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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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SS-56 勇者の追憶

 元の姿へと戻った銀髪の少年に、先程の短剣を返してやる。


 伝えてやらねばならぬことがある。


 あの日のことを打ち明けねば。


 忘れもしない、5年前の出来事。


 この少年にとっては、壮絶なトラウマとなっているであろう惨劇の記憶を。


 その元凶となった存在について。






 そう、あれは騎士になる前。


 従騎士として、先輩騎士の身の回りの世話や荷物持ちなどをしていたころ。


 先輩は騎士の中でも異端だった。


 過剰な嗜虐心。


 差別的な言動の数々。


 凡そ、他者を守るためではなく、ただ自己欲求を満たすためだけに行動しているような人。


 団長からもよくよく注意を受けていたのを覚えている。


 その度に、周りへと当たり散らしていたものだ。


 そうして、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく、異教徒狩りと称した虐殺が決行されてしまう。






 事の発端は、ダンジョンへの演習。


 道中で偶々見かけた行商人に絡んだかと思いきや、急遽予定を変更し、小さな集落を目指すと言い出したのだ。


 何でも、騎士が巡回すらしていないような、辺境にあるという。


 教会も無く、神ではなく精霊を信仰する異教徒が暮らしているんだと、他の騎士たちをきつけて。


 他と連絡をつけようにも、町に戻らずの強行軍。


 食料などは現地調達、いや奪うつもりらしかった。


 皆を飢えさせ、正常な判断をできなくさせて。


 道中に於いても、如何に自分たちの行いが正しいかを、飽きるほどに語り聞かせてくる。


 一人、また一人と、思考が歪められ、染められてゆく。


 集落に到着するころには、自分以外は狂気の集団と化していた。


 自分だけが正気を保てたのは、生来の気質か、天職の影響なのだろう。


 元々、感情の変化に乏しかった。


 特に負の感情を抱くことはなく、取り繕うように笑みを浮かべるように心がけていた。


 そんな自分にも、悪性は判じられる。


 勇者として生まれ落ちた自分が、この平和な世の中にあって成さねばならぬこととは何なのか。


 朧気ながら、分かったような気がした。






 集落に着くなり、入口付近で住人たちと口論が始まる。



「ケヒャヒャヒャヒャ! いい感じに頭がゆだってるみてぇだなぁ」



 その様を、楽しそうに眺めている。


 騎士たちは飢えと歪んだ使命感に後押しされるようにして、徐々に行動が乱暴さを増してゆく。



「この騒ぎで精霊とやらが出てきてくれりゃ、より面白れぇんだがなぁ」



 住人だけでなく、存在するかも不確かな精霊も標的としていたらしい。


 世をいたずらに乱す所業。


 教会の教義を笠に着て、魔族も人族も精霊にすら争いを求めるのか。



「おい、逃がさねぇように、周りを囲んどけ」



 蹴り飛ばしながら、騎士を散らしてゆく。


 自分は何をしているのか。


 止められもせず、ただ事が起こるのを傍観するのみ。






 遂に始まってしまった。


 農具を手にした住人を目にした騎士が、剣を抜いたのだ。


 一方的な虐殺が行われてゆく。



「調子こいて、食料を奪うのを忘れんなよ! 家探しが終わった家には火を放て」



 空も大地も目を焼くような赤色に染め上げられてゆく。



「ケヒャヒャヒャヒャ! ったく、人ってやつのはよぉ、獣や魔物なんかよりも、よっぽどたちが悪いぜ」



 元凶がうそぶく。


 さも愉快でたまらないとばかりに笑いながら。



「……チッ。衝動に任せて勝手する連中が出始めやがったな。おい、反対側へ回り込むぞ」



 一転して不機嫌そうになり、足早に歩み去ってゆく。


 武具を担ぎ直し、その背を追い駆ける。






 そうして、逃げだす親子を見付けてしまった。


 槍を手にし、父親を母親をと刺し貫いてゆく。


 それでも、子を守ろうと、盾になろうと庇う親。


 出血が酷い。


 純正のポーションですら、治るかは厳しいところ。


 ならば、いっそ一思いに。


 さらに槍が追加されてゆく中、剣を抜き放ち致命の一撃を加える。



「ガハッ」


「な⁉ ……テメェ、どういうつもりだ、コラァ⁉」


「先輩のお手を煩わせる相手でもありません。代わりに自分が」


「しゃしゃり出てんじゃねぇそ、従騎士風情が! 小間使いの分際で、オレの剣まで勝手に使いやがったな!」



 折り重なって倒れてゆく。


 子供はまだ無事だろうか。


 槍が届いてなければ良いのだが。


 この状況から、果たして助け出せるのか。


 今できるのは、血濡れにして、死を偽装させることぐらい。


 皆が帰還する際、どうにか此処に戻って来て、何処かへと避難させよう。


 許せとは言うまい。


 息を引き取ったらしいソレを、なおも執拗に斬り刻む。



「ケヒャヒャヒャヒャ! やっぱりオマエも相当にイカれてやがる」






「おいおい、もうその辺にしとけや。流石のオレも引くぜ?」


「……そうですね。もう血も出なくなりましたか」


「勇者の所業じゃねぇわな。だが、気に入ったぜ。またぞろ、手頃な集落でも見つけようぜ」


「戻られますか?」


「ああ。っと、そうそう、死体が残らねぇよう、火ぃ点けとくのを忘れんなよ」


「分かりました。後始末はお任せを」


「さてさて、他の連中は上手くやってんだろうなぁ」



 姿が見えなくなるまで待ち、子供の息を確かめる。


 ……大丈夫、まだ生きてる。


 両親の死体の下敷きという凄惨な状態だが、他へ移すよりかは目立たずに済むだろう。


 もうしばらく堪えてくれ。


 必ず助けに戻ろう。


 念の為、火の手が及ばないよう、周囲の草を刈り尽くしておく。


 集落側へ草を集め火の勢いで隠匿を図る。


 火がある内は獣も寄り付くまい。


 なるべく早く戻って来なければな。


 初めて人を殺めた。


 その割に、特に思うところはない。


 自分もまた、歪な存在なのか。


 勇者としての欠陥品。


 それが自分というわけか。






「ようやく戻ったときには、キミも、両親の姿も消え失せていました」


「……だから何だって言うんですか? 自分は悪くないとでも?」


「いいえ。自覚できずとも悪は悪。止められず、あまつさえ自らも加担したのは、紛れもない事実」



 睨み付ける少年に告げる。



「しかるべき罰は受けましょう。死を以てというならば、それでも構いません」


「なら……なら何で、そのまま死ななかったんですか」


「どうしてあんなことが起きたのか、知る権利がキミにはあると思ったんです。そして、もう一つ」



 勇者として生を受け、果たすべき使命を見出した。



「討つべき悪があります。キミが復讐を他者に任せなかったように、自分もまた譲れないんですよ」



 世を乱し、悪行を成す存在。



「彼の者は塔の中に。現在は聖騎士の位にあります」



 倒すべき悪は、すぐそばに居た。


 今までは敵うべくもなかったが、今ならばどうか。


 この鎧と、魔法があれば。



「一戦のみ、共闘しませんか」



 自分は使命を、少年は復讐を。


 他の誰にも、委ねることはできないのだから。






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

聖都での決戦が開始された。

一つの戦いが決着したものの、塔での戦闘は今なお続いており……。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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