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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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17 無職の少年、予期せぬ相手

 隆起した道が元通りになりつつ、姉さんたちが戻って来た。


 見る限り、みんな無事みたい。


 強張っていた身体が、心なしか弛緩する。



「こら、ゴーレム! なんで魔物の侵入を許してるのよ! しかもアタシたちに警告すらしないなんて」


「ご、ごーれむちゃん、デス」


「それはもう聞き飽きたわよ。いいから釈明をなさい」


「制止。ワタシが待機を指示」



 新たな声は背後、集落の外から聞こえてきた。


 でも知らぬ声ではない。



「マスター、デス⁉」


「肯定。今戻った」



 肩に座らされたまま、石像が振り返る。


 そこに居たのは、見知った人物と、見知らぬ複数の人馬。



「あ、ケンネェだ!」


「賢者⁉ なんでアンタがここに居るわけ⁉」



 見知った人物こそが、賢姉けんしさんだった。


 黒に近い緑の髪を無造作に伸ばし、目元まで隠れている。


 全身を黒のローブで覆っており、まさに黒づくめ。


 年上の女性のはずだが、背は僕より低い。


 都度、世界樹の集落を訪れては、薬を補充してくれていたりする。



「疑問。現状からの類推は可能と判断」


「もぅ、意地悪しないのッ! ワーム退治を手伝って貰ってたのよん」


「どうにも近場に巣でも作られちゃったみたいでね。最近やたらと姿を見かけるのよね」


「集落の中に現れたらと思うと、ゾッとしちゃうわん」



 賢姉けんしさんに続いて、次々と喋り出す人馬。


 上半身は人で下半身は馬。


 魔族に違いあるまい。


 革製の鎧で覆われた姿は、一様に凛々しく逞しい。


 どうやら、この集落の住民らしい。


 でも、女性口調なのは何故だろうか。


 全員、男なのに。



「ついさっき、集落の中にも湧いてたわよ」


「何ですって⁉ みんな無事かしら⁉」


「取り敢えず、道で遭遇したのは片付けておいたけど」


「お礼は後で必ずするわ。まずは集落の様子を確かめに行かないと」


「そうね。じゃ、集落にも是非立ち寄って頂戴な」


「さ、急ぎましょう」



 下半身が馬なだけはあって、駆ける速度は人よりも格段に速い。


 見る間に姿が小さくなっていく。



「で、アンタは付いて行かなくていいの?」


「不要。巣の位置は特定済み。ケンタウロスでは侵入は困難と判断しての帰還」


「それ、もしかしてアタシらに退治しろって言ってる?」


然様さよう。集落内まで侵入された以上、時間の猶予は左程無い」


「巣の規模は?」


「中程度。成体が数体棲息していると推察」


「んー、弟君たちを連れて行くのは危険そうね」


「なら、二人で行って来たら? ボウヤたちはアタシが面倒見ておくから」


「了承。戦力は十分と判断」


「また襲って来るかもしれないんだから、くれぐれも気を付けてよ? 何だったら世界樹に戻ってくれていいからね」


「分かったわ。そっちも気をつけなさい」



 さっき戦闘があったばっかりなのに、またすぐに行くつもりなの?


 しかも二人だけでなんて、危険だよ。



「姉さん……」


「そんな心配そうな顔しないで。お姉ちゃんは強いって知ってるでしょ?」


「それでも心配に決まってます!」


「なら、お姉ちゃんに抱きついたまま来る?」



 それはちょっと。


 情けないし危ないよね。



「アルラウネやブラックドッグから離れないようにね。分かった?」


「はい」


「ウチも付いて行っちゃ駄目ぇー?」


「駄目よ。ワームの厄介な点は数の多さなんだから。まだ対処できないでしょ」


「折角お外に出て来たのにぃ」


「退屈で死ぬことはないわ。でも一緒に来たら死ぬかもしれないのよ。聞き分けなさい」



 返事の代わりに頬をパンパンに膨らませてみせる。


 あんな怖い目に遭ったばかりなのに、付いて行きたいなんて。


 妹ちゃんはちょっとオカシイ。






「要請。ごーれむちゃん、命令変更。攻勢防御」


「ラジャー。やってやるデス!」


「さっき戦闘に参加しなかったのって……」


「回答。襲撃はワームだけとは限らない。外敵への備えとした」


「内側からだけでも十分危うかったわよ」


「否定。ケンタウロスは脚力に優れる。ワームでは追いつけない」


「幼生体ならね。成体なら話は違うでしょ」


「同意。だから討伐しに行く」


「ああはいはい、そうでしたね」



 アルラウネさんとはまた違った意味で、仲が良い二人。


 いつも顔を合わせると、言い合いをしている気がする。


 背格好も、歳も、性格もまるで異なる二人。


 何故だか少しだけ羨ましくも思えて。



「んじゃ、さっさと済ませましょうか。場所は?」


「目標。東の洞穴」


「いや、方角なんて言われても分からないんだけど」


「嘆息。……あっち」


「オッケー。急ぐから抱えてくわよ」


「拒絶。それはことわ――」



 賢姉けんしさんが言い終える前に、二人の姿は消えていた。


 姉さんはともかく、賢姉けんしさんは同行して大丈夫だったのかな。


 身体能力は僕と同じぐらいな気がするんだけど。


 とは言え、もう遅い。


 後は無事を祈るしかない。



「ほら、いつまで肩に乗せてるのよ。降ろしてあげて」


「忘れてたデス」



 ゴツい灰色の手で掴まれて、地面へとようやく降ろされる。


 視界の高さはいつも通りに。


 でも見慣れぬ風景のまま。



「まずは集落へ向かいましょうか」


「大丈夫なんですか?」


「ワームのこと? アタシもブラックドッグも居るから危険はないわ」


「ウチも居るしね!」


「先頭はブラックドッグ。アタシは後ろに付くわ。二人はあいだね」


「分かりました」


「さ、行きましょう」



 姉さんとははなばなれに。


 募る不安を押し殺す。


 フリフリ衣装の石像に別れを告げ。


 アルラウネさんたちと再び魔族の集落を目指して道を歩き始めた。






ようやく新キャラ登場。

賢者の口調、結構面倒臭い。

あと、増殖したセントレアw ※別個体です


本日は本編20話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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