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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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4 無職の少年、邂逅

 空色の髪が揺れる背に導かれ、次第に前方の騒ぎが分かるようになってきた。


 確かに誰かが揉めているらしい。


 さっき仲裁に向かったはずが、未だ収まってはいない様子。



「ワタシが不在だと、このていたらくか」


「お叱りは後程。今は我々も向かった方が宜しいのでは?」


「そうだな」



 繋がれた手が離される。



「済まない。おっとコホン、御免なさい。危ないかもしれないから、少しここで待って居てくれる?」


「僕なら大丈夫です」



 お姉さんには悪いが、この隙に逃げて――。



「目を離した隙に逃げちゃ駄目よ?」


「……はい、分かりました」



 信用されているのかいないのか。


 にこやかに、でも目だけが笑っていない。


 逃げたら後が大変そうかも。



「一人はこの場で待機。残りは共に来い」


「ハッ」



 あ、やっぱり信用されていないのかも。


 逃走を防ぐようにして、背後に一人が残った。


 こうなっては仕方がない。


 大人しく、お姉さんが戻るのを待つか。


 何とはなしに、様子を窺う。


 騒ぎの原因。


 数人がかりで、一人を取り押さえている。


 妙な既視感を覚える。


 ローブ姿の人物。


 そう、僕と同じような恰好をしている。


 あれってまさか……姉さん?


 目だけでなく、耳にも注意を払う。


 声は?



「――お前たち、何を騒いでいるんだ!」


「ふ、副団長! 巡回、お疲れ様です!」


「既に問いは済ませたぞ」


「ハッ! この者が執拗に塔への侵入を試みておりまして」


「塔へ? 失礼ながら塔へは何用で? 騎士団の者とて、私用での立ち入りは許可されてはおりません」


「随分と狭量な神様なのね」


「……何だと?」


「だ・か・ら! せこいこと言わないで、見学させろって言ってるのよ!」



 あぁ、やっぱり。


 この声は姉さんだ。


 思いがけず合流できた……いやまだできてはいないのか。


 でもどうしよう。


 このままだと、姉さんの方が捕まっちゃいそう。



「おい、いい加減、無礼が過ぎるぞ!」


「乱暴は止めろ。重ねて失礼ながら、そのフードを外して顔をハッキリと確認させていただきたい」


「お断りよ」


「何故です?」


「美人も過ぎれは目に毒ってね。それに、弟君以外の男に見られるのも嫌なの」


「弟……? もしやアナタは――」


「こいつ、調子に乗りやがって!」



 姉さんが地面へと無理矢理に押し付けられてゆく。


 考えるよりも先に、身体が動く。


 駆け出す。


 姉さん姉さん姉さん!


 姉さんはカッコ良くて。


 きっと誰よりも強い。


 でも優しいから、乱暴な真似はしないんだ。


 なら、僕が姉さんを助けないと。



「姉さんから――」



 狙いは一番手前の男。


 その脚。



「離れろぉーーー!」



 全体重を乗せ、ぶつかる。






「何だぁ、このガキ」


「ぐうぅっ」



 腹部に激痛。


 ぶつかる寸前で後ろ蹴りにされた。


 全身が痛みに支配され、何も行動できない。



「何て真似を! 相手は子供だぞ! キサマは騎士の何たるかを理解してないらしいな!」


「え……? 嘘、嘘でしょ? 何で弟君がここに……⁉」


「彼女からも手を離せ! キサマらは揃いも揃って何をしているんだ!」


「え、いや、しかし――」


「離れろ!!!」


「――ッ⁉ 弟君!」



 ギュッと閉じた瞼を僅かに開く。



「付いてきちゃったのね」


「ぐッ、ゴメン、なさい」


「怪我なんてして欲しくない。傷ついて欲しくないから、アタシは――」



 僕は馬鹿だ。


 姉さんを悲しませるなんて。


 でも、どうしても、我慢できなかったんだ。



「随分と騒々しいですが、一体何の騒ぎですか?」


「今更出てきたのか。副団長代理が聞いて呆れるな」


「副団長? もうお戻りで」


「この不始末、キサマにも責任がある」


「はい? 状況もまだ把握していないんですが」


「女性に子供。騎士が力を振るって良い相手では断じてない」


「あー、なるほど。大体状況は理解しましたよ。ですが副団長、女子供とて、時に危険な存在には成り得ます」


「かもしれない、と力を振るうつもりか?」


「ですから、時と場合によっては、ですよ」


「キサマは昔からそうだ。倫理や道徳が欠如している節がある」


「酷い言われようですね」


「キサマは、どうにも勇者に相応しくない」



 ――え?


 今、何と言った?



「好きでなったわけじゃありませんからね」


「人より優れた力を有するからこそだな――」



 ユウシャ……勇者?


 震える身体を無理矢理に動かす。


 薄目で周囲を探る。


 どいつが。


 どこに居る。



「勇者って、本当に本物の……? 何て皮肉。酷い巡り合わせね」



 駄目だよ姉さん。


 勇者は、勇者だけは、僕が。



「物語の勇者はもっとだなぁ」


「またその話ですか? いい加減、聞き飽きましたよ」



 さっきのお姉さん。


 その話している相手。


 アイツが。


 ■い記憶。


 思い出せ。


 あの顔を。


 あのわらい声を。


 あの、あの、あの――。



「勇者ぁぁぁぁぁあああああーーーーー!!!」



 忘れるはずがない。


 忘れられるはずがない。


 痛みなど、もうどうだっていい。


 身体がどうなろうと構いやしない。


 この瞬間のためだけに、生きてきたのだから。


 さぁ、ようやくの終わり。


 報いを受けろ。






少年は遂に勇者との邂逅を果たす。

無力に過ぎる子供が如何にして戦うつもりなのか。


本日は本編5話までと、SSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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