表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
195/230

SS-55 ブラックドッグの望み

 かけがえのない記憶。


 最初は敵として戦った。


 容易く制され、以後、行動を共することになる。


 不思議な人だった。


 他の者たちと異なり、敵意を向けてくることはなく。


 それは魔物に対しても同様に。


 寝食すら数え切れぬほど共にして。


 代わりに、助力を請われることは稀だった。


 戦いのない、穏やかな日々が続く。


 そうしてゆく内に、関係も変わる。


 友と、そう呼んでくれた。


 今は遠い過去のこと。


 しかして、誓いは今も確かに残っている。






 今、求められているのは力。


 かつての友の後継が、今の友が。


 厳しい戦いへ臨まんとしている。


 その助けとならねば。


 もう何も、失われせなどさせないために。



おさよ。ご教授願う』



 友と出会う前に別れたきりだった同胞たちと、そのおさ


 青白い輝きを纏う白狼を見上げる。



『もう食らわずとも良いのか?』


『友を悲しませるは本意にあらず』


『その覚悟、できれば他の形で見たかったものだ』



 金色の瞳がこちらを見据える。


 視線を逸らすことなく、見つめ返す。



『……フゥ、やれやれだ』



 巨躯がゆっくりと姿勢を変える。


 地面に伏せた。


 周囲の精霊たちも、各々好きに振舞い始める。


 多くは遠巻きに見ているだけだが、一部が友の近くへと移動してゆく。



『キサマら、何のつもりかは知らぬが、危害を加えたら承知せぬ』


『襲うでないぞ。敵として招き入れたわけではない』



 分かっているのかいないのか。


 まだ近付いてゆく。



『止まれ!』



 巨大化して吠える。


 ようやく足を止めた。



『気が散るようだな。場所を移すか』



 言葉と同時に景色が一変する。


 無明の闇。


 おさの姿はおろか、己の姿すら視認できない。






『これでよかろう』


『此処はどこだ。友は無事なのか』


『領域、結界、好きに呼べ。要は住処と同じだ』



 移動させられたのか?


 それとも、この周囲だけ変化されただけなのか?



魔装化まそうかが己の魔力を変化させるすべならば、住処とは周囲の魔力を変化させるすべ



 闇の中から重厚な意思のみが頭に響く。



魔装化まそうかは可能と聞いた。ならば、そう難しいことではなかろう』


『つまり、どうしろと』


『その闇は光と音を遮断し、常に纏わりつくよう定めた。それを晴らしてみせよ』


『望んでいるのは、魔法を封じる力だ』


『住処の中ならば、あらゆるを思うがままにできる。魔法を封じることも可能だ』



 住処を創り出せれば、魔法を封じることが可能というわけか。



『教えは授けた。後は自力で会得することだ』



 その言葉を最後に、意思が途絶えた。


 思うに、どうやら住処とは、魔装化まそうかに似た力らしい。


 違いは内か外か。


 何とかして周囲の魔力を変化させればいいわけだ。


 己の体を変化させるのは容易い。


 霧化したり巨大化したり。


 小さくもなれる。


 特別、魔力を変化させてるつもりはない。


 急激に魔力を消耗するのは、魔装化まそうかした場合。


 しかし、やっているのは相手の望む姿に変化するだけ。


 己のみで成し得てはいない。


 この場に友は不在。


 魔装化まそうかすら、可能か不確かだ。


 かつても今も、何も変わっていない。


 何ら成長していない。


 時間など幾らでもあったというのに。


 友の血族を守れなかった。


 悔やんでも悔やみきれない。


 そうして友すら守れないなど、あってはならない。






 つね魔装化まそうかは、己を希薄にする感覚。


 全てを相手に委ねる。


 しかし、昨日のは違っていた。


 意識が残っていた。


 思考し、行動することもできた。


 あれはどうやったのか。


 友が導き出した、新たな形。


 同一ではなく共同。


 共に在り、共に戦う。


 友は成長している。


 これからも、そうなのだろう。


 共に在るとは、後を付いて行くことでは、きっとない。


 隣に並び立つ。


 誓いを果たす、果たし続けろ。


 友を想う。


 かつての友を、そして今の友を。


 求めに応じたい。


 今、頼りとなる意志は共にない。


 闇に隔てられ、無事かすらも定かではない。


 守るのだ。


 例え、何処であろうとも。


 守りにゆく。


 意識を向けるべきは外。


 求める存在は外にこそある。


 光は無い、音も無い。


 この状態で感じられるモノとは何か。


 気配?


 いや、それもない。


 振動?


 それも違う。


 空気?


 遮断はされていない。


 近い、けれども違う。


 感じるべきは魔力。


 友を守るために、邪魔する全てを排除する。






『もう破ってみせたか。やはり他の眷属とは違うな』



 光が、音が、戻ってくる。



『会得……したのか?』


『世界を創造し、在り方を定めよ。己にとって都合の良いように、敵にとって都合の悪いように』


『これで魔法を封じられるのだな』


『そう定めれば、な。使いこなしてみせよ』


おさよ、感謝する』


『我が眷属よ。再びの邂逅を。願わくは、また300年後などではなく、な』



 夕焼けが、荒野が消え去る。


 おさや精霊たちの姿もない。



「あら、随分とあっさり居なくなったわね」


「大丈夫だった?」



 巨大化したはずが、元の大きさに戻っていた。


 首へと友が抱きついてくる。



『力を得た……はずだ。必ずや使いこなしてみせる』


「喧嘩にならなくてよかったよ」


『心配をかけた。済まない』



 顔を摺り寄せる。



『ギュー』


『ウラヤマ』


「はいはい、アンタたちは邪魔しないの」



 新たな形、新たな力。


 次こそは倒す。






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

遂に、聖都での決戦が始まります。

主人公の戦いにも、ようやくの決着が……?


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ