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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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143 無職の少年、脱出の策

 排除って……まさか全員を殺すつもりなの?


 これじゃあ、世界樹を暴走させたドリアードさんみたいだ。


 あの時とは違って、姉さんもブラックドッグも戦える状態じゃない。


 声も出せず、助けを求めることすらできやしない。


 誰も頼れない。


 なら、僕にできることは何か。


 持っているのは、短剣二本のみ。


 石段をいただきまで駆け上がり、斬りつける?


 ついさっき、赤い鎧の女性が、一段すら上らせてもらえなかったのに?


 できっこない。


 諦めが全身から力を奪ってゆく。



「無駄なことを。争いは禁じると告げたはず」



 聞こえた声に、身を震わせる。


 まさか、思考まで読まれてる⁉



「チィッ! 何でだ! 何で精霊が、同じ精霊を攻撃させるような真似をする!」


「また勝手な呼び名を。話を聞かぬ者に、告げる言葉などありません」


「────」



 この声は団長さんか。


 けどすぐに、声が聞こえなくなってしまった。


 周囲のざわめきと気配が強まる。



「随分と勝手だな。こりゃあ、師匠のほうが理性的かもしれねぇ」


「師匠……なるほど、サラマンドラの所に居た魔物ですか」


「アンタも随分な呼び方してくれるじゃねぇか。相手に強制するばっかなクチか」


「粗野なのは似通っていますね」


「そりゃどうも!」



 赤い線が石段の半ばまで迫った。



「──届かねぇかッ⁉」



 が、空中で静止してしまった。



「奇襲に際し、声を上げるのは愚考というもの」


「ヘッ、まんまとオレに気を取られやがったな」


「……何ですって?」



 オーガ兄の言葉を受け、一瞬、気が他へと逸れたらしい。


 その機を逃さぬとばかりに、くるりと姿勢が変わる。



竜爪りゅうそう穿うがち



 未だ届かぬ相手に対して、鋭い蹴りが放たれた。


 位置は変わらない。


 ただ、衝撃波らしきものだけが、相手へと迫る。



「……実に愚かしい」



 まるで羽虫でも払いのけるかのように、片手を振るう。


 それだけ。


 たったそれだけの動作で、衝撃波は散らされてしまった。



「ワタクシは妖精の中にあって、最も古く最も力ある存在。那由他の時を経ようとも、人間や魔物風情では決して届きはせぬと知りなさい」



 その手を伸ばすと、今度はオーガ兄が吹き飛ばされた。


 ……まさか、気付いてない?


 オーガ兄に呼応して、反対側から駆け上がる白い影に。



「猊下に刃向かうなどと。身の程を弁えよ」


「なッ⁉」



 白い鎧を阻んだのは、大柄な黄色い鎧。


 両腕に備わっているらしい巨大な盾で、強引に弾き飛ばしてみせた。



「あら、アナタは恭順を示すと言うつもりかしら」


「無論のこと。教皇とは象徴。人族のしるべとなる御方」


「死ぬのが恐ろしいだけなのではなくて?」


「ご所望とあれば、如何様にも」


「結構。皆がこう物分かりが良いと助かるのですが」



 これで無事なのは、僕と聖女さんと賢姉けんしさんと石像のみ。


 あれ、そういえば、妹ちゃんやアルラウネさんも居たはず。


 入り口付近を窺ってみるが、影も形も無い。


 この空間の外に居るのか?



「不利。領域内では勝ち目が無い。即時撤退を推奨」


「でも、どうやって逃げるデス?」


「難問。領域を突破するすべが不明」



 りょういきって、この空間のことだよね。


 ……何かが引っかかる。


 つい最近、住処のことで何かを聞いた気がするんだけど。


 ええっと、何だったっけ。



「魔法が封じられていても、刻印武装は使用可能のようです。最大火力で攻撃すれば、破壊できないでしょうか」


「ごーれむちゃんもお手伝いするデス」


「思案。攻撃するならば、空間の中心部か外縁部のどちらかが望ましい。そして、中心部はこの場合、適していない」


「ならば、この空間の端まで移動を。通路を目指しましょう」



 視線が彷徨い、ある一点で止まった。


 ブラックドッグ。


 そう、そうだ!



「魔力だ! 魔力を吸収できれば!」



 あれ?


 いつの間にか、声が出せるようになってた。



「……えっと、突然どうしたんですか?」


「ブラックドッグも小さな空間を作れるようになったんです。それで、えっと……えっと……」



 落ち着け。


 伝えるべきことを、簡潔に。



「凄く魔力を消費するって。だから、あの……」



 グノーシスさんの住処での出来事を思い出す。


 空間から魔力を吸収したら、物凄く怒られたっけ。



「仮定。空間の維持には相当量の魔力が必要と推察。強行突破よりも弱体化を図るほうが堅実」


「……それで、魔力の吸収って、具体的にどうすればいいんでしょうか?」


「あ」



 魔装化まそうかしてないと無理なんだった。


 姉さんもブラックドッグも依然として倒れたまま。


 折角の思い付きも無駄だった。



「ごーれむちゃん、できるデス」



 ──あ!



「そうなんですか?」


「精霊さんと同じく、魔力で動いているデス」


「最高。流石、ご先祖様の傑作」


「今のマスターは、マスターなのデス」


「要請。魔力吸収を。同時に防護壁を展開して消費」


「了解なのデス」


「ではその間、ワタシがその護衛を努めましょう」



 僕は……僕には何ができるだろうか。


 魔力を吸収なんてできないし、護衛できるほど強くもない。


 なら、何ができる?



「相談は終わったのかしら?」



 突然聞こえてきた声に、全員が身を震わせた。



「領域内の動きも声も、全てワタクシに伝わります」


「開始! ごーれむちゃん、全力駆動!」


「やるデス!」



 僕にできること。


 それは。


 ……囮になることぐらい。



「うわあああああァーーー!」



 双剣を抜き放ち、石段へと駆け出した。






本日は本編145話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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