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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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SS-10 姉の心配

 弟君たちを家に残し、世界樹の幹へと歩みを進める。


 空はまだ青さを残している。


 手早く用事を済ませて帰るとしよう。


 にしても、だ。


 弟君のあの様子。


 少しだけ……いやかなり気掛かりなのよね。


 比べる相手が妹ちゃんだからってわけじゃないはず。


 最初は怖がっているだけかとも思っていたけど。


 どうにもそれだけじゃない感じがする。


 意欲が乏しいと言うか。


 活力に欠けると言うべきなのか。


 アタシが無理矢理連れ回しているのがいけないのかもしれない。


 気持ちを押し付けているばかり。


 もっとちゃんと、弟君の意思を確かめてあげないと駄目なんだろうけど。


 多くを語ってはくれなくて。


 何かを我慢させてしまっている気がする。


 ハァーーーッ。


 こんなことじゃ、お姉ちゃん失格かしら。






 考えごとをしながらも、身体は慣れたもので。


 危うげなく目的地へと辿り着いてみせる。


 風景は一変し、一面の緑が出迎えた。



「アルラウネ、居るー? ……わけもない、か」



 広い空間に遮る物は無い。


 ならば、通路の奥か。


 つたが絡み合った壁は、全ての通路を隠しおおせている。


 容易には全体像を悟らせない。


 いやそもそも、初見ならこの広間以外の空間に気付かないかも。


 そして、知ったとしても問題が。


 目印も無いため、探すとなると一苦労なのだ。



「絶対、面倒臭いわよね、この造り」



 ドリアードの性格なのか、無駄に複雑で広い。


 手近な壁に歩み寄り、手を翳す。


 するとたちまつたが蠢き、壁の向こう側が露わとなる。


 細長い通路。


 やっぱりここもつたで覆われている。


 他も同じ造りをしているため、一見しただけでは、どこに繋がるのかは見当も付かない。


 つまりは、先に進んでみる他無い。


 ずっと昔は、ここまで面倒な造りはしていなかったのに。


 世界樹を顕現させたときに、内装が様変わりしてしまった。


 自宅は単純な造りでとても好ましい。


 思えば、母の住処と似ているのかも。


 基本は広間しか使わないし。


 懐かしい光景を幻視する。


 久しく帰ってない。


 弟君と一緒に住んでからは一度も帰ってないはず。


 元気なのは間違いない。


 何か言って来ない限り、帰るのは止めておこう。


 どうせ会えばいつも通りの遣り取りになるのは目に見えてる。






 通路を抜ければ、辿り着く先は、やっぱり広間。


 目的の場所では無かったらしい。


 理由は単純明快。


 床に、宙に、緑の球体が沢山。


 コロポックルの居住区画に来てしまったようだ。



『エルフさんポー』


『元気コロ?』


『暇なら、遊んで欲しいポー』



 フヨフヨと寄って来る緑の群れ。


 精霊の中でも飛び抜けて人懐っこい気がする。



「遊ぶのは弟君たちとしてあげて頂戴」


『一緒じゃないコロ?』


「残念ながらね。アルラウネを探してるんだけど、どこか知らない?」


『お任せポー』


「あ、一体で十分だから」


『『『残念ポー』』』



 ゾロゾロと付いて来ようとしたので、制しておく。


 コロポックルの先導に従い、最初の広間へ戻る。


 そこからまた別の通路へ。


 アルラウネは魔族だけど、植物という括りに含まれるのか、位置を把握できるらしい。


 もしくは、この住処内なら、人も魔族も感知できるのか。


 どちらにせよ、お蔭で無駄に探し回らずに済むので助かる。



『またお出掛けするコロ?』


「そうね。少なくとも、コロポックルには一体、付いて来て貰うと思うわ」


『みんな行きたがるポー』


「外が怖くないの? こことは違って危険な場所よ」


『外にも仲間はいるポー。会いたいポー』



 仲間、ね。


 野生のコロポックルというわけではないのだろう。


 きっと、植物全般のことを指しているのだと思う。


 ドリアードも、植物を同胞って呼んでるし。


 弟君にも、何か自発的な目的があれば良いのかな。



『着いたポー』



 コロポックルに言われ、意識を現実へと帰還させる。


 広間は緑色ではなく、様々な色で染め上げられていた。


 要因は咲き誇る色とりどりの花。


 そこに、腰を下ろしているアルラウネが居た。



「また来たの?」


「明日の相談にね。っと、案内ありがとね」


『どういたしましてポー』



 促すまでもなく、フヨフヨと通路を戻っていく。



「で、相談の内容は?」


「明日も集落に行こうかと思っててね。アルラウネはどうするかなって」


「今度は何しに行くつもりなわけ?」


「賢者に言われてね。ケンタウロスの狩りを見学させてみろって」


「ふーん。意味あるのかしら」


「妹ちゃんはついでに弓を習わせようと思うんだけど、弟君の方がね……」


「まぁ、いきなり戦わせようとするよりかはマシなんじゃない」


「戦う前に何させればいいってのよ」


「普通は指導役とかと稽古したりするんじゃないの?」


「指導役ねぇ……」


「アンタはどうしてたのよ?」



 刺激されるのは過去の記憶。


 毎日繰り返された、戦いの記憶。



「アタシは……母と戦ってばかりいたから」


「何よそれ。聞くだけで壮絶ね」


「アタシじゃ結局、弟君を鍛えてあげるのは難しいのかも」


「……何を悩んでいるのかよく分からないけど、取り敢えず明日は付いて行ってあげるわよ」


「そう?」


「アンタだけじゃ、どうにも危なっかしいからね」


「うっさい」



 母とも、ドリアードとも違う。


 気安い存在。


 まるで姉のようだなんて、口にできたもんじゃないけど。






本日は本編40話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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