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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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135 無職の少年、勇者に挑む⑥

 中々距離が詰められない。


 まだ一度も攻撃できてすらいない。


 剣術に対抗するべく、聖女さんとあれだけ訓練を重ねたのに。


 全然活かせないでいる。


 悲しいかな、僕には姉さんのような速さはない。


 接近を果たすためには、まずは相手の足を止めさせないと。


 とはいえ、あの鎧に生半可な攻撃は通用しないのは明らか。


 ならば狙うべきは、ヤツ自身ではなく、その周囲の環境。


 ブラックドッグの力を頼る。


 走りながら爪を揮う。


 路面に建物にと。


 生じるのは爪跡。


 離れた場所を切り裂いてみせる。


 路面は抉られ、建物は路面へと瓦礫をまき散らす。


 そうして、悪路を形成してゆく。



「くッ⁉」



 相手の速度が緩む。


 この機を逃さず、接近を果たす。



閃光フラッシュ



 よりも先んじて、魔法が放たれた。



「うわぁッ⁉」



 視界を強烈な光が襲う。


 足が止まる。


 たまらず首ごと逸らし、目を強く瞑る。



『ただの目くらましだ。すぐに攻撃が来る。ただちに移動を──いや、身体の制御を貰うぞ』



 勝手に脚が動き出す。


 見えない所為で、余計に怖い。



『脚の動かし方が異なるのか。少し無茶をする。こらえてくれ』



 疑問に思う間もなく、体勢が変わる。


 横向きに重力を感じる。


 脚に加えて腕も勝手に動きだす。



「壁走りとは、まるで獣同然ですね」



 どうやら、手足を使って壁を走っているらしい。


 普段とは異なる動きに、身体の節々が痛みを訴え始めている。



『もう少しの辛抱だ。跳びかかったら短剣を揮え』


「う、うん、分かったよ」



 声に出す必要もないのだが、ついつい返事をしてしまう。


 どうにか薄目を開けて、視力の治りを確認する。


 ぼんやりと周囲の状況が見える。


 少しずつ治まってはきているようだ。



『いくぞ!』



 掛け声と共に、手足が自由になった。


 爪を仕舞い、両手に白刃を具現化させる。


 目を開く。


 眼下にヤツの姿を捉える。


 これで仕留める!


 鞘から剣が引き抜かれ、斜めに斬り上げてくる。



錯刃さくじん



 短剣を交差させる。


 一番使い慣れた技。


 諸共に切断してみせる。


 短剣が剣と接触。


 抵抗は感じない。


 するりと剣を通過し、鎧へと迫る。


 相手の兜越しに、驚愕に見開かれる目。


 いける!


 交差した短剣を外側へと思いっきり振り抜く。






 パキーン。


 音源は手元から。


 白刃が砕け散っていた。



「…………え?」



 状況に理解が追い付かない。


 思考と共に、身体の動きも止まる。


 力が抜け、膝をつく。



『通じなかったか。だが、まだ諦めるな。鎧が本物であるなら、胴部分に破損個所があるはず。そこを狙うしかあるまい』



 白刃はとっておきだった。


 今の今まで、斬れない物なんてなかった、


 白い鎧ですら、斬り裂いてみせると信じていたのに。


 どうしよう。


 魔法を封じられても、攻撃する手段がない。



光剣セイバー



『避けろ! くッ、せめて相殺を』



 勝手に腕が動く。


 振り下ろされた光の剣を防ぐように、爪が展開し迎撃する。



「まさか鋼鉄製の剣が切断されようとは、思いもしませんでしたよ」



光剣セイバー



 反対側の手からも光の剣が振るわれる。


 応じるように、もう一本の腕が動く。


 そちらも爪が防いでみせる。



『友よ、諦めるな!』



 頭の中で声が響く。


 でも、だけど、もう倒す手段が見つからない。



『まだ本物は残っているのだろう? 模造が通用せずとも、本物ならあるいは通用するかもしれない』



 先程の光景が鮮明に焼き付いている。


 砕け散る白刃。


 本物だったら通用するとは信じきれない。



「動きが目に見えて悪くなりましたね。倒すべく準備をした結果がコレですか」


『何でも試してみるのだ。諦めてしまえば、勝てるものも勝てなくなってしまう』



 耳と頭に声が届く。



「復讐を遂げるのでは? 仇を討つべく、今まで生きてきたのでしょう?」


『動け。頼む、動いてくれ』



 押し潰すように、光の剣が迫ってくる。


 外からも内からも、声が放たれる。



「ここまで来て、全てを諦めるんですか!」


『思い出せ、戦う理由を! この程度で諦めるな!』



 何でだろう。


 相手のほうが、よっぽど必死に見える。


 憎い相手。


 倒すべき相手。


 そのために、努力してきた。


 準備不足だったのかな。


 スキルは今も発現しない。


 天職さえあれば、結果は違っていたのだろうか。


 あともう少し。


 ほんの僅かの距離が埋められない。


 力が足りてない。


 姉さんたちは無事だろうか。


 色々と約束をしたのに、どれも守れそうにないや。


 昨日のような震えはない。


 ただただ脱力感だけがある。



『友よ。多くの教えを受けたはずだ。思い出せ。全てを出し尽くせ』



 あれだけ頑張った訓練も無駄だった。


 相手から視線を逸らすなとか、相手の動きを決めつけるなとか。


 あとは……何だっけ。


 もっと脚を使えとか、魔力を温存しろとか。


 そう言えば、白刃に関しても何か言われたような……何だったかな……。


 あれは確か、グノーシスさんと最後に戦ったときに。



”具現化から本物へと切り替えたのは良かったがな”


”心して聞け。白い短剣は切り札足り得る。故に早々に披露するな。使いどころを見誤るなよ”



 そう、確かそんなことを言われた。


 具現化もまだまだ未熟だって。


 本物の白刃なら、もしかしたら通用するのかな。



『あらゆるを試せ! 次など無い! 戦え、友よ!』



 脚に、腕に、力を込める。


 まだ動ける。


 まだ戦える。






 全力で剣を弾き返す。


 その間に立ち上がり、爪を仕舞う。


 魔装化まそうかを一部解除し、腰の短剣を両方引き抜く。


 白刃は右手に。


 魔装化まそうかで短剣を覆い、白刃を警戒されぬよう、どちらも黒く染め上げる。


 同時に、多少なりとも強度を強めておく。



「……どうやら、まだ戦う意志はあるようですね。ならば結構。悔いが残らぬよう、全力を尽くすことです」



 声ではなく双剣で応じる。


 双剣同士の剣戟を開始する。



『魔法を封じるか?』



 まだ、まだ早い。


 一度見せてしまってもいる。


 警戒して距離を取られたら、再び追い付ける自信もない。


 重たい疲労感があるのだ。


 万が一に備え、温存しておきたい。



『分かった。できる限り動きを補助しよう』



 迎撃速度が上がる。


 魔法の剣を相手にするのは、重さがなくて変な感覚だ。


 これも訓練の成果か。


 何となく攻撃の流れが分かる気がする。


 聖女さんよりも遅く、団長さんよりも軽い。


 戦える、戦えてる。



「うおおおおおォーーー!」


「うあああああァーーー!」



 どちらからともなく、互いに叫ぶ。


 剣戟が加速する。


 短剣で攻撃するには、まだ一歩ほど足りない。


 少しでも前へ。


 阻むように光の剣が揮われる。


 詰められない。


 あと一歩が遠い。


 と、相手の動きが変わった。


 横薙ぎの一閃からの、軸足での回転。


 ──突きが来る!


 反射的に左の短剣を投げ捨てる。


 空いた左手を白刃の柄尻へと添える。


 互いに突きの構え。


 剣に自ら跳び込むようにして、一歩を埋める。


 当然、相手のほうが届くのが速い。


 ブラックドッグ!



『応!』



 魔法が封じられる。


 消失する光の剣。


 尻尾が駄目押しとばかりに路面を叩く。


 身体は更に前へ。


 白刃に全体重を乗せ、白い鎧へと突っ込む。






 今度は、折れる音は聞こえなかった。


 白刃は根元まで白い鎧へと刺し込まれている。



「ぐふッ……それが奥の手というわけですか。お見事、です」



 赤い色が伝ってくる。


 逃れるように、反射的に手を離す。


 相手が膝をつき、そのまま横倒しになった。



「ぐうううゥ…………がはァッ⁉」



 何を思ったのか、腹部に刺さった短剣を引き抜いた。


 広がりゆく赤い色。


 ズキリ。


 頭が痛む。


 相手がゴソゴソと腰のあたりを触っている。


 いつの間にか、その手には見覚えのある細長い瓶があった。




『いかん! 回復させるな!』



 パリーン。


 それを腹部の上で握り潰してしまう。


 中身が降り注ぐ。



「流石は純正品、高額なだけはありますね。治りが早い」



 むくりと起き上がり、そんなことを呟いてみせる。



「まだまだ甘さが拭えませんが、子供というのを考慮すれば、及第点と言ったところでしょう」



 白刃を手に、近づいてくる。



「残念ながら、まだ死ぬわけにはゆかないのでね。覚えていませんか? キミの復讐すべき相手は、もう一人居るのですよ」






本日はあとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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