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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
30/230

21 無職の少年、二度寝

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 主人公を鍛えようとケンタウロスの集落を目指す

 が、地中より魔物の襲撃を受けてしまう

 姉とその場に居合わせた賢者が協力し、魔物の巣を制圧した

 いつもより遅い起床。


 眩い日差しが否応なく瞼を刺激する。


 早朝特有の冷えた空気はあるが、温もりが勝っている。


 理由は単純明快。


 いつも通りに姉さんに抱きしめられているからに違いあるまい。


 吹き抜けから覗く空は、既に十分な明るさを帯びていた。


 それでも屋内で動く気配は自分以外に無い。


 みんなは未だ眠りの中らしい。


 きっとそれだけ疲れてたんだよね。


 昨日は何もできなかった。


 ただ怖がってばかりで。


 そう、怖かった。


 恐ろしかった。


 僕も姉さんもみんなも、死んじゃうんじゃないかって。


 逃れるように、温もりにしがみつく。


 世界で一番安全な場所。


 鼓動が伝わる。


 命ある証。


 恐怖の残滓が薄れてゆく。






「――きて」



 振動。


 身体が揺すられている感じ。


 促されるように意識が覚醒してゆく。



「ほら、いい加減起きて、弟君」


「うぅっ……ん、ふわぁ~っ、姉さん……おはよ」


「随分寝てたのね。もうお昼近いわよ」



 薄目からは、珍しく姉さんが服を着てるのが窺えた。


 あれ、朝に起きた気がするんだけどな。



「あんなに強く抱きしめてくるなんて、お姉ちゃん困っちゃうわ」


「何馬鹿なこと言ってんの。そもそも一緒に寝ること自体――」


「あー、聞こえない聞こえなーい」


「こら! 二階から飛び降りるな!」



 もう一つの声はアルラウネさんか。


 どうにか瞼を押し上げると、姉さんの姿は消えていた。


 階下から賑やかな声が届く。



「ふわぁ~っ」



 昼まで寝ていたらしいのに、中々欠伸が止まらない。


 結局、姉さんお手製の食材を焼いただけの料理が出来上がるまで、ベッドの上で微睡まどろんでいた。






「「いただきます」」



 声は二人分。


 席に着いているのは、二人と一体。


 僕と姉さんとアルラウネさんだ。


 コロポックルは、何故だか長椅子に横たわるブラックドッグの上で跳ねている。



「何よ、折角作ってあげたのに、食べないつもり?」


「アタシは肉は食べないの」


「植物って肉も食べるんじゃなかった?」


「どこぞの食虫植物と一緒にしないで」



 あ、そう言えば。


 昨日は結局渡せずじまいの物が確か……。


 食事を中断し、席を立つ。



「どうしたの? ……もしかして美味しくなかった?」


「違います。すぐに戻ります」



 居間を抜け、向かう先は風呂場。


 洗濯物の中から、目当ての物を発掘する。


 そうして再び居間へと戻る。



「果物?」


「はい。昨日の集落で貰っておいたんです」



 そう、姉さんたちが戻ったら渡そうと、幾つか持ち帰っていた。


 スライムへのお土産分も含む。



「えぇっと、今、どこから持って来たの?」


「取り出すのを忘れてて、洗濯物と一緒に……。でも、洗えば大丈夫です」


「そ、そうね。弟君の気遣いですもの、まさか無下に断ったりはしないわよね?」


「洗えば食べられる……わよね」



 居間の奥、台所へと向かい、綺麗に洗う。


 そのまま手渡すのもどうかと思ったので、皿に載せアルラウネさんの元へと持ってゆく。



「どうぞ」


「ありがとう。じゃあ悪いけどこの肉料理は下げて貰えるかしら」


「はい」


「あ、弟君。それは空いてる席に置いておけばいいからね」


「え?」


「どうせすぐいつものが来るわよ」



 考えるより見た方が早いこともある。


 タイミングを計ったように、玄関の扉が勢いよく開かれた。



「おっは……こーんにーちはー!」


「まずはノックを覚えなさい。後、扉は静かに開きなさい」


「あ、はい、ごめんなさい」



 アルラウネさんから早速注意を受ける妹ちゃん。


 最初の勢いはどこへやら。


 大人しく謝っている。



「あー、みんな先に食べてるしー。酷いよぉー」



 と思えたのは僅かの間だけだった。


 下げた頭はすぐに元に戻り、机へと迫って来る。



「丁度一つ余りが出たとこだったから、好きに食べなさい」


「やったー!」



 空いた席に座るなり、肉料理へと手を伸ばす。



「あ、いただきまーす! バクッ」



 一応の挨拶を済ませ、かぶりついた。



「どう?」


「んんんー? お肉の味しかしないね」


「そりゃあ、焼いただけだからね」



 姉さんは味付けなどしない。


 ただ食材を焼くのみだ。


 火加減だけは絶妙。


 炭になるどころか、焦がすこともない。


 けど、味気ない。



「味付けなら勝手になさい。ほら」



 机の上を調味料の瓶が滑って移動してゆく。


 すかさず掴み取り、肉に振り掛けまくる。


 一同の表情が揃う。


 あれはさぞしょっぱかろう、と。


 調味料に覆われた肉に、躊躇なくかぶりつく。


 数度の咀嚼を経て、動きが止まった。


 食事の手を止め、席を立つ。


 向かう先は台所。


 間を置いて、屋内に響き渡る絶叫。


 水を入れたコップを急ぎ持って行った。






「さて、そろそろ出発しましょうか」


「もう昼過ぎよ? 今日も行くの?」


「今日行くって言っちゃったからね」



 姉さんにしては珍しく、腰にポーチを着けている。


 服すら嫌がるのに珍しい。



「何か持って行くんですか?」


「ポーションとエーテルを数本ね。昨日の教訓は活かさないと」



 そう言えば、魔力不足で帰りが遅くなったとか聞いたかも。



「今日はダンジョンに行くわよ」



 ダンジョン。


 それって魔物の巣窟じゃなかったけ?






本日は本編25話までとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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