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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
196/230

131 無職の少年、迫る決戦のとき

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 勇者との決着に向け、少年とブラックドッグは新たな力を得た

 日々が過ぎてゆく。


 戦闘訓練では、聖女さんの剣に対応しつつ、新しい魔装化まそうかにも少しずつ順応していって。


 自主訓練では、身体作りと型稽古を。


 ブラックドッグは、魔法封じをアルラウネさんと試している。


 猶予がどれだけ残されているのか知れない。


 僅かも時間を無駄にはできない。


 かといって、劇的な成長などできようはずもなく。


 遅々とした歩み。


 地味で地道な努力を、ただひたすらに続ける。


 次で終わらす。


 次こそ決着させるために。






「はうぅ~」


「随分疲れてるみたいね。無理してない?」


『オツカレ?』


『ガンバリ、スギ?』



 お風呂に浸かり、息を吐いただけで次々に心配されてしまった。



「頑張ってもいますし、疲れてもいます。けど、いいんです」



 努力することに満足感を得ていては駄目なんだろうけど。


 ずっとずっと、諦めてた。


 何にもなれやしないんだって。


 努力するだけ無駄だって。


 けど、違った。


 ちゃんと、成長してる。


 成長できてる。


 他の人に比べれば、全然大したことないんだろうけど。


 僕にとっては、世界が広がった気分なんだ。



「僕は、僕自身を信じてなかったんですね」


『ドユコト?』


『ムズカシイ』



 プカプカ浮いてるスライムたちをつついてやる。



『『ア~レ~』』



 お湯の上をゆっくりと進んでゆく。


 勢いは僅かなもの。


 すぐに止まってしまう。


 僕だけじゃなく、みんな同じなのかも。


 一度に進める距離が違うだけで。



「弟君は何でも難しく考え過ぎ。それだけ頭がいいのかもしれないけど、もっと子供らしく振舞ったって構わないのよ」



 子供らしくって何だろう。


 ただ分かるのは、目指すモノではないってことぐらい。


 姉さんが湯を波立たせ、スライムたちをこちらに押し流す。



『ユラユラ』


『ラクチン』



 目指す場所へと、すんなりと辿り着けやしない。


 立ち止まって、引き返して、別の道を探して。


 それでも歩くしかない。


 そうしなきゃいけなかったんだ。



「そう言えば、妹ちゃんの様子はどうですか?」


「相変わらずよ。ほとんどケンタウロスの集落に泊まり込んでるみたい」


「……そんなにお兄さんが苦手なんでしょうか」


「別にそこまで同居を嫌がってるわけじゃないと思うわよ。ただ何か役に立ちたいんだと思うわ。あと、弓の練習もしてるみたいだしね」



 役に立ちたい、か。


 家だと色々と考えちゃうのかな。



「案外、弟君に触発されたのかもしれないわね」


「僕にですか?」


「だって、凄く頑張ってるもの。見てるとこっちも頑張らなきゃって気持ちになるわ。集落のみんなも、積極的に動いてくれるようになったしね」



 最近は、みんなの視線を気にすることもなくなってた。


 そんな余裕がないだけだろうけど。


 僕が何かを変えてるなんて、考えもしなかった。



「それって、いいことなんでしょうか」


「どうして?」


「僕がやってるのって、戦うための訓練ですし……」


「お姉ちゃんは良い変化だと思うわよ。皆、今までは受動的過ぎた気もするしね。もちろん、弟君の行動だけが要因じゃないと思うわ。色々なことが起こった結果でしょうけどね」



 事態が収拾したら、また元に戻れるのだろうか。


 僕も、みんなも。


 目的を果たしたら、僕はどうするんだろう。


 今まで、考えたこともなかったな。



『アツアツ』


『マダ、デナイ?』


「あら、のぼせちゃったかしら。そろそろ上がりましょうか」


「はい」



 急いでお湯から出してあげて、水を張った桶に入れてあげる。



『ツメタイ』


『ジュワ~』


「無理して入ってなくていいんだよ。熱くなったら上がってね」


『イッショ、ダメ?』


「そんなことないよ。ずっとお湯に入ってなくていいから」


『ガンバル』



 ちゃんと伝わってるのか、不安な返答だ。


 気を付けてあげないと。


 僕たちを余所に、ブラックドッグだけは気持ち良さそうに浮かんでた。






「お風呂、空いたわよ~」


「あ、はーい。では、いただきますね」



 お風呂の順番は、その日によって異なる。


 今日は僕たちが先に入ってた。


 入れ替わるようにして、聖女さんがお風呂場へと歩いていく。



「長湯だったかもだし、少し冷ましてからベッドに入りましょうか」


「分かりました」



 促されるまま、居間の椅子に座る。


 机の上にスライムたちを乗せてあげる。



『ヒンヤリ』


『キモチイイ』



 形を崩して、机に熱を移してるらしい。



「さて、と。ちょっと真面目なお話をしましょうか」



 横に座った姉さんが、こちらへと身体ごと向けてきた。


 応じるように、身体の向きを変える。



「聖都で動きがあったみたいなの。また、世界樹を襲うつもりのようね」


「つまり……」


「そう。部隊が出発した後、聖都へと攻め込むつもり。ただ、弟君たちの準備が不十分なら、延期してもいいわ」



 勇者との対決。


 ズキリ。


 頭が痛む。


 遂にきたんだ。


 まだまだ完璧なんかじゃない。


 不安だってある。


 ……けど、前よりも戦えるようになったと思う。


 剣の対策も、鎧の対策も、魔法の対策も立てた。


 いつまでも先延ばしにはできない。



「戦えます」


「……いいのね?」


「はい」


「近日中には決行することになると思うわ。それまで訓練は厳禁。十分に身体を休めておいて」


「分かりました」



 じんわりと緊張が広がっていく。


 選択はした、してしまった。


 もう、進むしかない。






本日は本編135話までとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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