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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
36/230

26 無職の少年、震えて揺れて

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 主人公たちを鍛えるため、地上のダンジョンに赴いた一行

 異常な数の魔物が繁殖しており、襲撃を受ける

 どうにか切り抜けたと思われたが、今度は更に地下へと落ちてゆき

 崩壊した床の下には暗闇が広がっていた。


 明かりは無い。


 光を頭上に置き去り、落ちて行く。



「アルラウネ、着地!」


「魔族使いの荒いことッ!」



 短い遣り取り。


 身体に何かが絡みついて来る。


 のみならず、引っ張られた。



「すぐ底に着くわ!」



 声はアルラウネさんのもの。


 身構える猶予も与えられず激突する。


 かに思われたが、迎えたのは柔らかい感触の束。


 これって……植物かな?


 明かりが無いため、手探りで状況の確認に努める。


 サワサワ、サワサワ。



「こ、こら、くすぐったいわよ」



 再び聞こえたのはアルラウネさんの声。


 あ、これって、アルラウネさんのつたか。


 触られるのを嫌ったのか。


 それとも役目を終えたからか。


 柔らかな手触りが消えていった。



「シッ、静かに。周りを囲まれてる」



 今度聞こえてきたのは姉さんの声。


 囲まれてるって、一体何に?


 反射的に問いかけようとするのをどうにかこらえる。


 みんな口を閉ざす。


 そうして聞こえてくるのは、つい最近聞いたばかりの音。


 不快な音。


 カサカサ、ギチギチ、ガチガチ。


 まず間違いなくさっきの魔物だ。


 まだ居たんだ。


 なら、ここがこんなに暗いのは。


 僅かも光が漏れないほどに、そこら中に魔物が居るってことなのか。


 耳鳴りのように連続する音は無数に。


 正確な数を把握できないほど。


 見えないからこそ、想像ばかりが膨らんでしまう。


 周囲を埋め尽くす魔物の群れが、次の瞬間にも襲い掛かってくるかもしれない。


 カタカタカタカタカタカタと。


 恐怖に侵され、全身の震えが止まらない。



「意思が通じないのは分かってる。でも、あえて言っておくわ」



 何を思ったのか。


 みんなを黙らせたはずの姉さんが、声を張り上げた。



「アンタたちを一匹も見逃すつもりはないわ。だから必死に抵抗なさい」



 何を言ってるの……?


 ついさっきまで、帰ろうとしてたじゃないか。


 僕たちが入って来なければ、大人しくしていたはずなのに。


 どうしてなのさ。


 果たして、魔物に意思は通じたのか否か。


 ガチガチガチガチガチガチガチガチ。


 周囲を動き回る音は止み、何かを打ち鳴らす音が埋め尽くす。



「みんなは動かないでね。巻き込んじゃうから」



 どこに居るかも定かではない姉さんが告げて来る。


 姉さんを止めないと。


 ただ生きてただけの魔物を全滅させる必要なんてないはず。


 でも、何て言えば止めてくれるだろうか。


 急に心変わりした姉さんを。


 何を言えば止められる?


 恐怖に侵された頭は、碌な考えを寄越さない。


 時間は無情にも過ぎゆき、一方的な戦闘が開始されてしまう。






 今まで感じたこともないほどの強烈な揺れ。


 たまらず床にしがみ付く。


 感触に違和感を覚える。


 あ、これ床じゃなくて地面だ。


 そんな気付きを余所に、今度は突き上げるような縦揺れが襲う。


 身体が宙に浮く。


 地面の上で何度も身体が跳ねる。


 周囲の状況も分からない。


 自然の脅威に抗えぬまま、精々が身体を丸めて揺れが治まるのを待つ他なくて。


 このまま土に埋もれてしまうのかと恐怖する。


 魔物の群れなどより、今はこの揺れの方が余程に怖くて。


 揺れが治まったことに気が付いたのは、もうしばらく後のことだった。






「治まったの?」


「えぇ、もう終わったわ」



 どこか噛み合っていない会話。


 未だ揺れている感覚が身体に残っている。


 酷く気持ちが悪い。



「で、ちゃんと説明はして貰えるんでしょうね?」


「もちろん。でもまずはダンジョンに戻りましょう。外へ続く穴を塞がないと」


「何⁉ 何なの⁉ わけ分かんないよぅ!」


「怖いのはもうお仕舞よ」


「怖いって言うか、怖かったけど!」



 妹ちゃんが混乱している。



「地面ごと上に行くから、動いちゃ駄目よ」



 再びの揺れ。


 思わず身体が強張る。


 こんなに揺れるのが怖いことだなんて思わなかった。


 頭上の明かりが近づいて来る。


 いや、こっちが近づいて行ってるのか。


 次第に視界も戻って来る。


 穴に戻る寸前、下の様子が見えた。


 周囲は土に覆われた、元は洞穴のような場所だったらしい。


 らしいとは、今は違う姿になっているから。


 鋭い棘。


 迫る天井の周囲が土色の棘で覆われている。


 恐らくは見通せない壁や地面も同様に。


 棘に刺さっているのは魔物だったはずのモノ。


 静かになっていた意味を否が応でも理解させられた。






本日は本編30話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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