139 無職の少年、攻略の糸口
風が圧し潰してくる中、姉さんがエーテルを手渡す。
「この色はまさか……純正のエーテルですか。助かります」
「アナタには魔法で支援してもらわないといけないんだしね。弟君はどう? 残りの魔力量に気を配っておいてね」
「ぐくぅ……は、はい」
圧力に抗いつつ、何とか答える。
手持ちのエーテルはあと1本。
ポーションが残り3本なのを考えると、エーテルを多めに持ってくるべきだったかも。
まだ大して攻撃できてもいないが、消耗だけはし続けている。
使いどころは、慎重に見極めないと。
『ならばなおのこと、ポーションだけでも飲んでおくべきだ』
……そうだね。
身体に鈍い痛みを覚えてもいる。
魔装化を一部解除して、ポーチからポーションを取り出す。
同じく口元も解除し、中身を飲み干す。
少しだけ、風の圧力が軽くなった気がする。
「……では、目くらましを仕掛けます。上は見ないようにお願いします」
小声で囁かれた。
戦闘でやられたアレか!
咄嗟に下を向いて目を閉じる。
≪閃光≫
「ぐあぁッ⁉ このぉ、クソ共がぁ!」
怒声と共に、更に風の圧力が増した。
身体が軋む。
でも、どうにか耐えられる。
回復しておいてよかった。
一応、目くらましは効いてるみたいだし、動くなら今のうちだろう。
姉さんと目配せし合い、互いに反対方向へと移動する。
あまりの圧力に走れない。
けど、姉さんは違うらしい。
すぐさま壁際まで到達してみせた。
僕も、できるだけ速く移動しないと。
突如として、姉さんが天井目掛けて飛び去る。
先程まで居た場所には、壁に衝突したままだった石像の姿があった。
石像が何かしたのか。
再び視線を転じると、天井を足場に、今度は敵目掛けて突撃してゆく。
援護は間に合わない。
だけど、敵も反応できてない。
大剣が当たる。
──かと思われたが、寸前で横に避けられてしまった。
「生意気に上まで来てんじゃねぇぞ! 墜ちて潰れちまえや!」
風の圧力が止む。
代わりとばかりに、視認できるまでに凝縮された風の塊が、姉さんへ向けて放たれた。
落下するだけの姉さんに、躱す術など無い。
と、中空に光の壁が現れる。
それを足場として、姉さんが風の塊へと突っ込む。
瞬断。
一瞬にして、風が霧散する。
『我らも向かおう』
「そ、そうだね。お願い」
見ているばかりじゃ駄目だった。
助けにきたのだ。
手足に爪を生じさせ、壁を駆け上がる。
頭上では、またしても攻撃が避けられてしまっていた。
やっぱりか。
自身への攻撃を、視覚以外で察知できるらしい。
避けられないほどに素早い攻撃か、多方向からの攻撃なら当てられるだろうか。
でも、姉さんの剣を避けられてる以上、前者は難しいのかも。
姉さんの攻撃に合わせないと。
見る間に高度が上がってゆく。
身体の痛みを無視し、タイミングを見計らう。
姉さんは光の壁を足場にして、接近戦を挑んでいる。
試しに、姉さんの攻撃に合わせて、爪撃を飛ばしてみる。
が、躱された。
仕返しとばかりに、矢が飛んでくる。
連発すれば、どれかは当てられるかもしれないけど、それだと姉さんにも当たりかねない。
『単調な攻撃では意味を成さぬか。もっと接近しよう』
ようやく敵の高さまで到達した。
下を見ると、竦んでしまう。
『爪を操作して攻撃するんだ』
爪を操作……?
ああ、そういうことか!
片手と両足で身体を保持。
イメージするのは、アルラウネさんの蔦。
指先から、爪を宿した黒い蔦が伸びる。
意図を察してくれたのか、姉さんが正反対の位置へと移動してくれる。
前後からの挟み撃ち。
「アホが! とっくに気付いてんだよ!」
緑の鎧が風の膜で覆い隠される。
渦巻く風に触れた途端、爪が全て弾かれてしまう。
姉さんの剣も同様に。
『これも通用せぬか。存外に厄介な相手だな』
……いや、どうなんだろう。
今までは全部避けられてた。
けど、今は避けることはせず、防ぐことを選んだ。
『……ふむ。全てを回避はしきれぬというわけか。しかし、相変わらず攻撃が察知されてもいるな』
爪撃は回避された。
けれども、さっきの複数の爪による攻撃は回避ではなく防がれた。
そのどちらもに共通しているのは、姉さんとの同時攻撃。
ならば、違いは何なのか。
『……手数、か?』
爪撃は1回だったのに対し、伸ばした爪は5回分の攻撃に相当する。
数には対処しきれない?
もっと数が多ければ、あるいは通用するのか。
いやでも、攻撃が察知されて防がれていては、結局意味がない。
より数が多くて、察知され辛い攻撃、か。
『千だっての彼の者との戦闘の折、光糸が使われていたな』
こうし……?
『光の糸を生み出す魔法だ。細く、数も多い』
ああ、建物を斬り刻んでたアレか。
なら、アレを真似すれば、通用するかも?
『待て。やるならば、下手に手の内を明かさず、一度に決めるべきだろう』
つまり、どういうこと?
『望むところではないことは承知しているが、勇者と協力し、同時に攻撃するべきだと思うぞ』
ズキン。
頭が痛む。
アイツと共闘しろってこと?
『赦せぬ、か。ならば姉を想え。姉を助けるため、あらゆる手段を講じるのだろう?』
姉さん……。
今なお、風の覆いに対し、剣戟を放ち続けている。
『この戦い、参戦したのは何のためだった』
それは……。
それは、誰かを、姉さんを助けたいと思ったんだ。
『ならば迷うな。二度と大切なモノを喪わぬために』
本日は本編140話まで投稿します。
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