133 無職の少年、いざ決戦の地へ
「本当に大丈夫なのね? 無理してない?」
「はい」
昨日とは違う。
身体はちゃんと動いてる。
強張ってもいない。
頭だって、考えられてる。
僅かに緊張してるとは思うけど。
でも大丈夫。
今日こそ終わらせる。
「準備はどう? 忘れ物は無い?」
改めて確認してみる。
皮鎧は着込んだ。
短剣は二本とも腰に差してある。
ポーチも腰に着けたし、中にポーションとエーテルを三本ずつ入れてある。
ブラックドッグも一緒にいる。
何も忘れてないし、問題もない。
「大丈夫です」
「そう。きっとお腹が空くと思うから、夜はみんなで食事にしましょ」
「手の込んだものじゃなくてもいいですよね」
「ええ。疲れてもいるでしょうしね」
お互いに黙り込んで、屋内を眺める。
思い出に浸る必要はない。
帰ってくるんだ。
必ず、この家に。
「行きましょうか」
「はい!」
何だか久しぶりに訪れた、植物に覆われた空間。
ドリアードさんの住処。
「おう、今日は行けそうな感じかい」
最初に声を掛けてきたのは、丸い鎧を着た団長さんだった。
「もちろん。みんなも覚悟はいいかしら?」
「当然だ」
「はい」
「うッス」
聖女さんとオーガ兄も短く応じる。
これで全員なんだ。
随分と少なく感じる。
相手は教皇って人と聖騎士が4人、そして勇者と騎士団全員。
ズキン。
頭が痛む。
数では圧倒的に不利に思える。
「じゃあ、賢者たちを迎えに行ってくるわ」
≪門≫
姉さんが歪みの中へと姿を消す。
そっか、賢姉さんたちも参加するんだっけ。
「よう、調子はどうよ」
「あ、うん。昨日は御免なさい」
いつもの腰巻きに加え、見慣れぬ手甲と脚甲を着けてるオーガ兄だ。
「気にすんな。誰も責めちゃいねぇよ。単にオマエが心配なだけだ」
「僕は大丈夫だよ」
「ここが正念場だぜ。油断せず、全力でぶちかませ」
「うん、頑張ってみるよ。ええっと、その恰好って」
「コレか? どうよ、いい感じだろ。親父の収集物から拝借したんだ」
ドクン。
胸が疼く。
「そうなんだ。触ると痛そうだね」
「そりゃまぁ、そういうためのモンだからな」
何て言うか、トゲトゲしてる。
ドラゴンの鱗を、もっと凶悪な形にしたような感じ。
「多少の魔法耐性もあるっぽいんだぜ」
「へ、へぇ……」
それって武器か防具、どっちなの?
「お待たせ~」
「遅参。本日は微力ながら共闘させてもらう」
「お手伝いに来たデス! よろしくデス!」
姉さんたちが帰ってきた。
そのまま作戦会議が始まる。
「騎士団のほうは任せていいのよね?」
「応とも。元々、昨日決行するつもりだったからな。命令は撤回せず、そのまま部下には動いてもらってる」
「……それ、大丈夫なの? こっちの動きがバレてるんじゃない?」
「当然、表立ってのことじゃねぇ。予定外も想定内ってなもんさ。なぁに、半年も仕込みをしてたんだ、抜かりはねぇとも」
「とにかく任せたから。せめて弟君の邪魔はさせないで頂戴ね」
「無粋な真似はさせねぇさ」
「騎士団はお任せください。収拾がつき次第、援護に向かいます」
「オレは姐さんと本拠地に乗り込めばいいんスよね」
「賢者たちも一緒にね。賢者は補助役だし、戦えるのは3名だけどね。対して、相手は教皇と、取り巻きの聖騎士4名」
「あー、そのことなんだがな」
「……この期に及んで、何かあるの?」
「女の聖騎士に関しちゃ、後回しにしといてくれねぇか。嬢ちゃんと一緒なら、説得できるかもしれねぇ」
「団長……」
「……そうなの? なら、できるだけ気を付けておくわ。で、例のは?」
「若い男だ。下品なのがいたら、ソイツで間違いねぇ」
「分かったわ。その2人は後回しってことで。アンタもいいわね?」
「うッス。するってぇと、先にジジイを倒したらいいんスかね」
「それでいいわ。アタシが全体を牽制するから、アンタが個別に潰して。賢者たちはフォローをお願い」
次々と遣り取りが進んでいく。
誰も怖がってなんていないみたいだ。
「──そろそろ話は纏まったようじゃな。世界樹の防衛はこちらに任せ、存分に暴れてくるとよい」
「おいおい、町への被害は抑えてくれよ。住民を避難させるのは、これからなんだからよう」
「こっちに聖騎士が来ないとも限らないんだから。十分に気を付けてよね」
「──もしも現れたなら、妾自らが相手してやるわい」
「アルラウネ、無茶しないように、アンタが見張っておきなさいよ」
「言われなくてもそうするわ。また後で会いましょう」
「ん? ええ、そうね」
ドクドクドクドク。
鼓動が早まってるのを感じる。
いよいよなんだ。
無意味に手の開閉を繰り返す。
と、その手を取られた。
そのまま前へと引っ張られる。
「景気づけよ。ほら、みんなも手を出して」
どういう意味があるのか。
手の平が重ねられてゆく。
「目標は教会の打倒。目的はみんなで無事に帰って来ること。大事なのは後者よ、いいわね?」
「おう!」
「はい!」
「うッス!」
「デス!」
「了解」
手の平が下へと押され、振り上げられた。
何かの儀式だろうか。
訳が分からない。
「弟君もよ。分かった?」
「えぇっと……多分、大丈夫だと思います」
「おどおどしてる弟君も可愛い!」
ゴチン。
抱き寄せられて、鎧へと顔面が叩き付けられた。
本日は本編135話までとSSを1話投稿します。
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