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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
220/230

150 無職の少年、顛末

 いつもより、幾分遅い目覚め。


 空がすっかり青くなるころに起き出し、のんびりと食事を終える。


 もう、訓練にも警備にも行かなくていい。


 妙な解放感。


 久しぶりに洗濯を済ませてから、みんなで家を後にする。


 今日すべきことは、一つだけ。


 ドリアードさんの住処へ向かい、話を聞くこと。


 道中、妹ちゃんの家にも寄ってみたのだが、兄妹共に興味は無いとのこと。


 それなら、僕だって行く必要はないんだけどね。


 他にしたる用事も無いわけだし、そのまま付いて行く。






 植物溢れる住処内へと入り、待っていたであろう相手に挨拶する。



「おはよ」


「おはようございます」



 空間の中央付近に植物で机と椅子が形成されている。


 既に二体共が、椅子に座って待っていた。



「──よく眠れたようじゃのう」


「おはよう。もうお昼だけどね」


「別に、時間の指定なんてしてなかったでしょ」


「それはそうだけど」


「あと、オーガたちは来ないって言ってたわ」


「そう。なら、このまま始めても構わないわよね」


「ええ」



 空いている椅子に隣同士で座る。


 ブラックドッグは足元でうずくまる。



「──さて、話と言うのは他でもない。昨日の顛末についてじゃ」



 姉さんとアルラウネさんが頷きで応える。


 語られるのは、精霊シルフの思惑と行動。


 勇者と魔王を警戒しており、互いに潰し合わせようとしていたらしい。


 ズキ。


 頭が僅かに痛む。






「だからって、世界樹まで壊す必要あるの?」


「──彼奴あやつは塔への侵入を図った報復のようなことを言っておったが、恐らく本当の狙いは魔法の解放にあったのじゃろうな」


「何でよ?」


「──魔王にするには、勇者が魔法を使えねば話にならぬ」



 ズキ。


 頭が僅かに痛む。



「どっちの脅威にしろ、全然実感が湧かないんだけど」


「実際に目の当たりにしてないから、そう言えるだけよ。けど、”改変”の力についてなら、実際に体験してるはずよ」


「どういうこと?」


「レベルの──いえ、経験値という理の消去よ」


「って言われてもねぇ……それってアタシが子供の時分でしょ? アタシにとっては今の状態が当たり前なんだけど」


「……そうなのね」


「──世界規模の”改変”じゃったからのう。しかし、そのような暴挙、相応の代償を伴ったわけじゃがな」


「神級魔法は魔力ではなく寿命、つまり生命力を代償として発動するの」


「それぐらいなら聞き覚えはあるけど」


「発動したのは魔族、二代目の勇者だったわ。発動後、ずぐに亡くなったそうよ」



 ズキ。


 頭が僅かに痛む。



「種族が入れ替わってたのって、その代だけよね? 理由は何なわけ?」


「──どちらの存在も、資質は同じなのじゃろうな。但し、発生には順番があるようじゃて」


「発生の順番って、どういうことよ」


「──常に魔王の発生が先んじておる。勇者の発生は、必ずその後なのじゃよ」



 ズキ。


 頭が僅かに痛む。


 うう、こんなのばっかりなら、付いて来るんじゃなかったかも。



「魔王を倒すために、ってことなのかしら」


「──かもしれん。いや、恐らくはそうなのじゃろうな」


「話を戻しましょう。シルフ様についての処遇はどうなってるの?」


「──監視付きの軟禁じゃな。既に元の住処へと戻らせておる」


「さっき、妹がいるとか言ってたわよね? 二体とも同じ場所にいるってこと?」


「──そうじゃな」


「それって大丈夫なわけ? 以前、弟君を助けるために探したことがあったはずだけど、応じてくれなかったわよね」



 いつのことだろう。


 何かあったっけ。



「──会えもせんかったがのう。姉妹の仲は良好のようじゃ」


「そのほうが問題でしょ。またいつ何を仕出かすか分かったものじゃないわ」


「──じゃからこその監視じゃ。コロポックルとノームを配しておる」


「十分とは言えないと思うけど」


「─彼奴あやつに世界を害する意図はあるまいよ。その行動のことごとくが、世界を守り維持することにあるのじゃからな」


「立派なお題目を掲げれば、何をやってもいいってわけじゃないでしょ」


「そうね。同じ精霊すら攻撃しようとして。もっと身近に置いて、監督するべきじゃないかしら」


「──わらわとて同じこと。世界樹で以て、暴れておるわい」


「それは……けど、怒るのも無理なかったわ」


「──なればこそ、分かってやってはくれぬか。怒りを覚える対象が、異なるだけのことなのじゃと」


「……ハァ、もういいわ。けどだからって、任せっぱなしにもできないけどね」


「どうするつもり?」


「定期的に話をしてみたほうがいいんじゃないかしら。ただ監視してるってだけじゃ、何を考えてるのか分からないでしょうし」


「──対話は大事やもしれぬな」


「もちろん、アタシたちも参加する形でね」


「……うッ」


「何で嫌そうな顔するのよ」


「だって、相手は上位精霊様よ」


「そんなの、ドリアードだってそうじゃない」


「ドリアードはもう、家族みたいなものだもの。関係性が違い過ぎるわよ」


「嫌がってみせても無駄よ。強制連行するから」



 ……まさかとは思うけど、その中には僕も含まれているんだろうか。


 今回みたく、ただ座ってるだけになりそう。


 できれば遠慮したい。


 自分のことで精一杯なのに、世界がどうとかなんて考えられやしない。


 姉さんは違うのかな。


 僕の世話を焼いてくれて、みんなを助けて、その上、世界のことまで気にかけているなんて。


 無理してないかな。


 姉さんのことのほうが、よっぽど心配だよ。






これにて、第三章完結となります。


本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

次回、最終章。

次回更新分をもちまして、本作は完結となります。

約束は果たされる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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