問いかける。



「さっきまでは、調子悪そうにしてたのよ!」


「――そう騒がずとも、ゆるりと休むが良かろう」


「一応、賢者を引っ連れて来るから」


「結局、今日の外出は無しってわけね」


「――雨は数日は降り続くじゃろうて。急ぎの用でも無ければ、大人しくしておることじゃ」


「アタシは雨の方が好きだけど。ボウヤたちは、それこそ病気にでもなりかねないわよね」


「つまんなーい」


『お出掛けは無しコロ?』


「コロポックルも悪かったわね。雨が上がるまでは、お預けになりそう」


『残念ポー』


「元気が有り余ってるなら、コロポックルたちと遊んであげて頂戴」


「いいよー。いっぱい集めてベッドを作ろうかな」


「その遊び方は微妙そうね」



 妹ちゃんの発想は、ちょっとおかしい気がする。



『遊んでくれるコロ?』


「うん。あ、オトートクンはどうする?」


「弟君は家で寝るの」


「病気じゃないですってば」


「だーめ! 自覚症状なんて当てにならないんだから」



 結局、出掛けずに済んだものの、ベッドで寝る羽目になってしまった。






本日はあと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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