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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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137 無職の少年、助けたい

 疲弊しているらしい賢姉けんしさんと、付き添っているアルラウネさんを残し、通路から出る。


 大広間での戦闘は、主に二箇所で行われていた。


 右側では、姉さんと石像が緑色の騎士と。


 左側では、オーガ兄が黄色と赤色の騎士と戦っているようだ。


 妹ちゃんはお兄さんを援護しているらしい。


 けど、明らかに不利そうに見える。



「数が減ってるな。どうやら爺さんは倒したらしい。二人の相手はオレらが代わろう。行くぜ嬢ちゃん」


「はい!」



 言うが早いか、団長さんと聖女さんが駆け出す。


 どうやら、オーガ兄の加勢に向かったみたいだ。


 別れる前に言ってた、女性の説得をする気なのかもしれない。



「先程言った、もう一人の仇。彼がそうです」



 不意に、そんな言葉が発せられた。


 促された視線の先に居るのは、姉さんたちと戦ってる緑色の騎士。


 かつて、集落を襲った元凶。


 アイツさえいなければ。


 あの穏やかな日々が今も続いていたのだろうか。



「っと、共闘は拒絶されていましたね。では、これで失礼します」



 白い鎧が駆け出す。



「ボウヤ、過去の顛末を聞いたの?」


「……はい。さっき聞かされました」


「そう」


「アルラウネさんは、知ってたんですか?」


「聞いたのは半年前になるわね。世界樹の暴走を止めた後、天幕で聞いたの」



 ……あれ?


 それってつまり、姉さんも一緒だったんじゃ?



「じゃあ、姉さんも」


「ええ。むしろ、あの子から尋ねたことよ。あの子にとっても、大切な人たちだったんだもの」



 そう、だったんだ。


 何で話してはくれなかったんだろう。



「きっと、邪魔をしたくなかったんだと思うわよ」


「え?」


「ボウヤは目標を決めて、努力を続けてた。もし、そこで過去の出来事を聞かされていたら、どうなっていたかしら」



 どうなんだろう。


 信じられなかったかもしれない。


 もしくは、話すら聞こうとはしなかったかも。



「勇者を倒したんでしょう? 過去の決着まで、あともう少しじゃない」



 ズキン。


 頭が痛む。



「考えが纏まらないでしょうけど、この機会を逃せば、ボウヤの痛みや苦しみはずっと残ってしまうかもしれないわ」



 痛みや苦しみって……。



「……気付いてたんですか?」


「ん? 痛みとかのこと? そりゃあね。どれだけ一緒に過ごしてきたと思ってるの。特定の言葉に反応してたのは知ってるわ」



 ……そっか。


 誰にも打ち明けたことはなかったのに。


 なら当然、姉さんにもバレてたってことか。


 勇者を倒しても治らない。


 ズキン。


 頭が痛む。


 元凶を倒せば、頭の痛みや胸の疼きも、治まったりするのかな。



「仮説。未だ心の傷が癒えぬのは、何もできなかったことへの悔いがあるのではないか。忘れ得ぬために、痛みとして反応しているのかも」



 悔い、か。


 当然ある。


 あるに決まってる。


 例え今の自分が過去のあの場面居合わせたとして、敵いはすまい。


 ブラックドッグの協力が必要不可欠。


 自分の力だけで、あの場を切り抜けられはしないんだから。


 そもそもが、過去はどうやっても変えられやしない。


 どれだけ願おうとも、絶対に。


 お父さんもお母さんも、帰ってはこない。


 ドクンドクン。


 胸が疼く。


 悲劇は悲劇のまま。


 ずっとずっと変わらずに残ってる。


 記憶の中で、胸の内で。



「このまま任せておいても、きっと勝てるはず。もう何もする必要はないのかもしれないわ。けど……」



 幾ら待てども、続く言葉は紡がれない。


 どうするべきかは、自分で考えるしかないんだ。


 以前あった焦燥感は既にない。


 命こそ奪えはしなかったものの、倒すべきと定めた相手は倒せた。


 アイツがこのまま生き続けるというのも、納得がゆくものではないが。


 戦いの結果ならまだしも、今更短剣を突き立てたいとは思えない。


 だがしかし、まだ倒すべき仇がいるという。


 その実感が、どうにも湧き切らない。


 先程の戦いで、もう十分だったんじゃないか。


 けれども、みんなは今も戦ってる。


 誰にも死んで欲しくはない。


 みんな一緒に、無事に帰りたい。


 戦う理由。


 それはもう、復讐なんかじゃないのかもしれなくて。



「……助けたいんだと思います。もう誰にも、死んで欲しくはないから」



 誰にともなく告げる。


 助けたい。


 僕が、僕なんかが、誰かの助けとなれるのならば。


 痛みも疼きも、もう治らないのかもしれないけど。


 そんなことよりも、大事なことがある。



「助けに行きたいよ」


『何処へなりとも行ける。案ずるな、臆するな。共に行こう』


「うん!」






 ポーチからエーテルを取り出し飲み干す。



魔装化まそうか



 ブラックドッグを纏うイメージ。


 二心一体。


 モヤモヤを吐き出すように、己が存在を主張するように、思いっきり吠える。



「AHHHHHHHHーーー!」



 大気を震わす。


 弛緩した身体に活を入れる。


 僕は此処に居る。


 天職は備わらなかった。


 望まれない存在なのかもしれない。


 神様にも誰にも、期待なんかされていないのかもしれない。


 けど、だけど。


 例え何者になれずとも、誰かの助けにはなれるはず。


 僕が行くぞ。


 助けに行くんだ。


 脚に力を込める。


 目指すは、姉さんの元。


 敵が誰であろうと関係ない。


 姉さんを助けよう。


 それだけで、僕は戦える。






本日は本編140話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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