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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
48/230

36 無職の少年、今日の予定②

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 ダンジョンから戻り、休養に努めた……っぽい

 随分と久しぶりに、姉以外と眠りに就いた

 寒さを感じる朝。


 何故だかいつもよりも寒い。


 代わりに、妙に柔らかい感触が返る。


 寝惚けつつ、薄目を開けて確認してみることに。


 腕の中には、褐色の肌ではない半透明で変形した物体。


 えっと…………あ、スライムか。


 そう言えば、昨日は随分と久しぶりにスライムと一緒に寝たんだっけ。


 風呂上がりの熱はとうの昔に失われ、ひんやりとむしろこちらの熱を奪う。


 吹き抜けの天井からは、白む空が見えている。


 さて、食事の用意をしないと。


 スライムを離し、ベッドを脱する。


 そのまま階段へと向かう途中、もう一つのベッドをチラリと見る。


 如何にも寒そうに丸まっている姉さんの姿。


 いつもみたく下着姿だから、余計に寒いんだよ。


 理屈は良く分からないけど、高い場所ほど寒くなるらしい。


 世界樹は雲より高いわけで。


 多分、精霊の力で、普通よりかはマシなんだろうけど。


 自分のベッドへと戻り、毛布を持つ。


 そうして姉さんの方へ移動し、上から掛けてあげる。


 もう一度、自分のベッドへ戻り、今度はスライムを抱きかかえて一階へ。


 長椅子で丸くなるブラックドッグにスライムを預け、台所へと向かった。






「弟くぅ~ん!」



 食事の準備が終わろうかという頃合い。


 二階からそんな声が聞こえて来た。



「弟君、弟君、弟君、弟君、弟くぅ~ん!」



 のみならず、連呼して迫って来る。


 今日はやけにうるさい。


 一緒に寝なかったから、何らかの疾患でも生じたのかな。


 それは衝撃を伴って来た。



「弟君! もうお姉ちゃんは、目覚めの瞬間から、弟君の愛を感じずにはいられなかったわ!」



 ガバッ。


 興奮気味の姉さんに抱きしめられた。



「どうかしたんですか?」


「毛布、掛けてくれたんでしょ? 優しい弟君の温もりに包まれて、お姉ちゃんは朝からとっても幸せ!」


「温まったなら、抱きつかなくてもいいじゃないですか」


「ソレはソレ、コレはコレよ。愛情はいつだって別腹なんだから」



 食べられるのはちょっと。



「自分の分は自分で運んでください」


「弟君が食事を持って、その弟君をアタシが運べばいいと思わない?」


「意味が分かりません」


「昨日はあんなに甘えてくれたのにぃ~」



 顔に熱が込み上げて来る。


 恥ずかしい。


 昨日はちょっとどうかしてたんだ。


 あんなにずっとしがみ付いてるなんて。



「昨日のことは忘れてください」


「無理よ。お姉ちゃんメモリーに永久保存しておいたから」



 やっぱり意味が分からない。



「とにかく、配膳の邪魔なので放してください」


「シクシク」


「あと、服を着てください」


「グフッ」


「着るまでは食事は出しません」


「分かったわよぅ」



 ようやく解放される。


 タンタンタン。


 軽い足音が数回。


 もう姉さんは二階に上がっていた。


 どうせなら食事も運んで欲しかったよ、姉さん。






「「いただきます」」


『イタダキマス』



 椅子に二人、机の上に一体での食事。


 果物はもう無いので、スライムには野菜。



『ウマウマ』


「今度は食べ過ぎないでよ?」


『ガンバル』


「いっつもそれね」



 魔物や魔族の食事は、一日一回で十分なはず。


 世界樹に居れば、数日に一回まで減少するはずなのに。


 スライムは二日連続で食事を取っている。


 本当に大丈夫なのかな?



「今日はどうしようかしらね。昨日はのんびりできたとは言い難いし」



 外に行くということはつまり、また怖い思いをするわけで。


 ならば、出掛けない方が安心安全だ。



「掃除がやりかけなので……」


「そうなの? なら、今日も休みにしておきましょうか」


「はい」



 心なしか声が弾む。


 戦うのは怖い。


 それに、戦いたいわけじゃない。


 ただ、倒したい相手がいるだけなのだから。



「そうだ! 弟君の洗濯物は、お姉ちゃんに任せておいて!」


「どうしてですか?」


「香りを十分堪能してから――」


「気持ち悪いです、姉さん」



 姉さんが机に突っ伏して動かなくなった。



『ヘンタイ、ダナ⁉』



 スライムの言葉に反応してか、カタカタ震え出す。



「スライムはどうする? 帰る?」


『ココ、イル』


「そう? でも遊べないかも」


『イッショ、ウレシイ』



 そう返されてしまっては、強くも言えない。


 昔からの僕の友達。


 もっと遊んであげられたらいいんだけど。



「お姉ちゃんが掃除も洗濯もやっておいてあげるわよ」



 身体は机に預けたまま、顔だけこちらを向いていた。


 ジッと見つめ返す。


 更にジーッと見つめ続ける。



「ど、どうしたの、弟君」


「姉さんは信用できません」


「酷い!」



 先程の言動もある。


 それに加えて、姉さんは大雑把過ぎるし。


 かえって酷い有様になりそうな予感が拭い去れない。



「それより、姉さん。食材がそろそろ心許ないんですが」


「あら。ここ数日、客も来てたし、減りが早まったのね。いいわ、また貰って来てあげるから」


「お願いします」



 世界樹での生活で一番困るとすれば、やっぱり食料の調達だと思う。


 精霊の住処に行けば、多少の果実や野菜を貰えたりもするけど、ドリアードさんがあまり良い顔をしない。


 植物への愛情が強く、食べられるのも嫌みたい。


 肉なんてあるはずもなくて。


 だから、姉さんが都度地上へ出向き、貰って来てくれる。


 でも何故だか、僕が付いて行くのを了承してはくれない。



「今日こそは用事を手早く済ませて、弟君のそばに居てあげるからね」


「邪魔はしないでくださいね」


「お姉ちゃんの信用が低過ぎない⁉」



 姉さんが居ないのは寂しい。


 素直に言うと、また騒ぎ出すから言わないけど。


 それに、ブラックドッグとスライムが居てくれる。


 なら耐えられる。






本日は本編40話までと、SSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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