127 無職の少年、新たな魔装の姿
『ナニカナ?』
『オマチカネ』
「はいはい、大人しくしてなさい」
アルラウネさんに抱えられたスライムたちが騒いでいる。
少し距離を空けて、丸い鎧姿の団長さんも居る。
今日も今日とて、訓練が始まる。
「昨日した話は覚えていますか?」
「はい、もちろんです」
「折角ですし、これから試してみては如何でしょう」
「まだできるか分かりませんけど」
「だからこそですよ。物は試しとも言いますし」
昨日の話。
今は受け身だけになっているブラックドッグの意識。
それを、僕の意識と同じく、ハッキリさせてみるというもの。
一人と一体が、本当の意味で一緒に戦う。
可能なのかすら定かじゃない。
「いいじゃねぇか。何の話かは知らねぇが、折角の訓練なんだ。試せるものはどんどん試していけ。危ねぇと判断すりゃ、オレが必ず止めてやるからよ」
ずっとずっと、ブラックドッグは頑張ってくれていた。
僕一人じゃ戦えやしない。
頼るしかない。
命懸けなのは、僕だけじゃないんだ。
僕が負ければ、ブラックドッグだって無事では済まない。
勝たないと。
強くなるために、できることは全てやる。
「今までより頼ることになっちゃうかもしれない。それでも協力してくれる?」
『無論だ。共に在り共に戦う。かつても今も変わらずに』
しゃがみ込んでギュッと抱きしめる。
大事な友達。
それを僕の都合で戦わせるなんて、間違ってるのかもしれない。
けれど。
例えそうなのだとしても。
勇者を倒さなければ、どこにも進めない。
ズキン。
頭が痛む。
「ありがとう。ゴメンね」
「先手は譲ります」
剣こそ抜いてるものの、その場から動こうとはしない。
今、試せということなのだろう。
いつもと同じでは意味がない。
考えろ。
ブラックドッグにできることは何か。
黒霧になったり、吠えたり、引っ掻いたり、噛みついたり、大きくなったり、離れた相手を攻撃したり。
魔装化して、それらを使ったことがあっただろうか。
ブラックドッグと魔装化は別物と考えていたように思う。
魔装化は思ったとおりに、考えたとおりに姿形が変わる。
イメージする。
一緒に戦う姿を。
いつも、一緒に戦ってはくれた。
でも、そうじゃない。
僕を手伝ってくれてただけ。
力を貸してくれてただけなんだ。
魔装化して、けどブラックドッグとも一緒にいる状態。
どうやったらいい。
2つを1つ、1つで2つ。
だから、ええっと、つまり……。
≪魔装化≫
黒霧が纏わり付く。
イメージするのはいつもの鎧姿ではなく、ブラックドッグの姿。
魔装化でブラックドッグを創る。
それを鎧として着るのだ。
……ど、どうかな。
『意識はある。これが望んだ形か』
聞こえる。
ブラックドッグの声が。
『共闘を。今こそ共に戦おう』
うん。
戦って、勝つんだ。
「鎧……ではあるのでしょうか。頭は犬で体は人。最初に見た姿に似ていますね」
自分の身体を見回してみる。
全身真っ黒。
いつもより鎧が薄い。
うわ、指先が一回り大きいし、尖ってて痛そう。
足は靴じゃなくて、指先が分かれてる上に、こっちも尖ってる。
あれ?
脚の間に何か見える。
背後を覗くと、尻尾が生えてた。
あ、何か動かせそうかも。
ピョコピョコ。
『尻尾の動作は受け持とう』
「うん、じゃあお願いするよ」
改めて手を見てみる。
この爪、短剣持つには邪魔だなぁ。
『仕舞えばよかろう』
あ、そっか。
普通の手をイメージしてやれば、すぐに変化した。
具現化した短剣も、ちゃんと握れる。
なんだろう、この感じ。
身体がむず痒いような。
思いっきり動き回りたいような。
ワクワク、してる?
これで何ができるのか、試してみたい。
「やってみよう」
『ああ。それと、声に出さずとも考えは伝わる』
「そ、そうなんだね」
会話しようとすると、つい声が出ちゃう。
確かに、戦闘中に喋ってられないもんね。
じゃあ改めて、行くよ!
双剣を手に、聖女さんへと向かう。
「逆に動きが悪くなりましたね」
「あぅ」
訓練を終えての、聖女さんからの一言。
自分の身体が自分のモノじゃないみたい。
そんな感覚だった。
僕の意思とは別に身体が動くという、その違和感。
想像以上に難しい。
「察するに、身体の主導権争いをしている感じでしょうか。反応速度の違いが、悪い影響として出てしまってますね」
的確に分析されてるし。
「しかしながら、身体能力は向上していたように思います。訓練を重ねれば、自然な動作ができるようになるかもしれません」
「二人共、お疲れさん。いやはや、中々どうして。嬢ちゃんはこう言ってるが、オレは良かったと思ってるぜ」
「団長?」
「手練れであればあるほど、動きの癖を読む。相手の動きを予想して動くもんだ。その点、さっきの動きは理に適ってる」
「お言葉ですが──」
「待て待て。何も今のままでいいとは思っちゃいねぇさ。ただな、経験を積むにしろ、良さは無くすなってこった」
「良さ、ですか」
「ああ。時折見せた、動物的な動き。規則的に使い分けてちゃ、結局読まれる。態と同じ動作を繰り返し見せて、突然違う動作をぶっこむ、みてぇなもんだ。相手の意表を突け」
うーんと。
結局、どうすればいいんだろ。
自然に?
それとも意図的に?
「……少々、難しいですね」
「慣れだ慣れ。相手の嫌がる動きってのを意識してみるこった」
よく分かんない。
魔装の見た目について。
アヌビスですね。
犬の頭の下に主人公の顔が収まっています。
目は犬の部分と合わせて四つ。
元々は○トの紋章のブラックシーザーみたいにしようかと思っていたのですが、胸に犬の頭部は大き過ぎて邪魔かなと思い、この形態に。
イメージとしては騎士甲冑ではなく、変身ヒーロー物を想定。
全身のベースは光沢の無い黒で、手足の爪や墨入れ部分は光沢のある金色な感じ。
また、爪は指より一回り大きく、指先を覆っています。
本日は本編130話までと、SSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




