22 無職の少年、待ちぼうけ
世界樹から魔族の集落までの移動は一瞬で済んだ。
アルラウネさんが言っていたように、集落に直接移動することもできたらしい。
「やっぱりね。そうだろうと思ったわ」
「弟君たちに外の世界を見せてあげたかったのよ」
「別に怒ってるわけじゃないわ」
「アタシの場合、門は土や石なんかがある場所にしか移動できないし、事前の確認無しじゃ、壁の中ってこともあるんだから」
「ハイハイ、だからもういいってば」
アルラウネさんと姉さんの遣り取りを見守る。
「あのー、申し訳ないんですが、移動して貰えると……デス」
フリフリ衣装の石像もまた困惑していた。
出て来た先は集落の入り口だった。
「みんなで集落まで行くこともないわよね。アタシが行って用事を済ませてくるから、弟君たちはここで待っててね」
返事も待たず、姉さんが果樹に挟まれた道を凄い速さで遠ざかって行く。
去来するのは不安か寂しさか。
自発的に姉さんと離れるのは平気なのに、姉さんの方から離れられるとこうなってしまう。
「装備でも借りてくる気かしら」
「どこかにお出かけデス?」
「ダンジョンに行く気らしいわ」
「何だってー、デス⁉」
「この近くにダンジョンなんてあったかしら」
「ひとつあるデス。でも、随分前に入り口を閉じちゃったはずデス」
「まぁ、ダンジョンは壊せないしねぇ」
壊せないって、ダンジョンってそんなに頑丈なのかな?
「ねぇねぇ、ダンジョンと洞窟って何が違うのぉ?」
『ダンジョンは魔王が造ったポー。洞窟は自然にできたり、人が造ったんだポー』
「へぇー、そうなんだねぇ」
「え、ちょっと、どんな説明されたの?」
あ、そっか。
アルラウネさんはコロポックルの言葉が分からないんだったっけ。
「ダンジョンは魔王が、洞窟は自然や人が造ったって言ってました」
「あら、ちゃんと合ってるわね。加えて、洞窟と違って、ダンジョンには色々な仕掛けが備わってるわ」
「仕掛け?」
「ダンジョン内は独自の光源が存在しているわ。これはまぁ問題は無いんだけど」
説明モードに入ったらしいアルラウネさんの前に、二人して並ぶ。
何故だか石像も一緒に聞く姿勢を取っているけど。
「その光源が有効になっていることで、ダンジョンが機能しているって目印にもなるってわけ」
「機能? どゆこと?」
「ダンジョンの機能には、罠や魔物の巣、転移魔法陣なんかがあるわ」
あれ?
魔物の巣って別に機能じゃないような気が。
「じゃあじゃあ、ダンジョンが光ってなかったら、何も動かないってこと?」
「基本的にはそうね。ただ、魔物は住み着いてる可能性があるけど」
「あの、魔物の巣がどうしてダンジョンの機能なんですか?」
「ダンジョンは魔物を生み出してるのよ。より正確な表現をするなら、転移させて来てるの」
「てんい、って何?」
「さっき移動に使った力みたいなものね。遠く離れた場所へ一瞬で移動できるってことよ」
「ほえぇー」
「し、知らなかったデス」
「ゴーレムはここを離れられないから、知らなくても仕方がないわ」
「ごーれむちゃん、デス」
「ハイハイ、そうだったわね」
「ちゃんと呼んで欲しいデス」
「ハァッ…………ごーれむちゃん。これでいい?」
「ハイ、何か御用デス?」
「呼べと言われたから呼んだだけよ」
「酷いデス!」
話が進まなくなった。
石像、ちょっとうるさい、です。
「あれ? でもそれだと、魔物って減らないってこと?」
「一時的には減らせるわ。でもダンジョンが機能している限り、魔物はまた増えてしまうわね」
「なら、ずっと経験値稼ぎができるんだね」
なにそれ怖い。
「経験値って、随分と古い言葉を知ってるのね」
「ほえ?」
「経験値やレベルは、随分と昔にあった概念よ」
「ごーれむちゃんも知ってるデス。二代目の勇者の仕業デス」
ドクン。
心臓が跳ねる。
「そう。二代目の勇者が、魔法で世界の在り方を変えてしまった。それ以降、この世界に経験値やレベルは存在しなくなったわ」
「なにそれぇー。じゃあじゃあ、強くなれないじゃんかー」
「命を奪うことで強くなる。そんな歪みを正したとも言えるんだけどね」
「でも、その魔法の行使により、お亡くなりになられたそうデス」
勇者。
世界なんてものを変えられるなんて。
やっぱり危険な存在なんだ。
「まぁ、強くなるには地道で継続的な努力が必要ってことよ。アナタのお兄さんみたいにね」
「ええ~、アニキィ~」
「コホン。話を戻すけど、ダンジョンに行く理由は、戦わせることじゃなく、経験を積ませることだと思うわよ」
「どゆこと?」
「同じ相手なら勝ち続けるのは難しくないでしょ。でも、違う相手ならどう?」
色んな敵と戦えってことなのかな。
それって凄く危険ってことだよね。
「危ないですよね」
「どこがどう危険なのか、知って欲しいんだとも思うわ」
え? どういう意味だろう。
「あー、あとはそうね。ダンジョンが機能してるってことは、魔王が存命ってことでもあるわ」
「魔王様が居なくなると、ダンジョンは止まっちゃうってこと?」
「そうよ」
魔王。
ずっとずっと昔に勇者が倒したって聞いたけど。
また現れてたんだ。
「魔王様かぁ、どんなかなぁ」
「アタシも今代の魔王には会ったことがないわね」
「じゃあじゃあ、昔の魔王様に会ったことある?」
「えぇ、あるわ」
「凄い凄ーい!」
「ごーれむちゃんも、会ったことあるデス」
「ふぇ? そなの?」
「それは二代目の方ね」
「デス?」
なら、勇者も魔王も、沢山居たってこと?
「おっ待たせぇーーー!」
あ、姉さんの声だ。
集落への道を見やる。
が、居ない。
すると、すぐ目の前に姉さんが飛来してきた。
「うわぁっ⁉」
「おっと、びっくりさせちゃった? ごめんね」
姉さんの腕の中には、武器や防具がある。
これから戦いに行くんだ。
ジワジワと実感が湧いて来る。
心臓がうるさいぐらい鳴っているのに、血の気が引いていく感じ。
怖い。
凄く怖いよ。
色々と補足をば。
但し、前作のネタバレを多少含みます。
・初代勇者&二代目魔王⇒前作の主人公
・初代魔王⇒前作の主人公が倒した魔王
・二代目勇者⇒初代魔王の転生体
本作の魔王は四代目。
勇者は何代目か不明。
本日は本編25話までとSSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




