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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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149 無職の少年、互いを想う

 結局、夜になっても状況に変化は起こらなかった。


 騎士たちを聖都に残し、僕たちは世界樹へと帰ることに。


 もちろん、賢姉けんしさんと石像は魔法協会に送り届けたうえでだけど。


 そうして帰ってきたドリアードさんの住処。


 普通にドリアードさんが佇んでいた。



「──随分とのんびりしておったんじゃな」


「ちょっと! 何の説明も無しに消えといてソレなわけ⁉」


「──何じゃ。まさかわらわの所為じゃと?」


「そうに決まってるでしょ!」


「少しは落ち着きなさいな。こっちは今まで、あの風の精霊が戻ってくるんじゃないかと、ずっと待機していたのよ」


「──そうじゃったのか。ならば、一度確認に戻って参れば良かったじゃろうに」


「だ・か・ら! 状況が定かじゃないから、迂闊に動けなかったんだってば!」


「──う、うむ、それは悪かったのう」



 姉さんが珍しく怒ってる。


 今にも掴みかからん勢いだったので、僕とアルラウネさんとで片腕ずつ押さえておく。



「で、結局何がどうなったわけ?」


「──詳細は明日話すとして、結論だけ告げておこうかのう」


「は・や・く!」


「──やれやれじゃな。コホン、シルフィードは元の住処へと戻すことになったんじゃ。もう人族へ干渉はさせぬ」


「……え? まさかとは思うけどそれだけ? これだけの騒ぎを起こしてた元凶でしょ⁉ 甘過ぎない⁉」


「──ならば逆に尋ねるが、滅せよとでも言うつもりか?」


「それは……けど、だって……」



 腕から伝わる力が弱まる。


 見上げれば、苦しそうな、悔しそうな表情があった。



「ドリアードもムキにならないで。皆、今日は戦闘で気も昂っているわ。ゆっくり休んで、明日、落ち着いてから、改めて話を聞きましょう」


「──そうじゃな。皆、苦労をかけた。ゆるりと休むがよい」



 その後、姉さんは何も喋ることなく、家路についた。






 静かな家が出迎える。


 今日は聖女さんも居ないし、スライムも連れてはこなかった。


 久々に二人と一体だけ。



「静かね」


「そうですね」



 何とはなしに、居間の椅子に座る。


 同じく姉さんも。



「……はぁ、今まで何やってたんだろ……馬鹿みたい」


「姉さん?」


「だってそうじゃない。人族じゃなく精霊こそが元凶だったなんて。あーもう、馬鹿馬鹿しいったらないわ」



 腕を枕に、机へと突っ伏してしまう。



「……弟君を苦しめてたのも、本を正せば精霊の仕業だったわけじゃない。ホント最悪よ」



 教皇の正体が精霊だったことが、思いの外堪えているらしい。


 僕は別に、どうとも思ってはいないんだけどな。


 関係していた全部を、どうこうしたいとまでは思わないし。


 倒すべき相手は倒した。


 一人は死んでしまって、もう一人はまだ生きている。


 命まで奪いたいとは、今は思えない。


 ただもう、二度とは会いたくないだけ。



「僕は気にしてませんよ」


「……え? どうして?」



 突っ伏していた顔がむくりと起き上がる。


 そこにあるのは驚いた表情。



「一応は戦ったようなものですけど、直接何かされたわけでもないですし」


「けど」


「僕だって、全部を恨んだりはできませんよ。次から次へと、恨みの対象を変えられもしません」


「……それでいいの?」


「仲良くする、なんてことはできないかもですけど」



 痛みも疼きも、完全には治まってなどいない。


 今後、消えるのかも不明。


 これがもし、忘れたくないって気持ちなら、このままでもいい。


 忘れたかったわけじゃない。


 ただただ、赦せなかった。


 全身を焼き尽くしてしまうほどに。


 けどもう、その熱も遠退いてしまったかのようで。


 残ったのは、燃えカスか灰か。



「戦いたくなんてないです。できれば誰とも」



 傷付けたくも、傷付けられたくもない。



「助けたかった。姉さんを、みんなを。塔での戦闘は、僕にとってはそれだけだったんです」


「弟君……」



 こちらに向け、両腕を拡げてきた。


 応じるように、立ち上がって姉さんの元まで移動する。


 そうして抱きしめられる。



「姉さんが苦しむ必要なんてないです。苦しんで欲しくないです」


「お姉ちゃんだもの。いつだって弟君のことが心配だよ」


「……そんなに頼りないですかね」


「ううん、そんなことない。凄く凄く助けられてるもの」


「それなら嬉しいです」


「けど、お姉ちゃんだって助けてあげたいの。守ってあげたいのよ」


「ずっと助けてもらってます。守ってもらってますよ」


「まだまだ全然足りてない。お姉ちゃんの気持ちは、もっと大きいんだから」



 姉さんが居ない日常なんて、考えられやしない。


 居ることが当たり前。


 起きてから寝るまで、ずっと一緒。


 ……だけど、いつまでこうしていられるのだろう。


 いつまでこうしていていいのだろうか。


 姉さんの時間の多くが、僕のために割かれている。


 それはきっと、当たり前のことじゃない。


 ちゃんと考えないと駄目だ。


 これからのことを。


 姉さんだって、好きに生きていいはずなんだから。



『……やれやれ。いい加減、風呂に入って寝たほうがいいのではないか?』






「そういえば、言い忘れてました」


「ん? 何を?」


「ただいま」


「……ええ、おかえりなさい」






本日は本編150話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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