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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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14 無職の少年、お出かけ

 目覚めはいつも通りに。


 空が白み始めるころ。


 姉さんを引き剥がし、一階へと向かう。


 習慣づいた行動のままに、手早く食事の準備を整えて行く。



「おはよう。いつもこんなに早起きしてるの?」


「おはようございます、アルラウネさん」



 姉さんとは違い、二階から飛び降りては来ず、階段を歩く足音が聞こえていた。


 なので特に驚くこともなく応じる。



「いつもってわけじゃありません。けど、早起きすることは多いです」


「ボウヤに食事の用意までさせてるのね」


「姉さんは焼く以外できませんから」


「大雑把ねぇ。どっちに似たのかしら。さて、何か手伝えることはある?」


「大丈夫です。あ、でも、アルラウネさんは何を食べますか?」


「料理を食べるなんていつ振りかしら。お肉は食べられないから、野菜か果物で。量は少なめでお願いね」


「分かりました」



 姉さんは精霊との混血で、アルラウネさんは魔族。


 どちらも食事をあまり必要とはしない。


 元々、魔族や魔物は、一日に一度の食事で事足りるらしい。


 この世界樹においては、更に食事の頻度は下がるわけで。


 食事の用意が済むころ、狙い澄ましたように姉さんが起床した。






「これじゃあ、どっちが面倒見てるんだか分かったものじゃないわね」


「何よ。朝っぱらからお小言?」


「ボウヤに甘え過ぎじゃないかしら」


「違うわ。まだまだ甘え足りないぐらいよ」


「アンタねぇ……」



 食卓を囲むのは二人と一体。


 ブラックドッグとコロポックルは精霊なので、世界樹に居る限り食事は要らないらしい。


 よく理解してないけど、精霊は魔力を食べているらしい。


 人族や魔族、魔物なんかは自分で魔力を作れるみたいだけど、精霊はできないんだとか。


 今は世界中で魔法が使えないけど、精霊は元から魔法が使えないとも聞いた。


 でもその代わりに、魔力を使って色々なことができるんだって。


 魔装化っていうのも、魔力を使うみたい。


 魔力を消耗し過ぎたから、ブラックドッグは倒れちゃったんだよね。


 僕が無理をさせちゃったんだ。



「弟君」


「え?」


「もうお腹いっぱいなの? ちゃんと食べないと、外に行くんだから、お腹空いちゃうわよ」


「あ、食べます」



 考え事を中断し、食事に専念することにした。






 片づけを終えたころ、妹ちゃんがやって来た。



「おっはよー! っていい匂い! お腹空いて来たぁ」


「何よ。食べて来なかったの?」


「外で何か食べられるかなって思ったんだもん」


「まぁそりゃあ、食べ物はあるでしょうけどね。当初の目的を忘れてそうなのが心配だけど」


「魔族の集落に行くんでしょ」


「そうよ。何をするかは覚えてる?」


「うんと、えっと……何だっけ」


「アンタたちを鍛えてあげるの」


「そだっけ?」


「ハァッ、まぁいいわ。早速行きましょうか」



 姉さんが立ち上がるのに合わせて席を立つ。


 アルラウネさんはコロポックルを抱いて。


 ブラックドッグも長椅子から下り、足元へと寄って来る。



「行きは楽だけど、帰りは自力じゃ無理ってのが不便よね」


「コロポックルが居るから今回は楽でしょ」


「そうなんだけど。こう、家まですぐに帰って来たいじゃない」


「そもそもアタシにアンタみたいな便利な力は備わってないもの。共感よりも憧れの方が強いわよ」


「憧れの的だったとは意外だったわ」


「馬鹿言ってないで、さっさとなさい」


「はいはいっと」



 姉さんが壁に近づき、手をかざす。



ゲート



 変化は瞬時に、そして明確に現れた。


 一昨日見たばかりの、縦長の楕円形をした空間の歪み。



「先頭はアルラウネが行ってね。帰りの手段はコロポックル頼りなんだから」


「分かってるわよ」



 躊躇なくアルラウネさんが歩いて行き、姿が掻き消える。



「すっごーい!」


「さ、二人とも入った入った」



 姉さんに背を押され、妹ちゃんと共に歪みへと迫る。



「グニャグニャしてるねぇ」


「思い切って入りな、さい!」



 一際力強く背が押された。


 つんのめるように身体が歪みを通過する。



「キャッ⁉ もう、乱暴ね」



 倒れ込むことなく、先行したアルラウネさんに二人して抱きとめられる。


 腕の中に居たはずのコロポックルは、頭上をフワフワと飛んでいた。


 見上げる空が遠い。


 背後を振り返れば、歪みの更に奥、視界一杯に壁が存在していた。


 大きい。


 上も右も左も。


 ずっとずっと続く壁。


 たった一本の世界樹でこの威容。


 これが複数も連なっているらしいのだから、とんでもない。


 ポフッ。


 唐突に視界が闇で覆われる。


 顔面に伝わるのは温かくも柔らかな感触。



「あらあら、ほんの僅かしか離れてなかったのに、もうお姉ちゃんが恋しくなっちゃったの?」



 頭上から降って来るのは聞き慣れた姉さんの声。


 丁度姉さんも移動して来たらしい。



「プハッ。違います」



 今回は抱きしめられていなかったので、すぐに脱出することができた。


 姉さんの横から、ブラックドッグがすり寄って来る。



「くっついたり、くっつかれたり、弟君の取り合いでもしてるみたいね」


「ちょっと。集落なんて無いじゃない」


「いきなり集落内に移動したりはしないわよ。ここからそんなに離れてないわ」


「歩くの?」


「当然。アルラウネもこの機会に少しは運動しなさいよ」


「もしかして、わざと離れた場所に移動したんじゃないでしょうね?」


「さぁて、どうかしら」



 あぁ、やっぱり空気のニオイが違う。


 人族の町よりはマシだけど、上よりかは色んなニオイが混じってるような。



「ほえぇー、世界樹って、こんなにおっきいんだねぇー」



 隣りでは、同じような感想を抱いたらしい妹ちゃんが、身体を仰け反らせるように見上げていた。


 てっぺんなんて、当然見えない。


 あの場所へ行くことも、あの場所から下りることも、普通は無理そうだ。



「ほら二人とも。ここは世界樹の外なんだから、無警戒でいては危険よ」


「そうね。魔族はともかく、魔物が襲って来る可能性は常にあるから、決してアタシたちから離れては駄目よ」



 そう言う割には、どっちも武器を持ってないけど。


 大丈夫なのかな?


 周囲に何か潜んでいるような気がして、徐々に怖くなってくる。



はぐれるといけないから、手を繋ぎましょうか」


「こんな平原ではぐれるもないでしょ」


「用心よ用心。さ、弟君」



 こちらへと差し伸ばされる手。


 いつだって守ってくれる、姉さんの手。


 握り締めれば、不安も薄れていく。



「お昼までには着くはずよ」


「そんなに遠いの⁉ もう最悪だわ」



 もう片方の手を妹ちゃんと繋ぐ。



「えへへ。何かウキウキだね!」



 そうかな、どうかな。


 これから行く集落に居る魔族も、周囲に居るかもしれない魔物も。


 好奇心よりも不安の方が大きいかも。






本日は本編15話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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