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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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SS-60 精霊の集い

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 教皇の正体は風の上位精霊シルフだった

 苦戦を強いられるも、ドリアードとグノーシスが現れ、シルフと共に姿を消す

 移動先として選んだのは、他ならぬ己が住処。


 念の為に、コロポックルたちの場所からは隔離しておく。



「──ほれ、早う席に着かぬか」



 植物で編まれた椅子が5脚。


 円陣を組むように、等間隔で設えてある。


 その一つに腰を掛け、他の二体を促す。



「馴れ合いなど不要よ」


「──そう意固地にならずともよかろうに。知りたいのは何故なにゆえに人族の長として振舞っていたのか。理由の部分じゃて」


「席が多いようだが?」



 隣に腰掛けつつ、グノーシスが尋ねてきた。



「──秘事ひじとするつもりはないからのう。他も呼びやるつもりじゃ」


「火と水まで呼ぶつもりか」


「──左様」


「……獣は良いのか?」


「獣まで呼びやるつもりなら、ワタクシは戻らせていただきます」



 即座に拒絶を表明してみせた。


 獣のとは争ったこともあると聞く。


 未だに折り合いが悪いのか。



「──と、いうわけじゃ。どの道、関心を持ってもおらぬじゃろうよ」



 視線で着席を促す。


 渋々といった様子で、目を閉じたまま危なげなく席に着いた。



「──では、揃うまでしばし待て」






「んだよ、急に呼びつけやがって」


「……うぅ……外、好き……じゃない……」


「──急に呼び立てて済まぬな。しかし、シルフの所業について色々と問いただす必要が生じたのでな」


「ワタクシはシルフィードですわ。今も昔も変わらずに、ね」



 ふむ、珍しいことに、名に拘りがあるらしい。


 どう呼ばれようとも、本質が変化することはなかろうに。



「あん? そういやオマエ、随分と見かけなかったよな」


「──まあ待て、まずは座るがよかろう」



 隣にウンディーネが、離れた席に、サラマンダーが腰掛けた。



「──さて、シルフィードよ。何故なにゆえに斯様な真似をしておったのか、理由を話してもらおうかのう」


「かよう? 何の話が始まるってんだ?」


「人族にくみし、教会の長をやっていたのだ」


「はあぁ? んじゃ何か? コイツの命令で今の騒ぎが起きてるってことかよ」


「珍しく話が早くて助かる」


「……本当、なの……?」



 返答は無し、か。



「──其方そなた、以前は勇者や魔王を殊更に監視しておったよな。何ぞ関係があるのか?」


「全く、相変わらずのようね。随分と危機感に乏しいことで。呆れてしまうわ」


「あ? テメェ、喧嘩売ってんのか?」


「……怖い、顔……嫌い……」


「──これ、暴れようとするでない。燃やされては敵わぬ」



 言葉に加え、視線を強めて抑える。



「魔王の”支配”に勇者の”改変”。そのどちらもが世界の脅威。ワタクシたちの敵ですわ」


「──脅威なのは知り得ておるわい。じゃからこそ、いたずらに刺激するような真似を控えておったんじゃろうが」


「意味が分からんな。魔王はともかく、勇者は手駒としていたのではないのか?」


「脅威は脅威にぶつけるが道理。お分かりになりませんこと?」


「──今代の魔王に、それほど脅威は感じられぬがな。世界樹を排除したのは、勇者に魔法を使わせるためか?」


「魔王の”支配”は、ワタクシたち妖精にも及ぶモノ。お忘れかしら?」



 そういえば、そんなこともあったか。


 随分と古い話だ。


 かつてのあの者は、其方そなたに如何程の危機感を抱かせておるのやら。


 ……皮肉なモノじゃな。


 平和をこそ、望んでおっただけじゃというに。



「──さりとて、勇者に力の使用を促すのは悪手に過ぎるじゃろう」


「そんなに勇者ってのは強いのかよ? なら、オレサマが相手になってやろうじゃねぇか!」


「黙れ。話が遅々として進まん。その分、住処への帰還が遅れる」


「呼び付けといて、喋るなってのはどういうこった! ざけんな!」



 ……やはり、話し合いには不向きじゃったか。



「勇者の”改変”があれば、魔物など容易く元の世界に送り返せるというもの」


「──魔物の脅威など、どれほどのものじゃ。それこそ、勇者のほうが余程危うかろうに」


「……魔物、が……沢山、は……嫌……」


「──肝要なのは、勇者にも魔王にも力を使わせぬことではないのかのう」


「同感だな。そういう意味でも、此度の一件は危ういところだ」


「脅威だからこそ、放置すべきでないと言っているのよ。管理されてしかるべきでしょうに」


「あの有様でか? 管理が聞いて呆れる」


「何もせず傍観していた癖に、娘のこととなると態度が違うようですわね」


「──やめい。ともかくじゃ、此度の事案、凡そのところは把握できた。皆はどうじゃ?」



 ぐるりと視線を巡らす。



「あー、まー、何となくは」


「……危ない、のは……良くない……わ……」



 やれやれじゃな。



「勇者の力を利用せんとした。そういうことだろう」


「管理よ。間違えないで欲しいわね」



 勇者の力は己が命を代価とするモノ。


 過ぎた願いは、文字どおり身を滅ぼす。



「──思うに、勇者もまた、わらわたちと同じような存在ではないのかのう」


「……どういう意味かしら?」


「──魔力の特異点。生じた切っ掛けは、魔王の存在やもしれぬがな」


「自然を母とするワタクシたちと、どこが同じだと?」


「──魔王という脅威に際し、世界が新たに生み出したる存在」


「答えになっていませんが」


「──彼の者もまた、わらわたちと同じく、世界を守らんとする存在ではなかろうか」


「世界を守るか否かは、その者の思想如何でしょうに。お忘れかしら? 魔物が勇者と成った事例がありましたでしょうに」



 魔王の発生に呼応するかのように、勇者が生まれる。


 そしてそれは、人からとは限らない。


 しかしそれは……。



「──あれは異例中の異例じゃろう。転職が排された今、もう起こり得まいて」


「それを成したのはワタクシですけれどね」



 成程のう。


 既に危険性は承知の上じゃったというわけか。



「話がなげぇ! 終わったか? 終わったよな? もう帰るぜ」


「──まだじゃ。もう少し辛抱せい」


「はあぁ~、まだあんのかよ」


「──シルフィードよ、人族から手を引き、大人しゅう住処に戻ってもらうぞ」


「それで、人間に好き勝手させろと?」


「──わらわたちは見守るに留めるべきじゃ」


「世界樹で干渉しておいて、何を今更……」


「──人と魔が無駄に争わぬよう、措置を取ったまでのこと。しかし、わらわたちが力を持ち過ぎたのもまた事実じゃな」



 永劫の時を生き長らえるとも限らぬ、か。



「──個の力が過ぎるは危険と知れた。力を分けるべきかのう。残る世界樹に、わらわの妹を配そう」


「そんなことなら、とっくに済ませていますわよ」


「──其方そなたの力、それで斯様に弱まっておったのか」


「ワタクシの元の住処は、既に妹に任せてありますわ」


「──ふむ? 以前に訪ねた際、誰も応じはせなんだがのう」


「あの子はワタクシ以外には懐きませんから」



 依存しておるのは、ちと困りものじゃな。


 時折、様子を見に行くほうが良さそうに思える。



「──他のモノはどうじゃ?」


「既に娘がいる」


「力を分けるなんざ御免だね」


「……仲間……増える、なら……嬉しい……」



 グノーシスはともかく、サラマンダーが厄介そうじゃな。



「──強者つわものは常にはおるまいて。なれば、己と同等のモノが傍らに侍るほうが、退屈せずに済むと思うがのう」


「ケッ、くだらねぇ。違うってのがいいのさ。同じなんざ、意味がねぇ」



 歪なりに信念らしきモノがあるのか。


 説得には応じそうにないのう。


 急がず、ゆるりと促してゆくとするか。



「──すぐにとは言わぬ。考えておいてくれればよい」


「めんどい。勝手にすらぁ」



 こうして集うことが叶ったのも、彼の者の功績によるもの。


 こうした場を設けなかったことは、わらわたちの不徳によるもの。


 正してゆかねばならぬな。






新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


本日は本編150話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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