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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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147 無職の少年、夜を前に

 しばらくして、聖女さんが戻ってきた。



「お待たせしました。用意が整いましたよ。あ、そうそう、時間ですが、じきに夕方といったところです」


「……の割には、手ぶらに見えるけど」



 先程持っていたはずの槍すらも無い。



「塔の外にご用意してあります。此処では落ち着いての飲食は無理かと思われましたので」


「けど、此処を離れるのはマズいんじゃない? そもそも、そのために残ってるわけでしょ」


「あ」



 アルラウネさんから指摘を受け、途端に挙動不審になり始める聖女さん。



「え、えっと、その、あの」


「副団長、それに皆さんも。この場は自分にお任せを。団長もまだ説得を続けているみたいですし」



 やって来たのは白い鎧の勇者。


 ズキ。


 頭が僅かに痛む。



「──失礼ながら話は聞かせていただきました。精霊ならば、戻り次第ワタシが処断します。皆様方には、お帰りいただいて構いません」


「先輩……」


「アナタも休憩なさい。随分と魔力を消耗しているのでしょう」



 赤い鎧の女性が声を掛けてきた。


 どうやら、教皇と戦うことに躊躇いはないらしい。


 偽物ってわけじゃなく、今まで正体を隠してたって感じだったけど。


 人族じゃなかったことが、よっぽど許せないのかも。


 とはいえ、この場を任せるのは危ない気がする。



「……あの、ですけど、さっき通用してませんでしたよね」


「なッ」


「キミ! 何てことを言うんですか!」


「ですから、一人で対処するなんて無理だと思うんです」



 度々、炎を繰り出してはいたものの、全て防がれてしまっていた。


 オーガ兄だって居たのに、だ。


 到底、独力で敵うとは思えない。



「プッ、ククッ、アハハハハ! もう、弟君たら正直過ぎよ。けどそうね、任せてと言われても、信用はできないわ」


「……くッ」


「それに、また閉じ込められでもしたら、抜け出せないでしょうしね」


「ではでは、ごーれむちゃんも待機してるデス。魔力は十分溜まったので、元気一杯デス」


「別に分散しなくても、此処で休憩を取れば済む話じゃない?」


「そうね。瓦礫の少ない場所に移動すれば十分でしょう」



 姉さんもアルラウネさんも、この場から離れるつもりは無いようだ。


 個人的には、外に出たくはあったんだけど。


 何せ……。



「あと、遺体は何処かに移したほうがいいわ」



 アルラウネさんの言うとおり。


 そうなのだ。


 流石に気分のいいものじゃない。



「……分かりました。では外へ──いえ、ひとまずは地下に安置しましょう」


「お手伝いします」


「不要です。アナタは食事の手配を」


「……はい」


「ふぅ……邪険にしているわけではありません。刻印武装を不用意に外に放置するわけにはなりませんでしょう」


「あ、はい、そうですよね」


「それに、地下への出入りは聖騎士のみ。他の者の立ち入りは許可できません」


「そうそう、地下で思い出したわ」



 二人の会話に割り込むようにして、姉さんが声を張り上げた。



「火薬も保管されてたりするんじゃない? それの処分もしたいと思ってたのよ」


「……なるほど。しかし、すぐには対処しかねます」


「つまり、地下にあるってわけよね」



 赤い鎧が黙り込む。



「……いいわ。そっちは後回しにしましょう。まだ処分する方法も思いついてないことだし」


「では、ワタシはこれで失礼します」



 素早くひるがえり、足早に立ち去ってゆく。


 向かう先にあるのは、横たわる緑の鎧。



「聖騎士様、せめて途中までは手伝わせてください」


「手伝いならば彼女のほうを。こちらは不要です」


「……承知しました。副団長、行きましょう」


「ええ」



 聖女さんと二人、通路へと移動してゆく。



「じゃあ、アタシたちは場所を整えましょう。できるだけ破損の少ない場所を見付けたいわね」






 姉さんの号令に従い、薄暗い大広間を手分けして探索する。


 当然のように、ブラックドッグが付いて来てくれた。


 でもホント、不便だなぁ。


 もっと明るくなるように造ればいいのに。



「どうした? 何か探し物でもしてんのか」


「ウチも手伝うよー」



 やっと落ち着いたのか、オーガ兄妹がすぐそばまで近づいていた。



「休憩場所を探してるんです。聖女さんが食事の用意をしてくれたそうなので。なるべく壊れてない、綺麗な場所を」


「ん? まだ帰らねぇのか?」


「精霊がまた戻って来るかもって。姉さんたちが」


「なるほどな。さっすが姐さんだぜ」


「じゃあじゃあ、通路付近はどうかな? 一度も攻撃されなかったよ」



 唯一の出入り口っぽいし、相手も壊さないように気を配っていたのかも。


 通路に近ければ、食事の運搬も楽そうだ。



「いいかもしれないね」


「でしょー」


「確かに腹も減ったしな。ありがてぇぜ」


「あ、一応、夜になったら帰るって話です」


「つーか、今が昼だか夜だかも分からねぇんだが」


「アニキ、馬鹿過ぎー。天井から光が入って来てるんだし、夜なわけないじゃん」


「いやいや、夜だって明かりぐらい入ってくるだろ。月も星もあるんだからよ」


「むぅ」


「ちなみに、もうじき夕方になるって言ってました」


「結構経ってんだな。もう戻って来ねぇんじゃねぇか」


「……もう戦うのなんか嫌だよ」


「そうだね」






本日は本編150話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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