表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
214/230

145 無職の少年、戦いの終わり

 ほぼ倒れるように着地する。


 浮くのも落ちるのも、二度と御免だ。


 どうにも生きた心地がしない。


 それに、生身じゃされるがままだし。



「そこな異物の仕業ですか。木偶と侮りが過ぎましたね」



 白い布が、凄まじい速度で以て、石像へと伸ばされる。


 駄目だ、僕じゃ到底追いつけやしない。


 ならばせめて、少しでも石段を攻撃するべきか。



「攻撃こそ自信はありませんが──」



 そこに、割って入ってくる影。


 白い布が殺到する。



「──防御だけなら割と、役には立てるつもりですよ」


「余計な真似をせず、大人しくしていなさい」


「グゥッ⁉」



 攻撃を諦めたのか、壁へと邪魔者を吹き飛ばした。


 そうして、再び石像へと迫る。


 それを見届けずに、石段へと攻撃を繰り出す。






 唐突に視界が暗くなった。


 石段の破損が消えた。


 いや、破損の状態や場所が変わっていた。


 よくよく見れば、床の破損のほうが酷いぐらい。


 もしかして、元の場所に戻ってる?



「──やれやれ、よもやこのような場所で再会しようとはのう」


「ドリュアス……」


「──ふむ、随分と懐かしい呼び名じゃな」



 聞き覚えのある声が響く。



「アニキ―! みんなー!」


「皆、無事なの⁉」



 今の声は、妹ちゃんとアルラウネさんか。


 やっぱり、元の空間に戻ってこれたらしい。



「娘よ、どうしたのだ!」



 今度は、グノーシスさんの声まで聞こえてきた。


 姉さんのそばに居るようだ。


 さっきまでとは違って、薄暗くなってしまったため、遠くが窺い知れない。


 空間を脱したなら、魔法も使えるはず。


 とにかく、姉さんを治してもらわないと。



「聖女さん! 姉さんを!」


「はい、お任せを」



 何処に居るか分からないため、大声で叫ぶ。


 既に動き出していたのか、遠ざかりながらも応えてくれた。



「覚悟ォ!」



 薄闇が晴れる。


 石段の下から、勢いよく立ち昇る炎の柱。


 それよりも早く、赤い線が石段のいただきへと到達したのが見えた。



双竜そうりゅうしょう -えん-≫



 勢いそのままに激突する。



「……無駄なこと。例え天地が逆しまになろうとも、この身に届くことなどあり得ません」


「んだとぉ⁉」



 炎によって照らし出される姿は、ほんの僅かに届いてはいなかった。


 見えない壁に遮られているのかのように。


 遅れて、炎の柱が傾き落ちる。


 応じるように、白い布が伸びる。


 さっきと同じようにして、炎が呑み込まれ、消えてゆく。


 陰る視界に、白い布が別方向にも伸ばされているのが見えた。


 そうだ、姉さんたちのほうへと伸ばされていたはず!


 急いで視点を転じる。


 ……あれは、木?


 土などない床から、一本の木が生えているように見える。


 白い布は、その木によって遮られているみたいだ。


 先程、ドリアードさんの声が聞こえた気もする。


 助けに来てくれたのか。






「──どうにも、落ち着いて話ができる状況ではないようじゃな」


「今更、何を話せと」


「話さぬと言うなら、斬って捨てるまでのこと」


「──これ、無為に話をこじれさせるでないわ」



 精霊たちが言葉を交わす。


 もう、できることはないのかもしれない。


 足下に気を付けつつ、姉さんの場所を目指して歩く。



「──戦闘は終いにせよ。勝敗は決したじゃろうて」


「大人しく世界樹に引き籠っていれば良いものを」


「──言われんでも、そうするつもりじゃったわい。じゃが、わらわに仕掛けてきおったのは人族、いやさ、其方そなたじゃろうに」


とぼけているのか、それとも耄碌もうろくしているのかしら」


「──何じゃと?」


「お忘れかしら? そちらが先に仕掛けてきたのよ。この塔へと侵入しようとしていたでしょうに」



 聞くでもなく聞こえてくる会話。


 それってもしかして。


 姉さんを追って、初めてこの町に来た時のことを言ってる?



「──その報復じゃったと? わらわの同胞を殺めた言い訳がそれか!」



 床が激しく振動する。


 だけに留まらず、木から石段へ向け、床石が弾け飛ぶ。


 慌てて避ける。


 こう薄暗くては、見えやしない。


 と、寸前まで迫っていたらしい石片が砕け散った。



『無事か』


「あ、ブラックドッグ! もう動いて大丈夫なの⁉」


『ああ。拘束の力は既に無い』


「よかった、よかったよぅ」


『済まない、心配をかけた。姉の元へと向かっているのだろう? 護衛しよう』


「うん、ありがと」



 ブラックドッグに先導され、歩みを再開する。


 時折飛来する石片は、到達を待たず砕け散ってゆく。



「何だ、結局攻撃するのか?」


「──む。そうじゃったな。冷静であらねばと自戒しつつも、どうしてものう」



 石の雨が止んだ。


 ようやく姉さんの元へと辿り着く。



「姉さん!」


「あ……弟君? どこ、も怪我して、ない?」


「まだ安静にしていてください。ワタシの力では、すぐに全快とはいかないんですから」



 聖女さんは魔法をかけ続けてくれているようだ。


 けど、姉さんは未だに横たわったまま。


 意識は戻ったみたいだけど、酷くたどたどしい喋り方をしている。


 具合はまだ良くないらしい。


 伸ばされた手をそっと握り返す。



「僕なら大丈夫です。どこも怪我してません」


「そう……なら、よかった、わ」



 姉さんが助かった。


 それだけで、僕は報われた。



「──場所を移そうかのう。傷つけるのは本意ではない」


「勝手な振る舞いを、ワタクシが許すとでもお思いですか?」


「抜かせ。そう容易く魔力は回復できぬ」


「魔力? 魔力など問題にもなりません。回復するすべなど、幾つもありますから」


「──戯れは終いにせい。皆で話を聞く。異論は無しじゃ」



 その言葉を最後に、精霊たちの姿は消えてしまった。






今年の投稿は以上となります。

次回更新は来年、次週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

消えた精霊たちを警戒し、塔で待機する一行。

果たして、戦いは終わったのだろうか……。

第三章完結。


今年一年、ご愛読いただき、誠にありがとうございます。

来年もお付き合いいただければ幸いです。

皆様、良いお年を。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ