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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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142 無職の少年、教皇の正体

 ……あれ?


 何だか視界がぼやける。


 身体がふらつく。


 堪らず、床にへたり込んでしまった。



『クッ⁉ やはりこの空間……精霊のソレか! ならば──』



 あ、急に楽になった。


 いや、むしろ元の感覚に戻ったと言うべきか。



「あら。ワタクシの力にも抗えるなんて、随分と成長したものですこと」



 涼やかな声が聞こえてきた。


 突然届いた声に、キョロキョロと周囲を見回してみる。


 するとどうしたことか、みんな倒れ込んでしまっていた。



『……あまり長くは持たぬ、か』


「あまりに騒がしいものですから、静かにしていただきましたわ」



 またしても声が聞こえた。


 ブラックドッグが睨み付ける方向。


 その先にあるのは、やはりあの頂上に居る存在に他ならない。


 そういえばさっき、精霊って言ってたような?



「つまらぬいさかいには、もう飽いてしまいました。埃っぽいのもいただけません。以降、この場での争いの一切を禁じます」


『ぐぅッ⁉』



 みんなが起き上がるのとは反対に、ブラックドッグが倒れてしまう。



「どうしたの⁉ 大丈夫⁉」


『……魔力を消耗し過ぎた。それよりも気を付けろ。アレは──』


「全く、これだから獣は」


『──がはッ⁉』


「え⁉ ブラックドッグ⁉」



 突然、ブラックドッグが苦しみだした。


 ポーチの中にはポーションしか残っていない。


 とにかく、ポーションだけでも与えてみよう。



「譲渡。これを使ってみて」


「あ、ありがとうございます」



 賢姉けんしさんがエーテルを差し出してくれた。


 ありがたく頂戴し、ブラックドッグへと与えてあげる。



『う……ぐぅ……ッ』



 回復してない?


 まだ苦しそう。


 一応、ポーションも与えてみる。


 けれども、状態は変わらない。



「至急。ごーれむちゃん、聖女を」


「で、デス~!」






 ようやく聖女さんが来てくれた。


 簡単に事情を説明し終え、治してもらうことに。



「分かりました。中級までしか使えませんが、やってみます」



清浄クーラーティオ



 ……何も、起きない?



「そんな……どうして……? 魔法が使えない?」



 姉さんを治せない……?


 姉さんもブラックドッグも苦しんだまま。


 何が、誰が、邪魔をしているのか。


 ……そんなの、決まってる!


 この場に於ける異物。



「オマエか! オマエが邪魔してるんだろ!」



 石段の山のいただきを睨み付け、叫ぶ。



「子供というのは、どうにもやかましくて苦手ですわね。お黙りなさい」


「────」



 なッ⁉


 声が出せない⁉



「人間に魔物に妖精、と。揃いも揃ったりと言ったところかしら」


「僭越ながら、お尋ねしてもよろしいでしょうか」


「そうよ」


「……は?」


「ですから、アナタが想像しているとおりだと告げたのです」


「で、ではやはり、貴女様が教皇猊下、その人なのですね」


「あら、それは少し違いますわね。ワタクシは人に非ず、妖精ですもの」


「よ、ようせい……とは?」


「自然を母として生まれし存在、と言えばお分かり?」


「……精霊、なのですか?」


「今のモノたちは、勝手にそう呼んでいるみたいですわね」



 会話している相手は、赤い鎧の女性らしい。


 なら、声が出せなくなっていのは僕だけ?



「いつから……いつから精霊が教皇に成り代わっていた!」


「おかしなことを。もちろん最初からですわ。滅びかけていた寸前、妖精が手助けして差し上げたの」


「最初、から……だと……」


「人間とは思考し、されど思考を手放したがる生き物。優しいワタクシが、無駄な思考をせずに済むよう、僅かばかりの助力をしたまでのこと」


「では……では、今の今まで、人族は精霊の意のままに操られていのか⁉」


「思考を委ねていたのであれば、そう表現して差し支えないのではないのかしら」


「ふざけるな!」



 赤い鎧が石段を駆け上がる。


 ……ことはできなかった。


 その一歩目すら踏み出すことは叶わず、床へと崩れ落ちる。



「な、何故……⁉」


「此処は既にワタクシの領域内。あらゆる行動の是非は、ワタクシが決めます」



 そうか、此処は精霊の住処なんだ。


 魔法が封じられていたのは、その所為か。


 けど、動けなくなったり、喋れなくなったりもできるなんて。


 見た目はさっきまで居た場所と変わらないのに。


 ……いや、そうでもないのか?


 床や壁に破損が無くなっている。


 同じ見た目にしているだけ?


 そもそも、何で精霊が教会の長をやってるんだ?


 訳が分からない。


 ただ一つ、確かなことは。


 アイツの所為で、姉さんを助けられないってこと。



「驚嘆。なら、上位精霊の何れかのはず。恐らくは、姿を隠し続けていた、風の上位精霊シルフ」


「勝手な呼び名は好むところではありません。ワタクシはシルフィード。風の妖精です」



 賢姉けんしさんの声量は、かなり小さかった。


 姿がハッキリと分からない距離に居て、どうやって会話が成立するのか。



「妖精とは、あの物語の中に登場した……?」


「あら? そういった書物の類いは、全て破棄したものと思っておりましたが。後程、改めて処分させるとしましょう」


「アナタは勇者に力を貸す存在だったのではないのですか⁉ 何故、平和を脅かすような真似を⁉」


「……その物語とやら、随分と余計なことが書かれているようですわね」



 聖女さんの言葉を受けてか、声色が変わった。


 だけでなく、周囲の雰囲気も変わったような気がする。


 妙にザワザワしている。


 まるで、目に見えない大量の何かが、蠢いているような。



「要らぬ知恵をつけるのは感心しません。この場に居るモノは全て排除し、また一から、やり直すとしましょう」






本作では『人族』『精霊』と呼び習わしてきましたが、シルフィードだけは前作まま『人間』『妖精』との呼び方をさせています。



本日は本編145話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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