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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
209/230

SS-59 聖女の想い

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 聖都に於ける決戦は続く

 聖騎士の一人はオーガ兄が、勇者と共闘しもう一人も倒した

「おね──先輩!」



 赤い鎧を纏った聖騎士へと声を張り上げる。


 見覚えのない、異様な姿。


 背に生やした翼はいったい……?


 騎士団だけでなく、家族ぐるみで仲良くしていた間柄。


 ついつい、昔の呼び方をしそうになってしまう。


 それか、少年が呼ぶのにつられてしまったのか。



「……アナタたち。行方知れずとなっていた団長と副団長が、救援に駆け付けた、というわけではなさそうですね」


「ま、そうなるな。騎士団を、いや、教会そのものを終わらせに来たぜ」


「離反、いえ、謀反ですか」



 抜剣し、構えが取られる。



「先輩! 話を聞いてください!」


「話? この期に及んで何の話をするつもりですか。よもや、戦う覚悟を決めずに、この場に現れたとでも?」



 ガキーン。



「おっと、随分と乱暴だな。そうかたくなにならんでもいいだろう」



 いつの間にか、団長の背に庇われていた。



「立場を担う者の責。放棄したアナタが何を語る」


「放棄したつもりはねぇさ。むしろ、全うするために、こうして準備を整えて行動に移したんだぜ」


「準備……? つまり、前々から謀反の企てをしていたということですか。語るに落ちましたね」



 キンキンキンキンキン。


 金属音が連続する。



「切っ掛けは……そうさなぁ、世界樹の一件だろうな。どうにも教会の方針は、平和とはかけ離れて思えたんでな」


「世界の隅へと押しやられたまま、神に仇なすモノたちの跳梁を許せ、と? 何と愚かしい」


「仇なしてなんざいねぇさ。ただ、信じるモノが違うってだけのこった」


「それが誤りだと、何故理解できないのです!」



 ガキンガキンガキン。


 金属音が激しさを増した。


 それでもなお、団長は抵抗もせず、立ちはだかったままだ。



「誤りだと何故判じられる。敵と呼ぶモノと対話を試みたことがあるのか? 理解しようとしたことはどうだ?」


「戯言を。既にその存在自体が神に対する不敬」


「生まれたことを責と咎めるってのか。随分な暴論じゃねぇか」


「世界の異物。取り除くは信徒の、いえ、人族の責務」


「オレやオマエの信じる神様ってのは、そうも狭量なのかねぇ」


「世界を、自然を、動物を、人を、神は創りたもうた。不純物など必要ない」


「……あのよぉ、精霊も魔族も、それほど人ってやつを意識しちゃいねぇぜ。人だけが過剰に意識してるだけだ」


「我が物顔でのさばる害悪だ」


「そいつは、人も同じなんじゃねぇのかい?」



 舌戦は続く。


 先輩の攻撃もそのままに。


 不信でもあった団長の考えを改めて知る。


 確かに、人が思うほどには、精霊や魔族は人を敵視していない気がする。


 有している力に歴然の差があるからかもしれないが。


 人には余裕がないと、そう感じもする。


 もしかしたら、彼らは待っていてくれているのではなかろうか。


 人が彼らに理解を示す、その時を。



「人と被造物を同列に語るな!」


「ああそうだとも。どいつもこいつも同じなんかじゃねぇ。同じヤツなんざいねぇ。当然、完璧でもねぇのさ」


れるな!」



 一際大きな叫びと共に、炎が生じた。


 応じるように、団長の鎧に光が走る。



冷盾スヴェル



 青白い光が、炎を防いでみせる。


 僅かの熱もこちらには届かない。



「教会のやってるこたぁ、いたずらに命を奪っているだけだ。態々平和を乱しているだけだ」


「異物がいなくなれば、自ずと平和になる」


「魔族や魔物ってのは、魔界って別の世界から来たらしい」


「ふん、世界を蝕む害悪どもが」


「だがな、精霊ってのは自然から生まれたんだとさ。そいつはつまり、神の創造物ってことになるんじゃねぇのか」


「……世迷言など、聞くに値せぬ」


「都合が悪くなると、そうするってわけか。相手を非難するばっかりで、自らをかえりみたりはしねぇのかよ」


「黙れ!」



 炎が立ち昇る。


 高く高く。


 屋内が照らし出され、他の戦況が窺える。


 誰も彼もが戦っている。


 ワタシだけが、こうして守られている。


 ……なんと情けないことか。



「団長。この場はワタシが。他の支援へ向かってください」


「……嬢ちゃんじゃ、防げねぇだろ?」


「もとより、先輩を説得しに参ったのです。争い合うためではなく」


「……だとよ。炎は止めとけ。嬢ちゃんが焼けちまう」


「──クッ」



 炎が収まってゆく。


 それを待って、団長が横にズレる。



「任せたぜ、副団長」


「ッ⁉ は、はい!」



 ガシャガシャと音を立てながら、走り去ってゆく。


 向かう先に待つのは、先々代に副団長を務められた方だろう。






「アナタも同じ意見なのですか?」


「え」


「教会の教えに背き、神に仇なすを是とすると?」



 兜越しでは、その表情を窺い知ることは叶わない。


 それでも、鋭い視線が射抜いてくるのを感じる。



「ワタシは……」



 生まれ持った【意思疎通】のスキルにより、魔物の声が聞こえた。


 魔物を倒す役を担う騎士として、それは苦痛をいるモノ。


 苦しかった、辛かった。


 誰にも共感されない。


 唯一の例外と言えば、愛読していた物語の勇者のみ。


 他のどの本とも違う、とても奇妙な物語。


 前半は魔王を倒すお話。


 後半は魔王になるお話。


 魔王になった主人公は、魔物と会話することができたという。


 そして、その力を皆にも分け与えたとも。


 ……まさか、ね。


 事実だとは思えない。


 事実なのだとしたら、自分以外にも同じスキルを有する者がいてしかるべきだ。


 この思いを共有してはもらえない。


 そう、思っていた。


 ……だが知った。


 世界樹で暮らすモノに、魔族と呼ばれるモノに、同じスキルがあることを。


 物語の中で、主人公は平和を願い、皆に会話できる力を分け与えていた。


 事実とは限らないのに。


 それでも、考えずにはいられない。


 自分は、間違っていたのではないのか、と。


 平和を、共存を願った力を有しておきながら、守る側ではなく奪う側に身を置き続けていた。


 声を、無視し続けてきた。


 それはきっと、間違いだったのだと。



「ワタシは、もう誰の命も奪いたくはありません。先輩も知っている、あの物語。きっとあれは、本当にあったことだと思うんです」


「何を馬鹿なことを。あれは単なる作り物。勇者を貶める悪しき物に過ぎません」


「魔物を滅ぼすことが平和ですか? その声に耳を傾け、救おうとするのは間違っているのでしょうか?」


「教義にあるとおりです」


「平和への願い。それを託されたんだと思うんです」


「どうにも現実と空想の区別がついていないようですね」


「違います。現実を理想に近づけたいんです」


「……アナタが、そんな子供じみた考えを持っていたとは知りませんでした」



 あの物語の主人公が願った平和な世界。


 それを邪魔しているのは、他ならぬ人ではないか。



「例えこの身が勇者に選ばれていなくとも、その意志は継げます」


「勇者とは、神に選ばれし存在。人を守る盾となり、敵を討つ剣となる存在に他なりません」


「刃を向けているのは、相手ではなくワタシたちのほうではありませんか!」


「……これ以上は堂々巡りですね。実に無為な時間でした」



 下げられていた剣が掲げられてゆく。


 剣身を炎が覆う。



「妹のように想っていました。とても残念でなりません」


「……ワタシも、姉のように慕っています。今でも、変わらずに」



 槍を握る手に力を込める。


 誰も殺させない。


 そして、殺さない。


 ああ、物語の主人公も、こんな思いだったのだろうか。



「覚悟しなさい」



 槍に魔力を注ぎ込む。



付与エンチャント



 宿すは炎。


 他の戦いが決着を迎えるまで、耐え抜いてみせる。






聖女の親も同じスキルを有してはいましたが、騎士にはならず魔物と相対することもなかったため、その効果を知り得ませんでした。

人族で【意思疎通 (全)】を有しているのは、前作の一部キャラの後継のみとなります。



本日は本編145話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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