SS-61 姉は招かれる
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
ついに最終章
是非とも第一章からお読みくださいませ
聖都での一件から一月余りが経過した。
そして今居る場所こそ、例の塔の大広間。
「何でアタシが呼ばれるわけ」
「それはどう考えても、こっちの台詞でしょ」
天井やら壁やらに手を加えたらしく、採光が格段に向上し、塔内を明るく照らし出している。
中央にあった石段は撤去され、代わりに円卓と椅子が用意されていた。
同席しているのはアルラウネ。
「済まんね。精霊側の代表として参加してもらったんだが。他に適任がいるようなら、次回からは交代してもらって構わんぜ」
「勝手に決められては困ります。変更がある場合、事前にご連絡をいただかねば」
声を掛けてきたのは、この場の主催者たる元騎士団団長。
その隣りには、元聖騎士の女性も居る。
二人が人族側の代表らしい。
ちなみに、鎧姿ではなく正装だ。
「陛下の貴重な時間を浪費させるとは、何と愚かな連中か」
「大変素晴らしい試みですのよ。提言にしろ、ただの批判はお止めなさい」
「ハッ、申し訳ありません」
魔族側の代表として、魔王と側近も同席していた。
やはり、自分たちは場違いに思えてならない。
ドリアードが来れば良かったのだ。
「あー、コホン。各々、時間を割いてもらって感謝する。この場を設けた理由は他でもない。精霊、魔族、人族とが、今後どう付き合っていくべきかを話し合えればと思ってる」
「僭越ながら、ワタシが書記を務めさせていただきます。終了時に会談の内容を纏めた紙をお配りいたします」
それは助かる。
会話の内容をいちいち覚えなくて済むし。
「初めになんだが、今後も定期的にこのような場を設けたいと考えてる。各勢力の現状報告と、他勢力への要望なんかも聞ければありがたい」
「一つ、よろしいかしら」
「おう、構わねぇぜ。何でも言ってくれ」
「会談の場に関してなのですが、毎回こちらになるのかしら」
「別の場所がよかったかい?」
「いえ、そうではなく、例えばですけれど、次回は魔族側で、次々回は精霊側で、という風になさっては如何かと思った次第ですわ」
「ああ、なるほど。つまりは持ち回りってわけか。現状を見知っておくって意味でも、そいつは名案かもしれねぇな。精霊側はどうだい?」
「別に。いいんじゃない」
「待って。帰ってから相談してみるわ。ここでの明言は控えさせて頂戴」
軽く返答したら、アルラウネが勢いよく遮ってきた。
どうやらお気に召さなかったらしい。
「分かった。場所に関しては保留としとこう。定期的に実施するってのには反対かい?」
「そちらに関しては異論無いわ」
「なら、終了時に次回開催の時期に関して話し合うとしよう」
異論が出ないことを確認し、話が続けられる。
「てなわけで、まずは人族の現状報告からさせてもらう」
教会と騎士団の廃止。
それに伴い、新たに人族を束ねる組織作りの最中なんだそうだ。
元団長も、単に臨時の代表という立場らしい。
ひとまずは、元騎士から厳選し、各町村に自警団を配しているとのこと。
しばらく会えてはいないが、聖女も頑張っていることだろう。
当面は、内政で手一杯のようだ。
要望としては、他勢力との交易を行いたいとしていた。
未だ世界樹の周囲には岩壁があって通行できない。
それらを撤去させたいのだと思う。
次に、魔族側の現状が話された。
世界樹周辺を警戒していた魔族を下がらせ、また、人族領内のダンジョンからも魔物を退かせているようだ。
余剰戦力を魔界へ送り、向こうでは生き辛い魔物たちを、こちらへと呼び寄せているとのこと。
魔物の絶対数は、今まで以上に増えると予想される。
要望は、魔物・魔族に対しての非殺傷。
これをまま承諾しては危う過ぎる。
危害を加えられない限り、という条件付きで合意がなされた。
最後に、アタシたち精霊側。
精霊シルフの処遇についての説明。
予想違わず、主に人族側から不安の声が上がった。
なので、こう返してやった。
連れてってあげるから、好きに見に来れば、と。
結果、いずれ折を見て、ということに。
あとは、残存する世界樹全てに、ドリアードの妹たちが誕生したことを話しておいた。
もし万が一にも世界樹を攻撃した場合、世界樹の群れが蹂躙するだろうとも。
要望は、火薬の処理。
勇者の魔法や魔王の支配も懸念ではあるが、やはりコレかなと。
鉱山での使用も鑑み、保有上限を設けることに。
アタシは半分土の精霊でもあるわけだし、鉱山での使用も快く思わないでもないのだが。
「あらかた話し終えたかねぇ。なら最後に、次回の開催時期についてだが、何か意見はあるか?」
「頻繁に集まっても、大して進展は無いんじゃない?」
「そうですわね。毎年……いえ、半年ほどでは如何かしら」
「ま、妥当なところだと思うわ」
「こっちも異論はない。次回は半年後としよう。参加してくれたこと、改めて感謝する。願わくは、次も変わらぬ面々が揃って欲しい」
「では、こちらが今回の議事録となります。内容をご確認ください」
手渡された紙に目を通し、アルラウネへと手渡す。
「……随分早かったけど、ちゃんと読んだわけ?」
「読んだ読んだ」
「まったくもう」
こういうことも大事なんだろうけど、やっぱりアタシ向きには思えない。
次回は誰か別のモノを生贄に……。
「……何を考えてるかぐらいお見通しよ」
「あらそう? なら引き続き頑張ってね」
「なら、次ばボウヤにお願いしようかしら」
「ちょっと! それは卑怯でしょ!」
「半分冗談だけど、同席させるのは悪くない考えに思えるわ」
「けど……」
「もちろん、本人の同意を得た上で、よ。無理強いはしないわ。但し、アナタは無理矢理にでも参加してもらうけど」
「嫌よ。それこそ、賢者のほうがよっぽど向いてると思わない?」
「それも本人が同意したら、の話ね。精々、上手く説得なさい」
「うッ」
あの子、人見知りだったわよね。
すっごく嫌がりそう。
ハァッ、誰か代わってくれないかしら。
本日は本編155話まで投稿します。
なお、本日投稿分をもちまして、本作は完結となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




