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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
46/230

35 無職の少年、今と昔

 スライムがようやく満腹感から解放されたころ。


 空からはもう日が去り始めていた。


 色の変わりゆく風景を前に、そろそろ帰宅することに。



「もう苦しくないのよね?」


『ナオッタ!』


「それなら良かったわ。けど、当分の間、果物はあげないからね」


『ヒドイ、オウボウ!』


「人聞きが悪いこと言わないでくれる? 少しは反省なさい」



 姉さんがスライムを掴み上げた。


 そのまま横に引っ張る。



『ボウリョク、ハンタイ!』


「オネーチャン、落ち着いてよぅ」


「弱いモノイジメ、カッコ悪いデス」


「何よみんなして。ハイハイ、アタシが悪いってわけね」



 パッと手を離され、地面でポヨポヨとスライムが跳ねる。



『ミゴト、セイカン!』


「スライムのためにウチたちも付いて来たんだから。ちゃんと反省しないと駄目だよ。じゃないと、テッケンセイサイ、だよ」


「ごーれむちゃんのパクリ、デス!」



 しがみ付いていた手を離し、スライムの前で拳が空を切る。


 風切り音が聞こえてくる辺り、当たったらとんでもないことになりそう。



「妹ちゃんも、大概乱暴じゃないのよ」


「オネーチャンに似たんだよ」


「酷い責任転嫁もあったものね」



 ブラックドッグの背からコロポックルを片腕に抱くと、空いた方の手でスライムを鷲掴みにする。



『フタタビ、ピンチ⁉』


「いい加減大人しくなさい。ほら、もう帰るわよ」


「また来てくださいデス」


「えぇ、またすぐ来ることになると思うわ」



ゲート



 世界に開く穴。


 地面に少し隙間を空けて、空間に歪みが生じる。


 今回は魔物に襲われることも無く、外出した割にのんびり過ごせた気がする。


 とは言え、ずっと姉さんにしがみ付いてたんだけど。



「またね~、ごーれむちゃん。次も新しい技教えてね~」


「またパクる気デス⁉」


「あんなのは技じゃないわよ。じゃ、またね」


「バイバイデス」



 フリフリ衣装の巨大な石像がブンブンと腕を振っている。


 見た目凄いけど、話してると怖がる必要が無いって分かる。


 ずっと門番だけをし続けてるなら、やっぱり寂しかったりするのかな。


 僕ならきっと、すぐに耐えられなくなると思う。


 そんなことをぼんやりと考えながら、姉さんにしがみ付きながら空間の歪みへと入って行った。






 家に向かうよりも先に、精霊の住処へと向かう。


 コロポックルを帰してから、妹ちゃんとも別れ、ようやく家の中へ。



『オトマリ!』


「いいけど、大人しくなさいよ? また勝手に果物漁ってたら追い出すからね」


『ガ、ガンバル』


「何でそこに努力が必要になるわけ」



 精霊の住処でスライムは帰らずに、家まで付いて来ていた。


 言葉通り、家に泊ることにしたみたい。



『イッショ、ネル』


「弟君と一緒に寝るのはアタシよ」



 そこにスライムを加えるのは、姉さん的に無理なんだね。



『ズルイ!』


「お姉ちゃん特権なんだから」


『トモダチ、トッケン』


「む」


『トモダチ』


「ぐ」


『トーモーダーチー』


「ぐぐぅ、ひ、一晩ぐらい、なら、もしかしたら、耐えられる、かも」


『マイニチ、オトマリ』


「あ、それは無理」



 苦し気な様子が一変し、抑揚の無い声が発せられた。



「弟君だって、お姉ちゃんと二日も離れて寝たくないもん、ね?」



 妙に強調された語尾。


 コクコクと頷いておく。



「ほらね。一晩だけ、涙を呑んで譲ってあげるわ」


『ア、アリガト』



 スライムも心なしかブルブル震えている気がする。






 はしゃぐスライムと共に、どうにかお風呂を終える。


 どうやってスライムが泳いでいたのか、結局分からなかったや。


 姉さんには怒られちゃったし。



『ポカポカ』


「そりゃ良かったわね。お蔭でこっちはヘトヘトよ」


『オツカレ?』


「主にアンタがはしゃいだ所為でね」



 スライムを抱えて、姉さんの後ろを歩いてゆく。


 階段を上がり、寝室へ。


 いつものように同じベットに行こうとするのを、姉さんが踏み止まる。



「我慢、我慢よアタシ。たった一晩限りのことじゃないの。大丈夫、きっと耐えられるはずよ」



 ブツブツと何かを呟いている。



『オツカレ、ミタイ』



 そうなのかな?


 取り敢えず、僕はいつも通りにベッドに向かう。


 姉さんは昨日までアルラウネさんが使っていた、元々は姉さんのベッドへと、随分とゆっくり移動してゆく。



「弟君。寂しかったら、遠慮なくこっちにいらっしゃいね」


『ミレン、タラタラ』


「うっさい!」



 あれだけずっとしがみ付いていたのに。


 僕はもう気持ちが落ち着いたけど、姉さんは違うのかな。


 それとも、抱きつかれるのと抱きつくのとじゃ、違ったりするとか。



「早く寝れば、それだけすぐ朝を迎えられるはずよ!」



 就寝前とは思えないぐらい、姉さんの気合が凄い。


 あれで寝付けるのだろうか。



『イッショ、ヒサビサ』


「そうだね」



 昔は姉さんも、今ほどの距離感ではなかった。


 そのころは姉さんとじゃなく、スライムやブラックドッグと一緒に寝ていた覚えがある。


 まだ、ぎこちない姉弟だったころ。



「随分と久しぶりね」


「そうですね」



 姉さんも同じことを思っていたのか、主語の無い会話が成立していた。



「おやすみ。それと、寂しくなったら――」


「行きません」


「酷いわ、弟君⁉ お姉ちゃんが寂しがってるのよ」



 やっぱり姉さんが寂しいんじゃないか。


 だからって、こっちで一緒に寝るつもりはないらしい。


 よく分からないこだわりがあるのかも。



「おやすみなさい、姉さん」


「おやすみ、弟君」


『ヌクヌク、ネムネム』



 ほんのりとまだ温かいスライムを抱きしめる。


 久しぶりの感覚。


 いつもとは違うけど、孤独ではなくて。


 昔の僕は、今の生活なんて、思いもよらなかっただろうな。


 懐かしい記憶。


 あれからずっと一緒にいる。


 そう、あれからずっと、孤独じゃなかったんだから。






本日はあと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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