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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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144 無職の少年、声

 誘いに乗ったのは、残念ながら意図した相手ではなかった。


 石段の上から、黄色い鎧がゆっくりと降りてくるのが見える。


 アレと戦ってる場合じゃない。


 そもそも、生身ではまともに戦えやしない。


 頂上に居る精霊の妨害をしないといけないのに。


 回り込むように、方向を変える。


 ……酷く遅い。


 魔装化まそうかでばかり訓練し過ぎた所為か、生身での感覚にズレがある。


 相手を引き離せない。


 遂には、正面に立ち塞がれてしまった。


 自ずと足が止められる。



「戦場に子供か。不憫なことだ」



 間近で見上げると、威圧感が凄い。


 思わず身が竦む。


 そこに容赦なく、巨大な盾が迫って来ていた。


 白刃で……いや、回避を!


 動きが鈍い。


 避け切れない⁉






 ガキーン。



「おっと、相手ならオレがしてやるよ。なぁ相棒」


「キサマ……まだ邪魔をするか」



 間に割って入るようにして、団長さんが立ちはだかっていた。



「騎士団の長が、進んで猊下に逆らうか」


「聞け! 全員の動きを同時には止められんらしい! なら、すべきことは分かるな! 各自、最善の行動をしろ!」



 至近から発せられた大声に、身体が震えた。


 随所で呼応する動きが生じる。


 みんなが一斉にいただきを目指し、駆け出していた。



「少年、無茶は控えな。独りじゃねぇんだ。皆を頼れ」


「は、はい。あの、助けていただき、ありがとうございます」


「気にすんな。子供を守るのは大人の役目ってなもんさ。この分からず屋の相手は任せとけ」


「お任せします」



 二人から離れ、中央の石段を再度目指す。


 団長さんが言ってた言葉。


 突然、声が戻ったのも、その所為だとしたら。


 エーテルやポーションを与えてもなお、未だに動けないブラックドッグ。


 あれは、精霊によって妨害されているのかもしれない。


 この空間から脱するには、ブラックドッグの協力が必要。


 それが分かっているから、邪魔しているのか。


 そして、ブラックドッグに力を割いている分、他への対処が行き届いていないのかも。


 なら、僕が動く意味も生まれるはず。


 一人でも多く動くことで、妨害されずに動ける者が増える。


 石段に向かい何をすべきか。


 生身で戦えば、僕が負けるに決まってる。


 戦っちゃ駄目なんだ。


 ここで、賢姉けんしさんの言葉が活きてくる。


 空間を破壊するには、中央か端を狙えって言ってた。


 石段こそが、空間の中央。


 白刃だけを残し、もう一本は鞘に納める。


 石段を砕く力なんてないけど、白刃なら石ぐらい容易く斬れる。


 眼前には山積みの石段。


 白刃を振り上げ、思い切り突き立てる。


 剣身が全て石段に消える。


 こんな攻撃が、どれほどの影響を与え得るというのか。


 分からない、分からないが。


 何度も何度も石段を攻撃し続ける。


 これが今、僕にできる最善だ。






閃炎フレア



 視界を焼く、赤い光。


 堪らず、手を止めて目を庇う。


 空気が燃えているかのように熱い。


 ともかく、熱から逃れるため距離を取る。



「皆様、石段へ攻撃を! それがこの空間を脱する糸口となります!」



 聞こえてきたのは、聖女さんの声。


 なら、さっきのは石段への攻撃だったのか。


 周囲の熱が下がってから、改めて状況を確認する。


 正面の石段に変化はない。


 ……いや、横幅がおかしいような気も。


 少し横にズレて確認してみると、石段に巨大な穴が出来上がっていた。


 これを、聖女さんがやったの?


 もしこれに巻き込まれていたら、と思うとゾッとする。



「ワタクシの領域での斯様かような狼藉。最早、容赦はしません。エアリアル!」



 周囲のざわめきが一際大きさを増した。


 大勢が耳元で話しているような雑音の群れと不快感。


 突如として、身体が浮き上がる。



「うわあッ⁉」



 床が遠ざかってゆく。


 相変わらず雑音が酷くて、他の音が聞こえてはこない。


 視覚のみで周囲の状況の確認に努める。


 どうやら、賢姉けんしさんたち以外の全員が、浮かび上がっているようだ。



「さあ、そのまま潰してしまいなさい」



 雑音を抜け、声が届く。


 その声に反応したのか、外側から圧力が加わり始めた。


 これって、あの緑の鎧と同じような力なのか。


 空気を操ってる?


 身体が軋みを上げる。


 痛い。


 と、近くでいきなり炎の柱が立ち昇った。


 燃える燃える。


 僅かに圧力が弱まった気がする。


 炎柱は優に天井まで届き、そのまま石段へ向け傾いてゆく。


 石段のいただきが炎で照らし出された。


 そういえば、こうして至近距離で見るのは初めてだったかも。


 風の上位精霊。


 髪も体も服も、全てが白。


 加えて、若干透けているようにも見受けられる。


 服というか、幅の短い布で胴を覆っている感じか。


 その表情から感情は窺い知れず、瞼は常に閉じられているようだった。



「エアリアルを焼き殺すとは……ならば、手ずから殺してあげましょう」



 手が炎へと向けられた。


 すると、体を覆う布のような物が、勢いよく飛び出した。


 限界など無いとばかりに伸びる。


 炎を包むように布が巻き付いてゆく。


 その様はまるで、白い竜のよう。


 炎を吐くのではなく、炎を呑み込んでゆく。


 勢いを失った炎の中、赤い鎧が見えた。



「全てを焼き尽くす炎であろうとも、大気無しには生じ得ないと知りなさい」



 白い布が赤い鎧へと迫る。


 阻んだのは、巨大な光の壁。


 アレは確か……世界樹の暴走を止めた時に見た。


 ならば、発動しているのは団長さんか。



「次から次へと忌々しいこと。エアリアル、何を手間取っているのです」



 浮上は止み、徐々に床へと下りてゆく身体。


 耳元の騒音もまた、次第に収まってゆく。


 耳が、叫びを捉えた。



竜爪りゅうそう穿うがち



 石段が更に破壊を増した。



「エアリアル、どうしたというのですか」


「……アナタには聞こえないのですか?」



 応じる声は聖女さんのものか。



「精霊の、いえ、妖精たちの苦しむ声が」


「何を言って……いやまさか、この短時間に魔力が急激に失われているとでも?」



 石像が上手くやってみせたらしい。


 遂に、浮遊する力が消え失せた。






本日は本編145話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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