148 無職の少年、これから
未だ説得中らしい団長さんと黄色いのを除き、他の面々が通路付近へと集まっていた。
図らずも、通路の入り口を挟み、騎士とそれ以外とに分かれた形。
それぞれ壁にもたれかかり、早めの夕食にありついている。
「住人は避難させたはずよね。なのによく食料とか残っていたものね」
「一応断っておきますけど、民家に押し入ったりなんかしていませんから。全て、教会の備蓄です」
「そこを疑ったわけじゃないんだけどね」
戦闘が終わり、外に住人たちも不在のためか、静かなものだ。
こうして離れて座ってる、姉さんと聖女さんの会話が成り立つほどには。
足元で身を伏せるブラックドッグに水を分け与えつつ、自分も喉を潤しておく。
「この分なら、夜になり次第帰れそうね」
「かしら。ドリアードも戻ってくる気配もないし」
「せめて、どうするつもりなのか知らせてくれれば、判断もできたのに」
「ドリアード、無理してないといいのだけど」
「ま、母も付いてるみたいだし、万が一も無いと思うわよ」
ドクッ。
胸が僅かに疼く。
「なら何で、此処で待機してるわけ?」
「逃げられはするかもだし」
「そういう理由なわけね」
結局のところ、何だって精霊が教皇なんかをやっていたんだろうか。
何がしたかったのかな。
ドリアードさんに攻撃してたみたいだし。
同じ精霊にすら敵対するなんて。
……思えば、僕だって同じ人族と戦ったわけか。
種族なんて関係ないのかもしれない。
他にはどうすることもできない理由が、あの精霊にもあったのかな。
「姉さんはどう思いますか?」
「ん? 何が?」
「精霊がこんなことをしていた理由です」
「そうねぇ……パッと思いつくモノは、これといって無いわね。ただ、多少の納得もあるにはあるけどね」
「どういうことですか?」
「最初、この塔を調べる切っ掛けが、風の精霊ピクシーが内部に侵入できないって話だったのよ。つまり、侵入を拒んでいたのが同じ精霊か、ピクシーが嘘の報告をしていたかの、どっちかかなって」
「そういえば、ピクシーの姿って見たことないです」
何度か存在を聞いたことだけはあったはずだけど。
どこでだったかな。
「昔は姿を現していたんだけど、いつの間にか透明のまま行動するようになってたわね。もしかしたら、そのころから既に……」
「不快。ピクシーはワタシの友達。憶測は控えて欲しい」
「ゴメンゴメン。賢者のとこに一体居るんだったわね」
「ウチも! ウチも見たことない! どんな姿してるの?」
「不明。ワタシも姿を見たことは皆無」
「そっかー。なら、オネーチャンは?」
「アタシは見たことあるわよ。手の平大の小人って感じかしら。背中に虫みたいな透明な羽が生えてたはずよ」
「表現。あまりに酷過ぎる。訂正を要求」
「そんなに噛み付いてこないでよね。客観的事実を述べたまでだってば」
「それでそれで? 可愛かった?」
「可愛いっていうか、お喋りな印象はあったわね」
「ケンネ―はどう? 沢山お喋りしてるの?」
「否定。個体差かもしれない。結論には情報が不足」
透明、か。
先程、浮かばされたり、圧し潰されそうになったのは、もしかしてピクシーの仕業だったのだろうか。
話を聞いている限りだと、攻撃的って感じはしない。
別の精霊だったのかな。
「ごーれむちゃんも見たことあるデス。小っちゃくて可愛いデス」
「ホント⁉ いいなー、ウチも見てみたいなー」
「失念。ごーれむちゃんに頼むべきだった」
「失礼ね。アルラウネだって見たことぐらいあるでしょ?」
「ええ、もちろん。アタシが知っている子も、随分とお喋りだったわ。あとはそうね、お菓子とか好んで食べてたわね」
「はぁ? 精霊が食事してたってこと?」
「完全に食べられないってわけじゃなく、嗜好の問題なのかもしれないわね」
「いいなー、みんなだけズルいよぉー」
「この件が片付いたら、また姿を見せてくれるんじゃない?」
「こら、無責任なこと言わない」
どんな姿か、興味はあるかな。
「いっつも姿を消してるってことッスよね? どうにもいけ好かねぇッス」
「アニキのほうがよっぽどだよ!」
「何でだよ⁉ 理不尽過ぎんだろ」
「どーせ、大人な女性にしか興味ないんでしょ。変態! スケベ!」
「それの何が悪いってんだ。普通だろ、普通」
「あ、ウチ分かった! 透明になれるのが羨ましいんでしょ!」
「んな⁉」
「変態ね」
「変態だわ」
「変態。警戒に値する」
「変態さんデス!」
何だか酷いことになってきた。
可哀想だし、話題を変えてあげよう。
「これでもう、訓練はしなくてよくなるんですね」
「弟君……そうね、今までよく頑張ったわ」
身体をピタリ寄せてきた。
そのまま僅かに体重を預けられる。
「気分はどう?」
「……まだ実感がありません」
勇者のことも、どうしたらいいのだろうか。
ズキ。
頭が僅かに痛む。
そう、僅かに。
今までよりも、弱くなってる気がする。
「これから、どうしたらいいんでしょうか」
気が抜けてしまったようだ。
何をするべきか、上手く考えられない。
「これからゆっくり考えればいいわ。前にも言ったでしょ? 弟君は、何にだってなれるんだから」
突然開けた未来。
将来のこと。
あるのは期待よりも、不安のほうが多いぐらい。
「大丈夫。お姉ちゃんがずっと一緒に居てあげるから」
……何かを失ったわけでもないのに。
姉さんがすぐそばに居てくれるのに。
どうしてこんなにも不安なんだろう。
本日は本編150話まで投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




