SS-60 精霊の集い
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
教皇の正体は風の上位精霊シルフだった
苦戦を強いられるも、ドリアードとグノーシスが現れ、シルフと共に姿を消す
移動先として選んだのは、他ならぬ己が住処。
念の為に、コロポックルたちの場所からは隔離しておく。
「──ほれ、早う席に着かぬか」
植物で編まれた椅子が5脚。
円陣を組むように、等間隔で設えてある。
その一つに腰を掛け、他の二体を促す。
「馴れ合いなど不要よ」
「──そう意固地にならずともよかろうに。知りたいのは何故に人族の長として振舞っていたのか。理由の部分じゃて」
「席が多いようだが?」
隣に腰掛けつつ、グノーシスが尋ねてきた。
「──秘事とするつもりはないからのう。他も呼びやるつもりじゃ」
「火と水まで呼ぶつもりか」
「──左様」
「……獣は良いのか?」
「獣まで呼びやるつもりなら、ワタクシは戻らせていただきます」
即座に拒絶を表明してみせた。
獣のとは争ったこともあると聞く。
未だに折り合いが悪いのか。
「──と、いうわけじゃ。どの道、関心を持ってもおらぬじゃろうよ」
視線で着席を促す。
渋々といった様子で、目を閉じたまま危なげなく席に着いた。
「──では、揃うまでしばし待て」
「んだよ、急に呼びつけやがって」
「……うぅ……外、好き……じゃない……」
「──急に呼び立てて済まぬな。しかし、シルフの所業について色々と問いただす必要が生じたのでな」
「ワタクシはシルフィードですわ。今も昔も変わらずに、ね」
ふむ、珍しいことに、名に拘りがあるらしい。
どう呼ばれようとも、本質が変化することはなかろうに。
「あん? そういやオマエ、随分と見かけなかったよな」
「──まあ待て、まずは座るがよかろう」
隣にウンディーネが、離れた席に、サラマンダーが腰掛けた。
「──さて、シルフィードよ。何故に斯様な真似をしておったのか、理由を話してもらおうかのう」
「かよう? 何の話が始まるってんだ?」
「人族に与し、教会の長をやっていたのだ」
「はあぁ? んじゃ何か? コイツの命令で今の騒ぎが起きてるってことかよ」
「珍しく話が早くて助かる」
「……本当、なの……?」
返答は無し、か。
「──其方、以前は勇者や魔王を殊更に監視しておったよな。何ぞ関係があるのか?」
「全く、相変わらずのようね。随分と危機感に乏しいことで。呆れてしまうわ」
「あ? テメェ、喧嘩売ってんのか?」
「……怖い、顔……嫌い……」
「──これ、暴れようとするでない。燃やされては敵わぬ」
言葉に加え、視線を強めて抑える。
「魔王の”支配”に勇者の”改変”。そのどちらもが世界の脅威。ワタクシたちの敵ですわ」
「──脅威なのは知り得ておるわい。じゃからこそ、徒に刺激するような真似を控えておったんじゃろうが」
「意味が分からんな。魔王はともかく、勇者は手駒としていたのではないのか?」
「脅威は脅威にぶつけるが道理。お分かりになりませんこと?」
「──今代の魔王に、それほど脅威は感じられぬがな。世界樹を排除したのは、勇者に魔法を使わせるためか?」
「魔王の”支配”は、ワタクシたち妖精にも及ぶモノ。お忘れかしら?」
そういえば、そんなこともあったか。
随分と古い話だ。
かつてのあの者は、其方に如何程の危機感を抱かせておるのやら。
……皮肉なモノじゃな。
平和をこそ、望んでおっただけじゃというに。
「──さりとて、勇者に力の使用を促すのは悪手に過ぎるじゃろう」
「そんなに勇者ってのは強いのかよ? なら、オレサマが相手になってやろうじゃねぇか!」
「黙れ。話が遅々として進まん。その分、住処への帰還が遅れる」
「呼び付けといて、喋るなってのはどういうこった! ざけんな!」
……やはり、話し合いには不向きじゃったか。
「勇者の”改変”があれば、魔物など容易く元の世界に送り返せるというもの」
「──魔物の脅威など、どれほどのものじゃ。それこそ、勇者のほうが余程危うかろうに」
「……魔物、が……沢山、は……嫌……」
「──肝要なのは、勇者にも魔王にも力を使わせぬことではないのかのう」
「同感だな。そういう意味でも、此度の一件は危ういところだ」
「脅威だからこそ、放置すべきでないと言っているのよ。管理されて然るべきでしょうに」
「あの有様でか? 管理が聞いて呆れる」
「何もせず傍観していた癖に、娘のこととなると態度が違うようですわね」
「──やめい。ともかくじゃ、此度の事案、凡そのところは把握できた。皆はどうじゃ?」
ぐるりと視線を巡らす。
「あー、まー、何となくは」
「……危ない、のは……良くない……わ……」
やれやれじゃな。
「勇者の力を利用せんとした。そういうことだろう」
「管理よ。間違えないで欲しいわね」
勇者の力は己が命を代価とするモノ。
過ぎた願いは、文字どおり身を滅ぼす。
「──思うに、勇者もまた、妾たちと同じような存在ではないのかのう」
「……どういう意味かしら?」
「──魔力の特異点。生じた切っ掛けは、魔王の存在やもしれぬがな」
「自然を母とするワタクシたちと、どこが同じだと?」
「──魔王という脅威に際し、世界が新たに生み出したる存在」
「答えになっていませんが」
「──彼の者もまた、妾たちと同じく、世界を守らんとする存在ではなかろうか」
「世界を守るか否かは、その者の思想如何でしょうに。お忘れかしら? 魔物が勇者と成った事例がありましたでしょうに」
魔王の発生に呼応するかのように、勇者が生まれる。
そしてそれは、人からとは限らない。
しかしそれは……。
「──あれは異例中の異例じゃろう。転職が排された今、もう起こり得まいて」
「それを成したのはワタクシですけれどね」
成程のう。
既に危険性は承知の上じゃったというわけか。
「話がなげぇ! 終わったか? 終わったよな? もう帰るぜ」
「──まだじゃ。もう少し辛抱せい」
「はあぁ~、まだあんのかよ」
「──シルフィードよ、人族から手を引き、大人しゅう住処に戻ってもらうぞ」
「それで、人間に好き勝手させろと?」
「──妾たちは見守るに留めるべきじゃ」
「世界樹で干渉しておいて、何を今更……」
「──人と魔が無駄に争わぬよう、措置を取ったまでのこと。しかし、妾たちが力を持ち過ぎたのもまた事実じゃな」
永劫の時を生き長らえるとも限らぬ、か。
「──個の力が過ぎるは危険と知れた。力を分けるべきかのう。残る世界樹に、妾の妹を配そう」
「そんなことなら、とっくに済ませていますわよ」
「──其方の力、それで斯様に弱まっておったのか」
「ワタクシの元の住処は、既に妹に任せてありますわ」
「──ふむ? 以前に訪ねた際、誰も応じはせなんだがのう」
「あの子はワタクシ以外には懐きませんから」
依存しておるのは、ちと困りものじゃな。
時折、様子を見に行くほうが良さそうに思える。
「──他のモノはどうじゃ?」
「既に娘がいる」
「力を分けるなんざ御免だね」
「……仲間……増える、なら……嬉しい……」
グノーシスはともかく、サラマンダーが厄介そうじゃな。
「──強者は常にはおるまいて。なれば、己と同等のモノが傍らに侍るほうが、退屈せずに済むと思うがのう」
「ケッ、くだらねぇ。違うってのがいいのさ。同じなんざ、意味がねぇ」
歪なりに信念らしきモノがあるのか。
説得には応じそうにないのう。
急がず、ゆるりと促してゆくとするか。
「──すぐにとは言わぬ。考えておいてくれればよい」
「めんどい。勝手にすらぁ」
こうして集うことが叶ったのも、彼の者の功績によるもの。
こうした場を設けなかったことは、妾たちの不徳によるもの。
正してゆかねばならぬな。
新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
本日は本編150話まで投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




