21 無職の少年、二度寝
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
主人公を鍛えようとケンタウロスの集落を目指す
が、地中より魔物の襲撃を受けてしまう
姉とその場に居合わせた賢者が協力し、魔物の巣を制圧した
いつもより遅い起床。
眩い日差しが否応なく瞼を刺激する。
早朝特有の冷えた空気はあるが、温もりが勝っている。
理由は単純明快。
いつも通りに姉さんに抱きしめられているからに違いあるまい。
吹き抜けから覗く空は、既に十分な明るさを帯びていた。
それでも屋内で動く気配は自分以外に無い。
みんなは未だ眠りの中らしい。
きっとそれだけ疲れてたんだよね。
昨日は何もできなかった。
ただ怖がってばかりで。
そう、怖かった。
恐ろしかった。
僕も姉さんもみんなも、死んじゃうんじゃないかって。
逃れるように、温もりにしがみつく。
世界で一番安全な場所。
鼓動が伝わる。
命ある証。
恐怖の残滓が薄れてゆく。
「――きて」
振動。
身体が揺すられている感じ。
促されるように意識が覚醒してゆく。
「ほら、いい加減起きて、弟君」
「うぅっ……ん、ふわぁ~っ、姉さん……おはよ」
「随分寝てたのね。もうお昼近いわよ」
薄目からは、珍しく姉さんが服を着てるのが窺えた。
あれ、朝に起きた気がするんだけどな。
「あんなに強く抱きしめてくるなんて、お姉ちゃん困っちゃうわ」
「何馬鹿なこと言ってんの。そもそも一緒に寝ること自体――」
「あー、聞こえない聞こえなーい」
「こら! 二階から飛び降りるな!」
もう一つの声はアルラウネさんか。
どうにか瞼を押し上げると、姉さんの姿は消えていた。
階下から賑やかな声が届く。
「ふわぁ~っ」
昼まで寝ていたらしいのに、中々欠伸が止まらない。
結局、姉さんお手製の食材を焼いただけの料理が出来上がるまで、ベッドの上で微睡んでいた。
「「いただきます」」
声は二人分。
席に着いているのは、二人と一体。
僕と姉さんとアルラウネさんだ。
コロポックルは、何故だか長椅子に横たわるブラックドッグの上で跳ねている。
「何よ、折角作ってあげたのに、食べないつもり?」
「アタシは肉は食べないの」
「植物って肉も食べるんじゃなかった?」
「どこぞの食虫植物と一緒にしないで」
あ、そう言えば。
昨日は結局渡せずじまいの物が確か……。
食事を中断し、席を立つ。
「どうしたの? ……もしかして美味しくなかった?」
「違います。すぐに戻ります」
居間を抜け、向かう先は風呂場。
洗濯物の中から、目当ての物を発掘する。
そうして再び居間へと戻る。
「果物?」
「はい。昨日の集落で貰っておいたんです」
そう、姉さんたちが戻ったら渡そうと、幾つか持ち帰っていた。
スライムへのお土産分も含む。
「えぇっと、今、どこから持って来たの?」
「取り出すのを忘れてて、洗濯物と一緒に……。でも、洗えば大丈夫です」
「そ、そうね。弟君の気遣いですもの、まさか無下に断ったりはしないわよね?」
「洗えば食べられる……わよね」
居間の奥、台所へと向かい、綺麗に洗う。
そのまま手渡すのもどうかと思ったので、皿に載せアルラウネさんの元へと持ってゆく。
「どうぞ」
「ありがとう。じゃあ悪いけどこの肉料理は下げて貰えるかしら」
「はい」
「あ、弟君。それは空いてる席に置いておけばいいからね」
「え?」
「どうせすぐいつものが来るわよ」
考えるより見た方が早いこともある。
タイミングを計ったように、玄関の扉が勢いよく開かれた。
「おっは……こーんにーちはー!」
「まずはノックを覚えなさい。後、扉は静かに開きなさい」
「あ、はい、ごめんなさい」
アルラウネさんから早速注意を受ける妹ちゃん。
最初の勢いはどこへやら。
大人しく謝っている。
「あー、みんな先に食べてるしー。酷いよぉー」
と思えたのは僅かの間だけだった。
下げた頭はすぐに元に戻り、机へと迫って来る。
「丁度一つ余りが出たとこだったから、好きに食べなさい」
「やったー!」
空いた席に座るなり、肉料理へと手を伸ばす。
「あ、いただきまーす! バクッ」
一応の挨拶を済ませ、かぶりついた。
「どう?」
「んんんー? お肉の味しかしないね」
「そりゃあ、焼いただけだからね」
姉さんは味付けなどしない。
ただ食材を焼くのみだ。
火加減だけは絶妙。
炭になるどころか、焦がすこともない。
けど、味気ない。
「味付けなら勝手になさい。ほら」
机の上を調味料の瓶が滑って移動してゆく。
すかさず掴み取り、肉に振り掛けまくる。
一同の表情が揃う。
あれはさぞしょっぱかろう、と。
調味料に覆われた肉に、躊躇なくかぶりつく。
数度の咀嚼を経て、動きが止まった。
食事の手を止め、席を立つ。
向かう先は台所。
間を置いて、屋内に響き渡る絶叫。
水を入れたコップを急ぎ持って行った。
「さて、そろそろ出発しましょうか」
「もう昼過ぎよ? 今日も行くの?」
「今日行くって言っちゃったからね」
姉さんにしては珍しく、腰にポーチを着けている。
服すら嫌がるのに珍しい。
「何か持って行くんですか?」
「ポーションとエーテルを数本ね。昨日の教訓は活かさないと」
そう言えば、魔力不足で帰りが遅くなったとか聞いたかも。
「今日はダンジョンに行くわよ」
ダンジョン。
それって魔物の巣窟じゃなかったけ?
本日は本編25話までとSSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




