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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
194/230

130 無職の少年、成長の可能性

 夕焼けを遮る影。


 影が大きさを増すほどに、地面の揺れも強くなっている。


 どれだけの数がいるのか。


 そして、一際大きい影がどんな姿をしているのか。


 不安が増してゆく。



「……まさかとは思うけど、力試しとか言って、襲ってきたりしないでしょうね」


『そんな真似はしない……はずだ』


「ホントぉ~? 友好的って感じがしないんだけど」



 このまま速度を緩めることなく、ぶつかってくるような想像をしてしまう。



「目的を忘れないでよ? 協力を仰ぎに来てるんだからね」


「なんでアタシに言うのよ」


「力試しとか、好きそうじゃない」


「どんな偏見よ、それ」


「とにかく、冷静な話し合いを心掛けること。いいわね?」


「はいはい」






 徐々に影が形を成し始めた。


 先頭は見慣れた赤い目と黒い体。


 ブラックドッグの群れ。


 何体いるのかも不明なほど数が多い。


 その後ろにも、見覚えのない姿が並んでいる。


 他に三種類。


 中央の一際大きいモノが、きっと上位精霊なんだろう。


 その両脇に、四足歩行と二足歩行の群れがいるようだ。



「先頭以外は見覚えがないわね。アルラウネなら分かる?」


「いいえ。魔物じゃなく精霊だもの。アタシに分かるはずもないわよ」


「なら、コロポックルはどう?」


『知らないポー』


「それは残念。熊っぽいのはともかく、あの青だか緑だかの色味の毛だらけのは何かしらね」


『モジャ、ビッグ!』


『モジャ、ナカマ』



 何故だか腕の中でスライムたちが興奮している。



「さて、ようやくのご対面ね」



 揺れが収まってゆく。


 幸いなことに、ぶつかるつもりはなかったらしい。


 数百からなる群れの中から、一際巨大な獣が進み出る。


 青白い光を帯びた白い毛獣。


 巨大化したブラックドッグと同じか、それ以上の大きさに見える。


 優にこちらを踏み潰せる足が、至近で停止した。



『久しいな、我が眷属よ』



 ブルッ。


 頭の中で響く声に、知らず身体に震えが走る。



おさよ。此度は求めに応じていただき、感謝する』


『眷属のためとあらば、労は惜しまぬ。ようやっと群れに戻る決心がついたか』


『いえ。友に報いるべく、行動したく思います』


『……意志は些かも変わらぬか。ならば何用か。余所者まで引き連れおって』


『助力を請いたい』


『汝が、我の力を? それとも、余所者どもに貸せと?』


『どちらでもある』


『戯言を。我らは人とも魔とも交わらぬ』


『世の平和を維持するため。どうか力添えを』


くどい。幾ら請われようと、応じはせぬ』



 何となく、上手くいってない気がする。



「発言してもいいかしら?」


『……キサマ、人か? いや、何か似た匂いを感じるな』


「土の精霊と人族との混血よ」


『新たな種というわけか。風の眷属ならば、即座に踏み潰してやったものを』



 何それ怖い。


 指定してくる辺り、仲でも悪いんだろうか。



「それで、話してもいいのかしら?」


『必要あるまい。眷属と同じ内容であろう』


「あら、随分と頭が固いのね」


「ちょっと⁉ 冷静な話し合いはどうしたのよ⁉」



 姉さんの物言いに、アルラウネさんが慌てだしていた。



「どうせ駆け回ってるだけで暇してるんでしょ? お願いした間だけ、とある場所で魔法を封じて欲しいのよ」


『俗世なぞに関わる気はない』


「アナタたちだって、この世界の生き物には違いないでしょ。世が乱れれば、アナタたちにだって悪影響が及ぶはず」


『害が及ぶならば排除するまでのこと。我らが踏み潰してくれる』


「だから、そうならないために必要なんだってば」


おさよ。どうか頼む』


『返答は既に済ませた。変わることなぞ永劫あり得ぬ』



 ……駄目みたいだ。


 やっぱり、自分で魔法に対処するしかないんだね。



『……ならば、欲する力を奪わせてもらうまでのこと』


『ほぅ……我を食らうとでも申すか』


「そんな⁉ 止めてよ! そんなことしなくていいよ!」



 低い唸り声を上げるブラックドッグの首にしがみ付く。



『離れていろ』


「駄目だってば! この精霊たちは、ブラックドッグの家族なんでしょ⁉ そんなことしないでよ!」



 ドクン。


 胸が疼く。



『よもや、そこな子供のために我と争うつもりか』


『友だ。守ると誓った。そのために力が必要なのだ』


『人に懐くなど、動物の如き所業』


『そも、動物を母として生まれた存在。違いなど、そうあるまいよ』



 ドクン。


 胸が疼く。



『母を愚弄するか』



 ドクン。


 胸が疼く。



「戦うなんて止めてよ。もう十分、僕を守ってくれてるよ」


『力及ばず、敗北をきっした。このまま挑むのは愚策。魔法を封じる力があれば、勝利は揺るぐまい』



 聞き入れてくれない。


 僕じゃ止められない。


 どうして。


 こんなこと、望んでない。


 こんなことになるなら、来なかったのに。



「はいはい、落ち着きなさい。食べたら力が得られるとか、どんな発想よ」



 ブラックドッグの前に、姉さんが立ちはだかる。



『退け。邪魔をするな』


「弟君が嫌がってるじゃない。弟君に嫌な思いをさせて、満足かしら?」


『それは……いや、しかし』


「擬似的にだけど、魔装化まそうかはできてるじゃない? なら、上位精霊になる素養はあるんじゃないかしら」


しかり。我が後継にと思っておるが、頑なに聞き入れぬ』


「やっぱりね。無茶な真似はせず、きちんと力の使い方を教わったらどう?」


『……おさよ。そんなことが可能なのか』


『前例はない。力の割譲無しに、下位が上位に成り得るのか』


「弟君は地道に訓練を続けてるわ。アナタはどうするの? 成長できないって諦める?」


『……諦めたりはしない。友の力となる。なりたいのだ』






本日はあと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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