141 無職の少年、不調
上手くいった……のかな?
諸共に落ちていってしまった。
途中、魔法で攻撃していたみたいだったけど。
『ともあれ、降りるとしよう』
「うん、そうだね」
壁を滑るようにして降りてゆく。
もしかして、二人共死んじゃったのかな。
どちらも仇……だったはずで。
何だか、思っていたような感慨は湧いてこない。
酷く呆気ない終わり。
今までずっと、悩み苦しんできた。
もう、それらを感じることも無くなるのだろうか。
『油断はするな。まだ全ての戦いが決着したわけではない』
それはそうかもしれないけど。
何だか、一気に気力が削がれてしまった感じがする。
みんなを助けようと、そう思ったはずなのに。
結局のところ、仇を討ちたかっただけだったのかな。
『……友はよく頑張っているとも』
「うん……ありがと」
床に到着すると同時に、魔装化を解く。
賢姉さんのそば、床に倒れている姉さんの姿を見付けた。
魔装化が解けている。
「姉さん!」
「制止。今は触れないほうがいい。ごーれむちゃん、お願い」
「了解デス」
思わず駆け寄ったが、石像により押し留められてしまう。
「姉さんがどうかしたんですか⁉」
「不明。恐らくは薬物の類いを摂取したと思われる。詳細は医者に診せないと分からない」
「そ、そんな……」
予定どおりなら、既に住人は避難してしまったはず。
今からでは、そう簡単にお医者さんなんて見付けられやしない。
表情は苦しげに歪められ、身体が小刻みに震えてもいる。
「ど、どうしよう……どうしたら……」
「マスター、どうにかできないデス?」
「仮定。敵によるモノならば、敵が解毒の類いを所持している可能性は高い」
言われたことの意味を理解すると同時に、先程落下した敵の姿を探す。
……あった!
少し離れた場所に、白と緑の鎧が床を砕いて沈み込んでいた。
と、片方の鎧がヨロヨロと上体を起こし始めた。
「……クッ、やれやれ、この鎧は頑丈に過ぎますね」
起き上がったのは、白い鎧。
そのまま、もう片方の鎧へと手を伸ばす。
「話はそれとなく聞こえていました。自分が探してみましょう」
緑の鎧に動きは見られない。
……やっぱり、もう。
「残念ですが、それらしい物は持ってはいないようです」
「ッ⁉」
希望は一転、絶望へと変わる。
助けようと、助けられると思って戦ったのに。
どうして、何で……ッ!
『落ち着け。医者を頼らずとも、何とかなるかもしれない』
「え⁉ どういうこと⁉」
『幸い、この場には聖魔法の使い手がいる』
「えっとえっと……あ、聖女さんってこと⁉」
『ああ。聖魔法であれば、病の類いも癒せたはず』
なら、急いで聖女さんに来てもらわないと!
「聖女……ああ、副団長のことですか。しかし、他は未だ戦闘の真っ最中のようですよ」
聖女さんの姿を探す。
中央付近、炎が立ち昇る場所にいた。
戦ってるのは……赤い鎧か。
説得は失敗してしまったのかな。
「フゥ……もう少しだけ頑張るとしましょうかね」
軽い口調とは違い、身体は震えて見える。
あれだけ高いところから落ちたのだ。
鎧の中は、かなり酷い怪我をしているのかも。
ポーチの中には、もうエーテルは残っていない。
ポーションを一本取り出し、手渡す。
「……いいのですか?」
「余っているので」
姉さんを助けらもせれずに、僕は何をやっているのだろう。
コイツを助ける義理なんて、あるはずないのに。
「要請。ごーれむちゃんも向かって」
「了解デス!」
「では改めて、自分も向かうとしましょうかね」
薄暗かった大広間に光が満ちた。
突然の変化に、全員の動きが止まる。
「これは……いったい何が……?」
戦闘も中断されたのか、妙に静まり返っている。
一瞬前までは、中央の階段状に積み上がった山の頂上に光の柱があったはず。
が、それが今や消え失せている。
頂上に何かある。
……浮いてる?
「まさか、あのお方が教皇猊下⁉」
それって、教会の一番偉い人だったっけ?
でもあれ、本当に人……なのかな。
薄っすらと光って見えるような気もするんだけど。
誰も彼もが、ソレを注視しているのが分かる。
「お出ましになるなど、前代未聞なのでは」
つまり、凄く珍しいってことかな。
って、こんなことしてる場合じゃなかった!
これだけ静かになった今なら、聖女さんに声が届く。
「聖女さぁーん! 姉さんを治してくださぁーい!」
声を契機としたのか、みんなが一斉に動き始めた。
すぐさま聖女さんが赤い鎧により妨害されてしまう。
遠くでも、戦闘音が再び響き出している。
あの赤いのが邪魔だ。
「ブラックドッグ、お願い!」
『ああ』
≪魔装化≫
…………あれ?
魔装化ができてない?
黒い霧が周囲に漂い続けているだけ。
ちっとも、鎧になってくれない。
『何故だ? 何かに妨害されている……のか? だが、どうやって……』
ブラックドッグにも理由が分かってないらしい。
「どうやら不調の様子。ここは自分が」
「ごーれむちゃんも行くのデス!」
白い鎧が駆け出した。
その後ろを、石像が追従してゆく。
「警戒。この空間は何かおかしい」
『同感だ。この感覚はまるで……いや、まさかな』
姉の受けた毒らしきモノの正体、実は3話でチラッと出ていた、媚薬効果の香草を粉末化した物だったりします。
目的はお察し……倒された聖騎士は、作中トップのゲス野郎です。
本日は本編145話まで投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




