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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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139 無職の少年、攻略の糸口

 風が圧し潰してくる中、姉さんがエーテルを手渡す。



「この色はまさか……純正のエーテルですか。助かります」


「アナタには魔法で支援してもらわないといけないんだしね。弟君はどう? 残りの魔力量に気を配っておいてね」


「ぐくぅ……は、はい」



 圧力に抗いつつ、何とか答える。


 手持ちのエーテルはあと1本。


 ポーションが残り3本なのを考えると、エーテルを多めに持ってくるべきだったかも。


 まだ大して攻撃できてもいないが、消耗だけはし続けている。


 使いどころは、慎重に見極めないと。



『ならばなおのこと、ポーションだけでも飲んでおくべきだ』



 ……そうだね。


 身体に鈍い痛みを覚えてもいる。


 魔装化まそうかを一部解除して、ポーチからポーションを取り出す。


 同じく口元も解除し、中身を飲み干す。


 少しだけ、風の圧力が軽くなった気がする。



「……では、目くらましを仕掛けます。上は見ないようにお願いします」



 小声で囁かれた。


 戦闘でやられたアレか!


 咄嗟に下を向いて目を閉じる。



閃光フラッシュ



「ぐあぁッ⁉ このぉ、クソ共がぁ!」



 怒声と共に、更に風の圧力が増した。


 身体が軋む。


 でも、どうにか耐えられる。


 回復しておいてよかった。


 一応、目くらましは効いてるみたいだし、動くなら今のうちだろう。


 姉さんと目配せし合い、互いに反対方向へと移動する。


 あまりの圧力に走れない。


 けど、姉さんは違うらしい。


 すぐさま壁際まで到達してみせた。


 僕も、できるだけ速く移動しないと。






 突如として、姉さんが天井目掛けて飛び去る。


 先程まで居た場所には、壁に衝突したままだった石像の姿があった。


 石像が何かしたのか。


 再び視線を転じると、天井を足場に、今度は敵目掛けて突撃してゆく。


 援護は間に合わない。


 だけど、敵も反応できてない。


 大剣が当たる。


 ──かと思われたが、寸前で横に避けられてしまった。



「生意気に上まで来てんじゃねぇぞ! 墜ちて潰れちまえや!」



 風の圧力が止む。


 代わりとばかりに、視認できるまでに凝縮された風の塊が、姉さんへ向けて放たれた。


 落下するだけの姉さんに、躱すすべなど無い。


 と、中空に光の壁が現れる。


 それを足場として、姉さんが風の塊へと突っ込む。


 瞬断。


 一瞬にして、風が霧散する。



『我らも向かおう』


「そ、そうだね。お願い」



 見ているばかりじゃ駄目だった。


 助けにきたのだ。


 手足に爪を生じさせ、壁を駆け上がる。


 頭上では、またしても攻撃が避けられてしまっていた。


 やっぱりか。


 自身への攻撃を、視覚以外で察知できるらしい。


 避けられないほどに素早い攻撃か、多方向からの攻撃なら当てられるだろうか。


 でも、姉さんの剣を避けられてる以上、前者は難しいのかも。


 姉さんの攻撃に合わせないと。


 見る間に高度が上がってゆく。


 身体の痛みを無視し、タイミングを見計らう。


 姉さんは光の壁を足場にして、接近戦を挑んでいる。


 試しに、姉さんの攻撃に合わせて、爪撃を飛ばしてみる。


 が、躱された。


 仕返しとばかりに、矢が飛んでくる。


 連発すれば、どれかは当てられるかもしれないけど、それだと姉さんにも当たりかねない。



『単調な攻撃では意味を成さぬか。もっと接近しよう』



 ようやく敵の高さまで到達した。


 下を見ると、すくんでしまう。



『爪を操作して攻撃するんだ』



 爪を操作……?


 ああ、そういうことか!


 片手と両足で身体を保持。


 イメージするのは、アルラウネさんのつた


 指先から、爪を宿した黒いつたが伸びる。


 意図を察してくれたのか、姉さんが正反対の位置へと移動してくれる。


 前後からの挟み撃ち。



「アホが! とっくに気付いてんだよ!」



 緑の鎧が風の膜で覆い隠される。


 渦巻く風に触れた途端、爪が全て弾かれてしまう。


 姉さんの剣も同様に。



『これも通用せぬか。存外に厄介な相手だな』



 ……いや、どうなんだろう。


 今までは全部避けられてた。


 けど、今は避けることはせず、防ぐことを選んだ。



『……ふむ。全てを回避はしきれぬというわけか。しかし、相変わらず攻撃が察知されてもいるな』



 爪撃は回避された。


 けれども、さっきの複数の爪による攻撃は回避ではなく防がれた。


 そのどちらもに共通しているのは、姉さんとの同時攻撃。


 ならば、違いは何なのか。



『……手数、か?』



 爪撃は1回だったのに対し、伸ばした爪は5回分の攻撃に相当する。


 数には対処しきれない?


 もっと数が多ければ、あるいは通用するのか。


 いやでも、攻撃が察知されて防がれていては、結局意味がない。


 より数が多くて、察知され辛い攻撃、か。



『千だっての彼の者との戦闘の折、光糸こうしが使われていたな』



 こうし……?



『光の糸を生み出す魔法だ。細く、数も多い』



 ああ、建物を斬り刻んでたアレか。


 なら、アレを真似すれば、通用するかも?



『待て。やるならば、下手に手の内を明かさず、一度に決めるべきだろう』



 つまり、どういうこと?



『望むところではないことは承知しているが、勇者と協力し、同時に攻撃するべきだと思うぞ』



 ズキン。


 頭が痛む。


 アイツと共闘しろってこと?



『赦せぬ、か。ならば姉を想え。姉を助けるため、あらゆる手段を講じるのだろう?』



 姉さん……。


 今なお、風の覆いに対し、剣戟を放ち続けている。



『この戦い、参戦したのは何のためだった』



 それは……。


 それは、誰かを、姉さんを助けたいと思ったんだ。



『ならば迷うな。二度と大切なモノを喪わぬために』






本日は本編140話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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