SS-58 オーガ兄の闘い②
大広間へと突入する。
目配せし合い、姐さんとは逆方向へと跳び退く。
立つのが困難なほどの暴風が荒れ狂っている。
ただの戦力外だと思っていた地味子が、魔法を使えるってだけで、こうも違うものとは驚きだ。
ま、こっちにとっては嬉しい誤算なわけだが。
さてと、まず狙うべきはジジイ。
色とりどりの鎧が見える。
あの一番背の低い青いのがそうか。
これは奇襲。
察知されては意味がない。
闘気や殺気を外には漏らぬよう、内側のみで留め高めてゆく。
姿勢を限りなく低くし、速さを頼みとして駆け抜ける。
敵は場所を移動しようと動き始めていた。
間に合うか?
と、敵の周囲の床が剥がれ、不自然にぶち当たって行くのが見えた。
こちらの足場に変化はない。
風の影響にしちゃ、おかしな光景だ。
が、まぁ理由はどうあれ、好機には違いねぇ。
さらに加速。
団長とやらの鎧を思い出す。
あの時は技を使っても砕けなかった。
今回は籠手有りとはいえ、同じ技で挑むのは危うい気がする。
速度を殺さず、全体重を乗せた一撃を狙う。
舞う床を意に介さず、這うようにして接近を果たす。
相手は水の膜らしきものに覆われていた。
水越しに交差する視線。
水が邪魔だな。
未熟な魔法で己を燃やし、僅かでも水に抗ってみせる。
思い浮かべるのは師匠の姿。
≪竜翔 -炎-≫
炎を纏った両の拳を突き出し、勢いのままに激突する。
ドゴォーン!
轟音と衝撃。
相手ごと、石段へと埋まる。
確かな手応え。
炎の効果はほぼ見込めなかったが、必殺の衝撃は通ったはず。
相手が動かないことを確認し、瓦礫から這い出す。
暴風が止んだ。
散開した聖騎士の一人が、姐さんのほうへと向かって行く。
この場に残ったのは、赤いのと黄色いの。
「距離を取れ。遠距離で仕留める」
「ええ」
そういや、女は後回しだったっけか。
なら、相手すべきは黄色いデカブツ。
赤いのを無視して、黄色いのへと駆け出す。
動きは大したことねぇな。
これなら余裕で追いつける。
邪魔するように床が隆起し始めた。
姐さんと似たような能力か?
余裕で躱して、接近を果たす。
狙いは腕。
強く踏み込み、必殺を見舞う。
≪竜牙・顎≫
部位破壊特化の技。
両の拳で挟み、圧し潰す。
≪召喚≫
突如、巨大な何かが出現した。
ガキィーン。
拳が途中で阻まれる。
だけに留まらず、籠手が砕け散った。
んだとぉ⁉
追撃を諦め、一旦距離を取る。
隆起する床に加え、火球が降り注いできた。
赤いのは火を扱えるらしい。
とにかく回避に専念しつつ、姐さんのほうからは遠ざかるように誘導する。
そうして、邪魔した何かを視認した。
両腕に身の丈を超える籠手……いや、縦長の盾を装備している。
あれも刻印武装とやらなのか?
見るからに防御特化。
つまりは、あれに通用すれば、他の連中も打倒できるのだろう。
しかし、どうしたもんか。
攻撃を避けつつ、対抗手段を考える。
籠手が砕けた以上、殴り系は無意味。
脚甲を頼みに、蹴り技しかねぇか?
だが、やるならせめて、あの盾を道連れにしねぇとマズい。
生身では、ちぃとばかし荷が勝ち過ぎる。
壁際まで退避。
なるべく速度を殺さずに、相手に一撃を加えねば。
迎撃すら間に合わぬほどに。
駆ける。
回避は最小限に留め、デカブツを目指す。
と、足が空を切った。
足場が、無い⁉
眼下には床の代わりに、闇が広がっていた。
同じ攻撃ばかりしてたのは、このための伏線かよ⁉
身体が沈む。
クソッ、踏み込む瞬間を狙われた。
ご丁寧に、足場どころか掴まれる場所すら残されてねぇ。
油断したつもりはなかったが、攻撃に気を取られ過ぎたか。
……こりゃあ、また師匠にどやされちまうな。
闇に溶ける。
「馬鹿アニキぃーーー!」
寸前、居るはずのない妹の声が聞こえた気がした。
床スレスレまで傾く視界に、何かが迫ってくるのを捉える。
反射的に、その何かを掴む。
すると、凄まじい力で身体が引っ張られた。
よくよく見ると、掴んだのは矢。
「……ヘッ、妹に助けられてりゃ、世話ねぇな」
如何なる理由か。
大広間の出入り口には、見覚えのあり過ぎる妹の姿があった。
落とし穴を脱して、矢を離す。
床はもう、足場足り得ない。
接近するには、新たな足場が必要だ。
流石に、接触してない石や岩までは操れまい。
狙うは隆起した床。
思い切り殴り砕く。
飛散する破片の群れ。
足場と言うには頼りないそれらの上を駆ける。
「奈落へ落ちよ」
突如、周囲を覆う壁。
破片の下は、先程と同じく闇が広がっている。
最後の破片を足場に、両足を揃えて大跳躍。
届け届け届けぇーーーッ!
……いや、駄目だ。
飛距離が足りねぇ。
姿勢を変える。
膝を抱え込む。
急げ急げ急げ急げ急げ!
焦りつつ、左の脚甲を外す。
足裏に当て、足場として再度跳び出す。
援護を妨害したつもりなんだろうが、壁を出したのは余計だったなぁ。
壁を殴りつける。
が、砕けない。
「うおッ⁉ マジかよ⁉」
予想外の硬さに慌てたが、どうにか壁にしがみつく。
ったく、面倒くせぇ相手だぜ。
≪竜爪≫
宙返りするように、蹴りを見舞う。
岩壁が縦に切り裂かれる。
「存外にしぶといな」
「たりめぇだ」
どうにも相性が悪い。
無駄に時間ばかり食っちまってやがる。
片足分で仕留められるか……?
いや、次の機会なんてねぇんだ。
ここでケリをつける。
本日は本編140話まで投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




