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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
199/230

134 無職の少年、勇者に挑む⑤

 あの日以来の聖都。


 ゲートを通って現れたのは、どこかの建物の陰。


 見た目こそ変わらないが、雰囲気が異なっている。


 路地裏にさえ聞こえていた喧騒がない。


 ニオイも、どことなく違っているように感じられる。



「そんじゃ、こっからオレたちは別行動だ。正門側へ向かい、騎士団の陽動と住民の避難に当たる。目処がつき次第、急いで合流するつもりだ」


「ええ。ただし、いつまでもは待っていられないからね」


「ああ。肝に銘じとくよ」


「では、皆様もどうか御武運を」



 短い遣り取りを終えると、団長と聖女さんが駆け出す。


 方向からして、路地裏から出て、街路を移動するつもりらしい。



「さあ、アタシたちは塔へ向かうわよ」


「未知。人族の町は非常に興味をそそられる。是非とも散策したい」


「全部終わったら、好きになさい」


「マスター、自重してくださいデス」


「無念。実に無念」



 姉さんを先頭に、路地裏を駆け抜ける。


 と、程なくして、遠くのほうから大きな音が響いてきた。



「あっちは陽動を開始したみたいね。弟君、もし塔内に標的が居ないようなら、正門を目指すこと。いいわね?」


「はい」



 塔から正門までは真っ直ぐ一本道だったはず。


 反対側へ向かえばいいだけだ。


 迷う心配もない。



「苦行。聖都くんだりまで来て、塔を上ることになろうとは」


「いや、アンタ、おぶさってるだけじゃない」


「ごーれむちゃん、頑張るデス」



 当然のように、僕が最後尾を走ってる。


 隣にブラックドッグが並走してくれてはいるけど。


 着慣れない皮鎧が、殊更に重く感じる。



「っと、流石に警備の連中までは無理だったみたいッスよ」



 一際大きい建物の陰を抜けると、塔はもう目前だった。


 その手前に、鎧を着込んだ騎士たちが整列していた。



「……居たわね」



 姉さんの短い呟き。


 探すまでもない。


 列から突出している白い鎧。



「他の連中を片付けて、中に急ぐわよ」


「うッス」


「奇襲。初手は任せて」



真空ヴィドゥ



 突然、騎士たちがその場で苦しみ始めた。


 賢姉けんしさんが何かの魔法を使ったらしい。



「行くわよ! ……弟君、気を付けて。ブラックドッグ、頼んだわよ」


「はい」


『任された』



 姉さんたちが速度を増すのに反して、僕たちは足を緩める。


 銀の鎧が宙を舞う。


 白い鎧だけを残して。






「お待ちしてましたよ。それはもう随分と」



 悠長に話しかけてきた。


 姉さんたちのお蔭で、他の騎士たちは全て排除されている。


 邪魔者は居ない。


 2対1。



「お仲間を頼らずに良かったのですか?」



 これで三度目。


 いや、あの日を含めるなら、四度目になる。


 ズキリ。


 頭が痛む。


 思えば、最初に戦ったのも、もしかしたらこの辺りだっただろうか。



「……口を聞くのもお嫌でしたか」



 もう次はない。


 これで最後。


 手を握る。


 強く強く。


 緊張などしている場合じゃない。


 訓練じゃない。


 これが本番なんだ。



「であれば、これ以上のお喋りは時間の無駄でしょうかね」



 赤い記憶を思い出す。


 お父さん……お母さん……。


 ズキンズキン。


 頭が痛む。


 ドクンドクン。


 胸が疼く。


 薪をくべ、燃料を注ぎ、そうして心を燃やす。



「そろそろ戦いま──」



魔装化まそうか



 相手に付き合わず、こちらのタイミングで動く。


 イメージする。


 ブラックドッグを魔装化まそうかさせ、それを着込むように。


 勇者を──。


 ズキン。


 頭が痛む。


 ──倒す!



『決着を』


「うん」



 一直線に距離を詰める。


 ブラックドッグの魔法封じは、未だ不完全。


 近距離のみしか対応していない。


 とは言え、元より遠距離攻撃では、あの鎧をどうにもできやしない。



光壁ウォール



 遮るように、光の壁が出現する。


 尻尾が力強く地面を弾く。


 その勢いで横にズレ、光の壁をやり過ごす。


 後、もう少し。



「以前と同じ獣の姿に見えて、その実、動きは洗練されているわけですか」



光糸ストリング



 光る縄のようなものが、こちらへと放たれる。


 また魔法を使われた。


 同時に、距離を取るように離れてゆく。


 縄の脇を駆け抜ける。


 と、縄がほどけ、無数の糸へと変じてゆく。



『それに触れるな。斬り刻まれるぞ』



 とんでもない忠告が頭の中に響く。


 追跡を諦め、糸から逃れることを最優先する。



「……おや? これは初披露のはずですが、上手く躱されてしまいましたか」



 建物が邪魔だ。


 さらに進路を変更する。


 すぐ背後では、建物が細切れにされてゆく。



「おっと、これはマズい。中々に扱いが難しいですね」



 また距離が空いた。


 接近しないといけないのに。



「まずは、厄介な脚を止めるべきでしたかね」



光縛ロック



 身体の動きが強制的に止められた。


 光の鎖が身体中に巻き付いている。


 その間にも、糸の群れが容赦なく迫ってくる。



『マズいな。一度、魔法を無効化する』


「うん、お願い」


『魔力をかなり消耗する。できれば回復を』


「分かったよ」



 鎖が消える。


 さらには、当たろうとしていた糸の群れも、先端部分だけがゴッソリと消え失せていた。



「何だ? 今のはいったい……?」



 再び移動を開始する。


 同時に、魔装化まそうかの一部を解除して、ポーチからエーテルを取り出す。


 中身を飲み干しつつ、さっきの出来事を反芻はんすうする。


 危ないところだった。


 足止めと攻撃の合わせ技。


 いや、合わせ魔法、か。


 実に厄介極まりない。


 エーテルは残り2本。


 乱発はできない。


 早く接近して、仕留めないと。






本日は本編135話までとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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